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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
軍団長と恋煩い4
「ね、軍団長って今何してるんですか?」

「何、ですか? 休戦中だからな、何と言われても雑用? 俺のとこは警羅担当じゃないですから、毎日の仕事はないなあ」
段々敬語が抜けてきている。元々、ヴァリハートが敬語を使う対象はそう多くない上、この場に緊張感がないせいである。
「え、じゃあ今は?」
「今は、遊んでた」
「休憩してたって言って下さいよ! 俺らが悪いことしてるみたいじゃないですか!」
「軍団長誘って遊んでたって言ったら人聞き悪いですよ!」
聞き耳を立てていたらしい。先ほどまでヴァリハートがいた空間から抗議の声が次々とあがった。
「らしい」
「はあ」
いまいち掴めない人だ。ユイは首を傾げて――その姿にヴァリハートはさらに顔を溶かすのだが――相変わらず膝をついているヴァリハートに言う。
「えっと、じゃあ普通の時は何してるんですか?」
「訓練かなあ。後は、兵役のある市民の訓練。俺は地位が高いから治水とかも受け持ってるけど、別の部隊の仕事だな。直接してないよ」
「というか、それ元々俺らの仕事ですから。トップは軍団長ですが、実質の指揮は百人隊長ですよ」
ロアが口を挟む。
「あれ、ロアって警羅じゃないの?」
「ザイルが来てから警羅になったんですよ。ほら、平民だから町に詳しいし」
適材適所であって、別に差別ではない。
この国の人間は、そういった合理主義なところがある。
「俺、だから治水関係は得意ですよ。測量とか」
貴族は仕事しないイメージがあったのだが、彼らは仕事をしっかりするようだ。そもそも、そういった技術者を貴族は厭うのだと思っていた。中世風貴族だと思っていたユイは、やはり認識を改めなければならないと思いなおす。
舐めてかかれば痛い目に合うだろう。
ユイが返事をする前に、ヴァリハートがいきなり立ち上がってロアの肩を掴んだ。
「な、何ですか」
「得意?」
「何がです」
「測量」
目が生き生きしている。
ロアが、ちょっと引いている。その隙にちょっとユイは隙間を開けた。もう1人の護衛がちょいちょいと手まねきし、そっと体を滑らせようとする。
「と、得意ですけど」
ロアの手ががっちりホールドしていて上手く抜け出せない。さすが護衛、などと関係ないことをユイは思った。
「よし! 測量得意人間確保!!」
ロアの腕を掴んだ。その拍子に脇が上がり、無事ユイは脱出する。
「お帰り」
「た、ただいま?」
にこにこと言う髭面の彼もまたザイルと同じ部隊の人間だ。ユイは内心、腹黒ではないけれど一番厄介ではないかと思っている人物でもある。ユイのお気に入りでもあった。彼が胡坐をかいた中心にちょこんと座る。
「え、あ、あの!」
ロアがそんなに慌てるの珍しいなあと思いながら、ユイは傍観モードに入った。なかなか面白そうである。
「いまさあ治水関係に問題があってさ。お前、議員に親戚いる?」
「父方の伯父が今期の議員ですが。前期は父も議員でした」
「なら問題ないな! 誰かヨルゼン呼んで来てくれ! 治水に強い人間確保したから、明日までに全部総浚えして資料全部集めて議会に喧嘩売ろうって言って来い!!」
「ええええっ?」
慌ててるなあ、などと暢気なことを考えた。人を見る目がある、というべきなのか。別の部隊と部隊で人を異動させるのはありなのか、それとも彼が規格外なのか。
一番扉の近くにいた兵士が慌てて外に出ていく。魔道具を使えばいいのに、電話のような魔道具はないらしい。コストがかかるのかもしれない。
(面白いなあ)
暢気に眺めていると、いきなりヴァリハートがユイのほうを向いたので思わずびくりと肩を震わせた。
さりげなく護衛の兵士が庇う。
好奇心に目を輝かせ、ユイに近づいた。にっこりと笑う。
あまりに明るく、邪気のない笑顔に思わず気を取られた。
そのまま手を取られ――甲に口づけられた。
かっと再び頬に血が上る。何も言葉が出てこない。
また楽しそうに笑われた。
「ありがとうございます! 助かりました、俺のとこ治水ほとんど扱ってないから強い人間いなくて。あ、また遊びに行っていいですか? バッハテルド叔父上のとこですよね?」
(あれ、そこ親戚?)
バッハテルドと目の前の彼が結びつかない。ユイの疑問は顔に出たらしい。
「遠いんですけどね、一応親戚。叔父というか、前々領主が俺のとこの分家で、独立してたんですけど、前領主に蹴落とされて、暗殺されかけて、それで前々領主の息子だった叔父上がいったん前領主の小姓になって、あれ、違うか?」
既に意味がわからない。
「前領主の、妹が嫁いだとこの小姓になったのかな? でもなんやかんやで色々あって、証拠が出て、それで前領主が急死して、バッハテルド叔父上が継いだ。で、その時にちゃんと分家と本家の契りを交わし直したから、叔父。あ、義兄弟って奴だ。思い出した」
何やらどす黒い背景が垣間見えた。それを全く他意なく言う彼も彼である。
(直接聞いても答えてくれないだろうし……こっそりと、聞いてみよう)
「は、はあ。えっと言葉が色々とわからなかったんですけど、結局親戚なんですか?」
ユイの鉄則は、いつどこで誰が聞いているかわからない、である。少なくとも、聞いたけど意味わからなかった、という『ポーズ』はとっておかなければならない。
「そんな感じだな」
「バッハテルド様のお世話には、なってます」
色々と、怖そうな人だけど。
内心を押し隠して『何も思惑なんて知らずに感謝してる女の子』のポーズを取る。
「よし。じゃあ今度遊びに行くな」
「お、お待ちしてます」
それ以外、何を言えと言うのか。
ロアを引きずって行こうとしたので、慌てて止めに入った。一応ザイルが気付く前に連れて帰ってもらわなければならない。ロアもそこは譲れない、とばかりに強く主張するとあっさりとヴァリハートは解放してくれた。
「俺が送ろうか?」
「いえ結構です、私がお送りするので。ちゃんと後でお伺いします」
「おお、待ってるから。じゃあな、可愛い巫女姫」
だから、そういうことをあっさり言わないで欲しい。
切実な願いはあっさりと無視された。



ユイらが帰った後にヴァリハートは『神鳥の巫女を見守り隊』の入隊規約を押し付けられ――入隊するのは、数分後のことであった。

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