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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
軍団長と恋煩い3
初めて彼女を見た時は、妖精かと思った。

ヴァリハートの地位は一応軍団長ということになっている。軍団長は士官クラスの中位にあたり、いわば中間管理職だ。全体の指揮を行い、かつ上からの指示を下に伝えるのが仕事である。
が、ヴァリハートにそんな実力があるかといえばそうではない。実際、彼は自分にそういった事務能力はないと思っていた。
王家の血をも含む大貴族であるヴァリハートの家柄がそうさせた、ともいえる。だが実際は、元老院が彼の軍内部での人気を利用しようと企んだからだ。実際、リガータタとの戦争でも武功をあげ、さらなる人気を得た彼は貴族でも平民の間でも人気である。
だからといって、仕事を放棄してはいけないわけではない。

「団長。仕事して下さい。……また何やってるんですか」
「どれだ?」
兵士の詰め所で賭けごとに興じていた彼は、専属の補佐官に声をかけられた。ヴァリハートは身長が高い。おまけに何故か人を引き付けるものがあり、人の中心を探せば必ず彼がいる。ヴァリハートは気さくに笑った。首にかからない程度の髪がゆれる。
「ああ、これなら大丈夫。明日までだから」
「今日できることは今日して下さい」
「お前がやってくれるだろ?」
全くそれを疑っていない瞳に、補佐官はため息をついた。これをわざとやっているのならば引きずってでも仕事をさせるのだが、彼の場合本当にそれを信じているから困るのだ。
助けてあげたくなる。
そうやって、彼の元で働き続けて、今では雑務のプロとなった補佐官であった。
「サインをする量が多くなりますが」
「構わないよ。それはする。あ、ちょっと待て」
ぱらぱらとめくっていたヴァリハートはあるページで手を止めた。
「これ、やるのか?」
そのページにあったのは、公共事業の1つ。兵部の管理をも受け持つ軍団長の元には、公共事業関連の仕事も多い。
「治水だろ? でもまだ全然測量できてないぞ、これ」
「元老院からの命らしいですよ」
「ふうん。でも、測量なしに仕事始めるのは危険だな。被害状況も3年分ないじゃないか。
どの程度どう被害があるのか、どこに防波堤を置けば水が流れるかを考えるのには被害状況を正確に把握しなきゃいけないんだろ?」
何やら難しいことを言っているが、これは補佐官の受け売りである。意味をわかって言っているのか不明である。
「そうですね」
「何でやるんだ?」
「平民の暴動を抑えるためらしいですが」
ようするに、人気取りの政策ということだ。ヴァリハートは首を傾げた。
「余計暴動起こるのにな。何でそんなことをするんだろう?」
元老院の思惑などすっとばしてしまう彼である。本当にそう思っているに違いない。
「これの期日は?」
「3日後です」
「よし、じゃあ明日聞いてみよう。明日元老院で議会あるよな?」
「ええ」
「その時に聞こう」
議会でそんなことを聞くのはヴァリハートくらいだ、と思ったが補佐官も何も言わない。いつものことだからだ。
「よし、それくらいだな。じゃあ明日やるから」
そう言われてしまっては、何も言えない。周りで一緒になってヴァリハートと遊んでいた人たちも何も言えない。
みんな、ヴァリハートの邪気のない笑顔に弱いのだ。
「わかりました」
ああ、今夜も徹夜だなと思いながら一礼した。
言えばやってくれるだろうが、結局彼にそんなことをさせたくないのだ。
彼に似合うのは戦場であり現場であり、内にこもって事務作業をするなんて似合わない。

補佐官が去り、再び目の前の札に集中しようとしたところで、別の場所で遊んでいる集団から小さな声がした。
「ね、あの人ってえらいの?」
可愛らしい少女の声だった。思わず顔をあげてその集団を凝視する。聞かれた相手の声は聞こえない。しばらくして、感嘆したような声があがった。
「へえ、すごいね。でも何でそんなえらい人がここで遊んでるの? ここって、準士官クラスの詰め所なんでしょ?」
「あの人はいろんなとこに出没しますからね。きっと、面白いものがあるって誘われたんですよ」
近づくと、相手の声も聞こえた。少女に対し、酷く親しげな声だった。近づいた彼に気づいたらしく、あれ、と声をあげた。その声に、少女も彼に気づく。
目が合った。
驚いたように目が見開かれている。

妖精かと思った。

「え、えと………」
突然ヴァリハートが姿を見せたことで混乱しているらしい。先ほどまで会話をしていた相手の体を掴み、半分程体を隠してしまった。
黒髪黒目。バリスの民と同じ平坦な顔立ち。驚いた表情はとても幼く、何かを言おうと半開きの唇は小さくて可愛らしい。肩が華奢で、腰が細かった。折れてしまいそうだった。
顔立ちと体つきの印象の差が、妖精に見えたのかもしれない。
「何でこんなとこにいるんですか?」
見たことある少女だ。士官クラスの人間は、一応あの場の末席にいたのだ。
あの、お披露目式の場に。
さらに近づくと自然と彼の分だけ席がある。当然のようにそこにどっかりと座った。
「初めまして。ユイ様ですよね? 兵部の軍団長をやってるヴァリハートといいます」
「わたしのこと、知ってるの?」
「士官クラスはお披露目式に出席できますから。俺もあの場にいたんですよ」
困ったようにユイは目線を伏せた。
「ごめんなさい。覚えてないです」
「いや、覚えてたら光栄ですよ。後ろで見えなかっただろうし」
あの場には議員も政務官も揃っていた。あれだけの人数だ、覚えているほうがおかしい。何より彼の立場は警備である。
「えっと、神鳥の巫女みたいな感じの、ユイです」
「みたいな感じって。巫女ですよ、あんな風に神鳥呼べたら」
あのときの光景は今でも目に焼き付いている。神鳥に認められただけではない。呼んだのだ。そして、神鳥はやってきた。
あれほど美しい光景は、見たことがない。金の王、黒の巫女、そして白の神鳥とそろって酷く幻想的な光景だった。
「あれは綺麗だったなあ。あ、でも今も可愛らしいです」
ヴァリハートにしてみれば普通の褒め言葉である。
が。
ユイは瞬時に顔を赤くした。
魚のように口をぱくぱくと開け閉めしている。それに気づいたらしく、一緒にいた兵士がユイの体を隠してヴァリハートを睨みつけた。
(面白いな)
人からこんなに強い目を向けられたのは初めてだ。戦場でもないのに気分が高揚する。
「ろ、ロア。いいの」
「でもユイ様」
「わ、わたしが慣れてないだけだからっ」
あーとかうーとか唸っていたが、ようやくロアと呼ばれた兵士の体から顔をのぞかせる。まだ顔が赤い。
「ありがとうございます」
素直に、可愛いと思った。こんなに可愛い生き物がいるのか。ヴァリハートの周りにいる女で、こういうタイプはいなかった。しいて言えば、少し姉に似ている。姉は単なる引っ込み思案の人見知りだが。
撫でてぐりぐりしたい。
思ったので、実行した。
「う、ふぇっ?」
「ヴァリハート様!!」
ロアが怒鳴るが、ヴァリハートは一向に気にしない。
ああ、やっぱり可愛いなあ。髪の毛はさらさらだし、さわり心地もいい。ほっぺたも赤ちゃんみたいにふくふくしている。今まで触ったことのある女性とは違う気がした。違う人種だからかもしれない。触っても怒らないだろうか。
実行しようとしたところで、ロアがユイを抱きあげた。
「ろ、ロアっ」
遠ざけられた。
いいなあ、抱きあげたいなあ。
口にすると、さらにユイは真っ赤になる。
「ヴァリハート様!!」
「ろ、ロア? いいよ、あの……これのほうが、恥ずかしい…………」
顔を真っ赤にしてユイが訴えたことで、ロアも何をしたか気付いたらしかった。
「す、すみません」
「いいけど、いいけど下ろして」
細い足があらわになっている。足首も細い。触ったら折れてしまいそうだ。
「ロア。お前、ちょっとユイ様のその格好は……」
「すみません!」
謝る勢いがすごい。
勢いよく下ろしてユイは鼻をぶつけたらしい。くちゅ、という可愛らしいくしゃみが聞こえた。
「大丈夫ですか?」
「だいじょうぶ、心配しないで。えっと、ヴァリハート様。恥ずかしいので、触るのはなしです」
ヴァリハートに対しては直球のほうがいいと判断したらしい。
がっかりした。触ってみたかったのに。でも駄目なら仕方がない。
「そうか、残念だ」
あっさりと言って目の前にしゃがむ。そうすると、ユイを見上げる形となった。
「ど、どうかしましたか?」
「いや? 可愛いなあと思って。いいなあ、君の部隊は」
後半はロアに向けたものだったらしい。
軍団長に対してその態度は、というような目をしていたロアも、心なしか誇らしげに――しかししっかりとユイを抱きしめたまま――言った。
「いいでしょう」
「くれないか?」
「隊長に言って下さい。ザイルが許さないと思いますが」
「ザイル? ああ、例の彼か。俺が護衛騎士になってあげようか?」
ヴァリハートとしては、半ば本気で言ったのだが。
「じょ、冗談でも駄目です! 軍団長なのに!!」
本気で拒否されて、少し凹んだ。
「あ、ああごめんなさい。でも、申し訳ないし、えっと――あ、そうだ」
彼女の声が少し明るくなった。どうしたのだろう、と覗きこむ。ロアに押し返された。
「だめです」
「少しくらい、いいだろ」
「だめです。ザイルにバレたら、半殺しにされます」
それまで散々ザイルと喧嘩をし、半死半生の目にあったこともある男の言葉には重みがあった。
「ロア? 大丈夫だから、離して?」
「ユイ様の大丈夫はあてになりません」
「う。そうなんだけど」
反論できない。ユイはその体勢のまま、自分からヴァリハートを覗きこんだ。
(かっこいい人だな。かなりいいとこの人なんだろうけど、やっかみの目はない。貴族でも、目が澄んでる。どういう育ちなんだろう?)
ユイの中の貴族のイメージは、えらそう、金持ち、昼ドラまっさおのどろどろである。ヴァリハートに品の良さは感じるものの、そういった悪い印象は受けなかった。ここにいる準士官以上は、皆階級は違えど貴族だ。貴族イメージの方を変えるのが正しいのかもしれない。

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この記事へのコメント
28. シン   URL  2010/07/12 07:31 [ 編集 ]
ヴァリハートwww
しかしこんな素直な天然たらし(???)は嫌いじゃありませんいいぞもっとやれ。
気付くと大分逆ハーレムっぽくなってきましたね(言い方自重)
でも私はザイユイを推します。お似合いだと思うの。
ユイはもっとザイルを振り回しておk。
最後どうなるのかなーっ。
29. 土鍋   URL  2010/07/18 20:08 [ 編集 ]
コメントありがとう! 花戦のほうではハーレムをどうやら作れなそうだったので、こっちでやってみた。違った、ハーレムはできるか笑
最後は・・・・・・うん、結構な長編になるので待ってて下さいな。全部言ってもいいなら言うけどな!! 恋愛とは銘打ってないので、それらしく書いたりもするけど恋愛には期待しないで下さい。
ザイルは、これからも振り回されますので期待しててください爆
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