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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
第一章-10「厩舎」
「……アッデライドの姫と会ったぞ。なかなかに面白い奴だな」
「は? どこで!?」
「外。ちょっと飲んでたらな、迷い込んできたらしい」
「お前また外行ってたんですか。だから、仕事しろって言ってるでしょう」
「いいじゃないか、そんなに貯まってないし」
「溜めないのが普通だろ!」
「それより、だ。あの女、何を隠してるんだ? 場合によっては、反逆物だぞ。俺の身分を認識してるか知らんが―――場合によっては」
ファガルの口から出た言葉。それを聞いて、
アトラスはそこで、




ここのところ、嫌な話が続いていた。仕方ないとわかってはいても、人と関わることは難しい。
その点馬は良い。何も喋らずともわかってくれる。その目を見れば高貴で誇り高いのがわかる。こちらの言うこともよく理解し、答えてくれる。
「――そうだな、ディアル」
ふっと笑いを溢し、ブラッシングしていた手を止めた。
「さて、シェインだったか。隠れていなくてもいい。ディアルも気づいているぞ」
「あれ、バレてました?」
先日の少女だった。お使いの帰りのようで、荷物を持っている。格好も使用人のものではあるが、どちらかといえば外出着であった。
「ディアルが先に気づいた」
「さすがですね! お久しぶりです、ディアル。私のこと、覚えてます?」
シェインことサイラギが問えば、ふんっと鼻を鳴らして目を逸らす。そんなことを私に聞くのですか、来てなかったくせに、とえも言いたげな態度であった。
「すみません。侮ってたわけじゃないんです」
「ディアルも機嫌を直せ」
「食べ物で釣るようで嫌なんですけど、ちょっと外に出てたものでお土産があるんですよ」
そう言ってサイラギが出してきたのは屋台で買ったらしい人参だった。
「フォロのお土産なんです。ただ、こっちの人参は口に合わないみたいで食べてくれないんですよ」
「馬はグルメだからな」
男はサイラギから人参を受け取る。食うか、と聞くとディアルは無言で口を動かした。
「こう見えて、甘い物が好きなんだ」
「へえ。かわ……って言うと怒られますねまた」
「だろうな」
2人の会話がわかっているのかどうなのか、ディアルは人参を咀嚼すると「もっと」と催促するように鼻を鳴らす。サイラギからいまだ人参の香りがすることに気づいていたようだ。
「はいはい。ちょっと待って下さいね」
「じゃあ、ちょっと注意を向けててくれないか。寝床の掃除をするんだが、自分の場所をいじられるのが嫌らしいんだ」
「わかりました。ディアル、こっちに人参ありますよ。ちなみにこっちが高い奴でこっちが安い奴です!」
ディアルの意識がサイラギに向いている間に藁を整えゴミを掃く。馬は清潔な動物だ。不潔にしていては病気にもなりやすい。
「じゃあ、ちょっと外に出しますね」
「え、おい」
ディアルは気が荒いから危ないぞ、と口を出す前にサイラギはとっととディアルの紐を引いていた。特にディアルも反抗する様子はない。人参に釣られるタイプでもないから、純粋にサイラギに従っても良いと考えたのだろう。
(……どんな侍女だ………)
彼女の出身は大体予想がつく。目の色と顔立ちでわかる。バリスの民の血が濃いのだろう。彼は数少ないアッデライドの事情を知っている人物でもあった。バリスの民の血が入っている貴族はアッデライドくらいである。
そういえば、バリスの民は馬の扱いに長けているのであったか。
ふとアッデライド出身の元同僚を思い出して息を吐いた。ならば、心配あるまい。
「シェイン、あまり外に連れていくな。他の馬に影響する」
「わかりました。ここで待機してます」
厩舎から出た辺りで停止したらしい音がする。一番奥のほうにいるディアルにとっても太陽の光を浴びることはいいだろう。さっきまで外で訓練にかけずりまわっていたから、逆に太陽の光の元でのんびり過ごすことは少ない。
「えーと、騎士様?」
そういや名前を言ってなかったかもしれない。後でちゃんと自己紹介すべきかと思いつつ声に答える。
「どうした?」
「ブラッシングとか、私の道具を使っても問題ないですか?」
「普通の藁のです。あ、でも結構使ってるのでかなり柔らかくはなってますよ」
「じゃあ問題ない」
大体掃除が終了する。普段は厩舎に勤める熟練の老人に頼むのだが、今日は別件で仕事に就いていた。正直、今日来てくれたことはありがたい。
ゴミを集め、外のゴミ捨て場に持っていくため外に出る。
気持ち良さそうだった。首から流れるようにブラッシングされ、刺激される。おそらくそういうところは戦友でもある飼い主には見られたくないだろう。心の中で笑いを漏らして中に一度引き返す。
「騎士様、いいですよ。そろそろ終わりますし」
気づいていたらしい。笑いを漏らして、ひょっこりと顔を出した。サイラギが笑ってこちらを見ている。
「ディアルが気付きましたよ」
「そうか。気配には気を付けたつもりだったんだがな」
「馬に気づかせないのは無理ですね」
あっさりと言われ苦笑いで返す。
「だろうな。だが、無茶でもないだろう」
「魔法も魔術も使ってないんじゃ無理ですね。騎士様、相当この子仕込んでますもん」
「ああ、それだ」
再び騎士様、と呼ばれ言おうとしたことを思い出す。
「すまなかった。俺の名を名乗ってなかっただろう?」
「え、ああ……すみません。私も、お聞きするのもと思ってしまって」
「こちらが配慮すべきだったな。悪かった、私の名前は――」
突然の、馬の嘶きがそれを遮った。
「っフォロっ!?」
隣の厩舎は王妃候補者たちが連れてきた馬のものだ。慌てた口調にサイラギが世話をしている馬のものか、と悟る。
「―――うわっ」
馬から蹴りだされるように厩舎から飛び出した少年を見て、さらに目を見開く。少年は反動を利用して転がり、厩舎の入り口にあった魔道具を起動させて馬が飛び出してくるのを防いだ。反動で馬が体当たりをする。体が痛むだろうが、馬が暴走したらこの辺りはめちゃくちゃになるうえに、馬自身の体にも影響がある。彼らは自ら止まれない。
止めねばならない。反射的に柄に手をかけ、その場で術式を組み上げた彼の意識を、サイラギが奪った。
「リューイ!! どうしたっ!?」
「え、あ――ちょっと、何か仕掛けが………あ」
少年と目が合う。彼の術式は霧散した。
「こんな状況で言うのもおかしいが。久しぶりだな、リューイ」
「…………お久しぶりです」
「さて、と。とりあえずこの状況をどうにかしないとな。心配ない。ある程度の非常事態は予期されている」
安心させるように笑って見せる。心配そうな2人と、突然の事態には慣れているディアルが対照的で本当に笑ってしまったのはご愛敬だ。
「さて、起動するかな」
滅多に使われない非常装置だ。傍の木枠を外して中にある魔道具を操作する。どうやらちゃんと動くようだ。ちゃんと手入れをしているらしく、埃1つないことに感心しながら起動させた。
小さな音とともに、何かが噴出される。みるみるうちに馬が大人しくなった。体当たりした馬に先導され、動きが不安定になっていた他の馬も同様である。
「安定剤みたいなものだな。馬に影響はない。それよりリューイは問題ないか?」
「大丈夫です。問題ありません」
相変わらずの取り付く島もない口調に、変わってないなあと笑いを漏らす。隣ではサイラギが目を白黒させていた。
「え、リューイは……知り合い、なのか?」
「師匠です」
「ちょっと手技を教えただけだ。魔法のな」
別に彼とて魔法がそこまで得意ではない。彼の本分は剣術だからだ。ただ、得意でないからこそ反則に近い技や剣術と組み合わせた技を知っているというだけにすぎない。もちろん、実質はそれだけではないのだが。
「シェインこそ、リューイと知り合いだったのか。アッデライド家か?」
リューイと知り合いならば、ばれていても仕方がない。サイラギは頷く。むしろ、父親は母親と知り合いだったらどうしよう。
「はい」
「そうか」
何やら感慨深げな彼にちょっと不安を覚えた。それに気付いたらしく、彼は気にするなというように手を振る。
「すまないな。俺はザイルでいい。そう呼ばれ慣れている」
本名と違うのだろうか。疑問に思いながらも、偽名に近いものを使っている引け目のあるサイラギは小さく頷いた。
シェインという呼称から、アッデライドの姫であるということを悟ったらしい。リューイはあえて敬語を外した。
「シェインは、どうしてここに?」
「ちょっと馬が気になって…………」
とはいえ、フォロのところにいなかったのである。ばつの悪さを隠すように言葉じりを濁す。
「いいけど。アエラが怒ってたよ?」
「うっ、すぐ行きます! リューイは?」
「フォロの様子を確認してから、行く。――じゃあ、師匠失礼します」
「ちょっと待て。俺もチェックしよう。一応、これも仕事だ」
わずかに躊躇ったが、結局リューイは頷いた。
「お願いします。じゃあシェイン」
「大丈夫、迷子にはならない。それじゃ、また来ます」
「適当に、仕事の邪魔にならない程度にな」
それには返事をしないサイラギに、苦笑をもらす。じゃあ、と返事を返すと丁寧なお辞儀をした。
「あ」
「どうした」
「人参を」
ふと思い出したらしく、少し戻ってディアルに人参を渡し今度こそ去って行った。
後ろ姿を見送り、そうしてからリューイと顔を見合わせどちらからともなくわずかに笑みを溢す。もともと笑うタイプではない2人だ。外から見ても、無表情で見つめあっているようにしか見えなかったかもしれない。
「じゃあ、お願いします」
「構わない。実際――これは、俺の仕事の範疇だろう」
ザイルは、その厩舎を厳しい目で見つめ――魔道具を解除した。



やはり、あれはどうにかすべきだ。
厩舎をチェックしたザイルは思う。問題はこれが彼の仕事から少しずれるということだ。この仕事は彼の部下に配分すべきだろう。
だが、実際にチェックしたのは彼だ。リューイのことも気になる。
どうしたものか、と考えながら歩きつつ、脱いでいた上着を羽織った。黒とはいえ、汚すわけにはいかない。ボタンをきっちりとしめ、スカーフを首に巻いた。
剣の位置を確認して身支度を整える。
男が兵舎に戻ると、何やらひと悶着起こっていたようで言い争う声がした。何が起こったのかは知らないが――また、厄介事が持ち込まれたようだ。いつもいるメンバーも、控室に集まっているようだった。
またか、と頭を抑えて控室の扉を開ける。
―――問題児その1とその2が掴みあいとなっていた。
「どうした」
彼の声は小さい。だが、よく通る。凛とした響きをもったその声は一瞬にしてその場の空気を止めた。
「何があった、お前ら」
「――――団長!!!」
「その手を離せ。それから――先に腕立て200回。話はそれからだ」


王立騎士団団長。
彼の持つ身分は、上着の肩章が示すそれであった。


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