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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
第一章-11「お茶会」
帰ったら、アエラが怒らなかった。
代わりに、何かいきなり外出着持ってきて着替えさせられて、小奇麗にされて外に放り出された。
逆に怖かった。

「遅かったじゃない。何をしてたの?」
「色々とね。何、どうしたんだ?」
特に説明もされずに放り出されたため、何がどうなっているのかわからない。外に出たらファリアータのところでよく見る侍女が迎えに来てくれていたので連れて行ってもらっただけである。何があるかは、何となく聞けなかった。
「カステリーナ様がお茶会を開かれるそうよ? 聞いてなかったの?」
「朝早くから出てたからな。それに、招待も来てたかどうか知らない」
「いいじゃない。どうせ、隅っこで飲んでればいいのよ」
はっきりと言い切られても、と彼女を見て苦笑いする。
ファリアータの容姿では、隅っこにいても目立つ。その証拠に、サイラギを迎えるために中心から離れたらしいファリアータを数人の王妃候補者たちが見ていた。
「聞こえてもいいのか?」
「聞こえないように言ってるから問題ないわね」
うっすらと口元に笑みを浮かべる。美しい薄い色をした唇が弧を描いた。ちょっと壮絶でもある。サイラギに気づいたティシアナが近づこうとして、足を止めていた。怖かったらしい。
先にサイラギが気付いて小さく会釈する。ぱっと華やいだ笑みを浮かべて近づいてきた。さっきまでカステリーナと話していたのにいいのだろうか、と思いながらも彼女の笑顔を壊したくなくて体の位置をずらした。
「サイラギ! 来ないかと思って、心配したの」
「ちょっと用事があったんですよ。すみません」
「敬語、抜きなのよ?」
どこかの誰かに同じこと言われたなあ、とぼんやり思いながら「はい」と頷く。嬉しそうに笑う彼女は可愛い。
毎回のように思うのだ。
「ティシアナ様、よろしいのですか? カステリーナ様とお話されてたんでしょう?」
「カステリーナ様?」
ファリアータも心配になったらしい。何せ、王妃候補者の中で一番の実力者である。この一件が終わったとしても、彼女は社交界の華であり中心だ。嫁いだ後も女性の中での情報収集は妻の仕事である。そういったことが得意でなさそうなのに、これ以上心証を落とすような真似はさせたくなかった。
「誰?」
「……さっきまで話してた人のことだよ」
あまりといえばあまりの返答に、絶句した。代わりにサイラギが答える。ふうん、という様子は全く興味がなさそうだ。
「どうかしたのか?」
「きれいで、素敵な人だけど。なんか、怖いの」
ちょっとだけ不安そうな口調だ。彼女たちの談笑の中にある毒に当てられたのかもしれない。相当純粋培養なようだから。こんな様子で貴族の中でやっていけるのかと少し心配になる。
「怖いで話すことを諦めてたら話せる相手もいなくなるわよ? 自分にレベルを合わせてくれる相手だけになるわ」
厳しいファリアータの意見に畏縮するかと思えば、唇を引き結んで頷く。サイラギは少し、ティシアナに対する考えを改めた。結構強いかもしれない。
「ファリアータ様。こちらにいらして? 今、ファリアータ様のお話になっていましてよ」
アイリスが誘う。どうやら、カステリーナの対ファリアータとして派遣されるのはアイリスと決まっているようだった。向こうで艶やかに笑み――不意に目元を凍らせた。
彼女の唇が言葉を紡ぐ。
「サイラギ様もいらっしゃらない? こちらの紅茶も格別ですわよ」
「――お招きいただき、ありがとうございます」
声を直接かけられては仕方がない。サイラギはファリアータと目線を交差させると諦めの色を宿した。表面上は友好的に歩み寄る。心細いのだろう、ティシアナもサイラギの裾を掴んだままついてきた。
「サイラギ様に紅茶をお入れして? ああ、サイラギ様、こちらも美味しゅうございますわ、よろしければお食べになって。ジュンネ様が持ってきて下さったのよ」
「ありがとうございます」
無邪気に笑う彼女に他意はないように見える。だが、どう考えてもおかしいのだ。なぜ今、今日になってこんなお茶会など開いたのだ?
注がれた紅茶に口をつけ、こっそり周囲を確認するときっちりと騎士が配備されている。公認なのか黙認なのか不明だが、少なくとも王側は開催していることを知っているらしい。
「大変美味しく頂きました。こちらはカリの葉のブレンドでしょうか?」
「あらよくおわかりになりましたわね。そうですの。我が家の特注ですわ」
「さすがカステリーナ様、他とは違う味をお選びになりますわね」
「私もお取り寄せしたいですわ」
「甘いものによくあいますわ。個人的なお茶会でも楽しみたいものです」
カステリーナの声に合わせて鈴なりのように女性の声が重なる。
「……舌がしびれるのに……………」
ぽそりと言ったティシアナの声を拾ったのはサイラギだけだったらしい。誰もがカステリーナに注目している。ファリアータでさえそうだった。
(……痺れる?)
多少刺激があるのは香辛料を混ぜ合わせているからだろう。そうではないのだろうか。
何食わぬ顔で紅茶を飲んだ口元を拭き、こっそりと湿らせる。
検査用の魔道具は持ってきているのだったか。アエラに聞けばわかるはずだ。アエラは薬師としても有能だ。バリスの民は、魔法に対する感度が弱かったため、逆にそういった技術が発達したのである。
「いかがなさいました? サイラギ様」
ぎゅっとティシアナがサイラギの服を握った。
(何で敵視されてるんだろう? 何かやらかしたか?)
他の者に気づかれない程度のわずかな毒。つまり、この空間から排除する気はなさそうだった。知らぬふりでにっこりと笑ってみせる。
「我が家ではこういった嗜好品を頂く機会が少ない物で、堪能させて頂いておりました」
「あら、でしたらこちらのお菓子もいかが? とても美味しいですのよ」
こうなってくると毒かどうかが気になってくる。魔道具を使おうにも、警戒していることがわかっては意味がない。
(ええい、大丈夫だろ)
内心の葛藤を押し隠してお菓子を口に含む。甘さが口の中に広がった。
「喜んでいただけたようで嬉しいわ。ねえジュンネ」
「え、ええ。そんなに喜んでいただけるなんて」
もう一度言おう。サイラギの家は貧乏である。
甘い物? 何それ、食べ物? の世界で育っている。
よって。
「いえ、本当に美味しいですね! 来た甲斐がありました」
美味しすぎる。
ここ数日美味しい物ばかり食べている。領地に帰ったら舌が肥えてて困るに違いない。まずいわけではないけれど、嗜好品やソースは出てこない家である。この間のごちそうはイノシシの丸焼きであった。あれは美味しかった。
心底美味しそうなサイラギに、カステリーナも毒気を抜かれたようだ。それから特に攻撃してくることもなく、サイラギは隣にいた令嬢の1人と楽しく会話する。どこどこの誰が結婚予定だの、たわいもないゴシップが多いが実に有益だ。
「だから、エスティア様はその時いらっしゃった吟遊詩人の方と愛人関係を結ばれたそうです」
「すごいですね。良くご存じで。それにしても、よっぽど美しい方だったんでしょうね」
「と思いますの。でも、ご主人が――」
たわいもない話だ。でも、普段からこういう女性同士の会話をしたことにないサイラギにとっては全てが新鮮だ。
会話を単純に楽しんでいると、後ろから男性の声がした。
「ちょっといいですか?」
この場に男はいない。許されているのは16歳未満の少年か、護衛として王宮側が用意した騎士くらいのものだ。話しかけてきたのは、封魔を得意としているとして紹介していたサリエルだった。独特のおっとりした雰囲気で、女性の中に混じっていても違和感がない。
「何でしょう?」
一番近くにいたサイラギが返事をする。
口閉じたわけではない、しかし皆が聞き耳を立てているのがわかる。
「えっとですねえ、時間があとちょっとなんですよ」
「時間?」
「そう。カステリーナ様はご存知ですよね?」
サリエルに聞かれ、カステリーナは嫣然と微笑む。どんな男でも悩殺されるに違いないその艶笑にも、サリエルは独特の雰囲気を崩すことなくほっこりと笑う。
「良かったです。夜、何人かの方のお部屋に、陛下がいらっしゃると思うんですね。だから、そろそろ用意したほうがいいと思うんです。あ、別に手は出されないですから大丈夫ですよ」
「何を言ってるのっ貴方はそれでも騎士ですかっ」
令嬢に言うセリフか。勝気なアイリスがむっとしたように喰ってかかる。何人かは顔を赤らめていたし、アイリスも少し耳が赤かった。
サリエルは全く動じない。
「騎士ですよ、軍人じゃないです」
そう言う問題ではない。誰もが思ったが、だから逆に毒気を抜かれた。アイリスもそれ以上突っかかる気配はない。
「へえ、陛下のほうからいらっしゃるんですか? 私たちからではなく?」
サイラギは疑問に思って尋ねた。
「はい。だって、夜の格好のままいらっしゃるの、大変でしょう? ここと陛下の寝室は離れてますし」
「ああ、なるほど。こっちに邸宅を作られるわけじゃないんですね。陛下も大変だ。どこかでお休みになられた方がいいのでは?」
「それも考えたんですけど、そうしたら姫君から夜這いをかけられたら困るでしょう?」
「わかりますけどね。ここにいらっしゃるような美しい姫君なら、構わないと思うんですが。男が廃りますよ」
「うーん、俺もそれは考えたんですけど、やっぱり駄目みたいですよ? アト……いや、他の騎士も駄目って言ってました。陛下も色々女の人は知ってるから、今更だと思うんですけどねえ」
「ああ、結構遊んでいらっしゃるんですね」
「はい。よく王都に遊びに出てらっしゃいますよ」
天然と天然の会話。
ぼけとぼけの会話には、どう突っ込めばいいかわからない。いつのまにか女性陣は皆口をつぐみ、2人のとぼけた会話に聞き入っている。
ファリアータも既にツッコミを放棄して2人の会話を楽しんでいるし、カステリーナも微笑みを浮かべたまま遮る気配はない。
王の趣味に話が及んだところで。
「そうそう、陛下はですね、夜――」
大きな魔力の気配と共にリンゴがサリエルの頭に激突した。
『空気を読め』
リンゴ彫られた字はそう書かれていた。
「いったー」
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫大丈夫。ちょっとお喋りしすぎたみたいです。他の人が怒りました」
そりゃあそうだろう、というのがほぼ全員の感想だった。
少なくとも、王の性癖について語ろうとするのはやりすぎである。ちょっと知りたかったけど、というのも大多数の意見だ。
「――よろしいんでなくて? サリエル様でしたわね? こちらのお菓子、食べます?」
「食べます!」
嬉しそうにお菓子を食べる様子はわんこを想像させる。
「美味しいですね。これ、ちょっと持って帰っていいですか?」
「いいですわ」
さらに嬉しそうに袋に詰める。騎士に憧れを抱いていた令嬢たちは、色んな意味で失望した。
(こういうタイプだから、世話役に選ばれたんだろうな)
良くも悪くも毒がない。ミスをしても、許されるタイプである。男性として見なければ、令嬢にも受けはいいだろう。
「あ、そろそろハンナに怒られるから帰りますね」
「帰りますね、じゃありません!」
声が響いた。
紅茶などを用意していた建物から出てきたのは女性騎士のハンナだ。笑顔が怖い。
「申し訳ありません。サリエルが失礼致しました」
「え、悪いことした?」
「黙って下さい。お伝えする内容と致しましては、そろそろお開きにして頂けたら幸いということです。次の会合などについてはそれぞれのお屋敷にいらっしゃる方にお伝えして参りました。夜のご予定はございませんが、できれば夜はそれぞれのお屋敷にいらっしゃって頂きたいのです」
内容は、サリエルが言った事情だからだ。誰も口にはしないが、そう気付いた。
「わかりましたわ。ではみなさん。またこういう場を設けますわね」
「私もまた参加させて頂きますわ」
「よろしければ、今度は私におもてなしをさせて頂けません? とても良い茶葉が手に入りましたの」

自然とティシアナと帰ろうとしたが、
「あ、俺が送って行きますよ。お迎えの方がいらっしゃってるでしょう?」
サリエルに言われて気付いた。確かに、リューイが迎えに来ていた。
(何かあったのかもしれないな)
だとしたら、確かに急がなければならない。
「じゃあ、ティシアナ。また明日」
ちょっとだけ不安そうな表情だったが、サリエルを見上げてちょっと安心したような顔になった。穏やかに笑う彼は、いるだけで安心するようだった。
「また明日」


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この記事へのコメント
26. シン   URL  2010/07/07 16:42 [ 編集 ]
何故ここで切り上げたし。
続きが気になりますどうすればいいですかでも次の更新は羽ばたきの方かなそれでもいいです全裸待機しています。
27. 土鍋   URL  2010/07/12 00:56 [ 編集 ]
更新したのでどうぞ下着くらい身につけて下さい。
花戦は微妙にスランプなんでね……やばいと思ってプロット全部たてたからちゃんと完結はする、はず!!爆
切り上げ方、そんなに気になるかな??
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