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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
始まりの物語5

(シアン?)
ザイルの友達だろうか。それにしては、何か不穏な雰囲気だが。
ユイはこっそり頭を覗かせて、シアンを見た。

(何この人。………あいつに、似てる)

ユイは大体、顔立ちや仕草で人はわかると思っている。レイナードやヴァレリアスでさえそうだ。執政補佐官や執政官という身分であっても、それこそ『腹黒』や『古だぬき』くらいの評価は下せる。
だというのに、目の前の人物は。
焦げ茶色の髪は肩につくかつかないか、無造作にくくっているためにあまり長さを感じさせない。人好きのする顔立ちで、どこか無邪気だ。以前会ったヴァリハートを思い出した。最年少軍団長も、こんな顔をしていた気がする。
その最年少軍団長には、無邪気天然という判断を下していたユイではあるが、彼はまた違う気がした。
そう――無邪気ではあると思う。会った人みんな、全員が良い人判断を下すだろうし、その柔らかくも温かい雰囲気にのまれるだろう。あまり人を気取らせず、ただそこにいるだけで雰囲気が柔らかくなりそうだ。
だというのに、ユイは警戒していた。頭のどこかで警鐘を鳴らす。人当たり良く誰からも好かれていた大好きな友人、の血縁者を思い出した。知人であって、友人ではないと思いたいくらいの複雑な関係の知り合いである。
こういった人間の相手は厄介だ。よしんば全く違う性格だとしても、面倒なタイプであることは想像できる。
「久しぶりだっていうのに、何だよその挨拶。ほら、久しぶり!」
「……久しぶり」
「元気ないなあ。どうしたの? リスチェ様のとこで何かあった?」
「お前」
ザイルが町中で戦闘態勢を取ったことに驚く。剣が抜ける仕草というだけでなく、魔法すら発動できる状態だ。巫女を守るため、という理由で制限を解除された彼の魔法技術は、短い詠唱と動きで魔法を発動できる。
(どういうこと? 友達じゃ、ないの?)
この世界の人間の年齢はユイにとって読みにくい。貴族と異なり、一般市民は先住民族の血が混在しているらしく、見た目と年齢が一致しないのだ。ザイルが童顔気味に見えるのもしれが原因らしい。とはいえ、子供と大人の体は違う。「体つき」からすれば、同年代のように見えるし、何より口調は妙に親しげだ。
「そう警戒するなって。大丈夫、何もしないよ」
「お前がそういうときが、一番危ないんだ」
「心外だなあ」
対する彼は、動く気配はない。
だが。
「危ないよ。こういうの振り回したら」
「!!」
ひょい、と魔法を発動させようとしていた左手を掴み、ユイの顔を覗き込んだ。
「なんかさあ、警戒しすぎ。俺、何もしないよ? リスチェの様子が少しおかしかったから、見に来ただけだしさ。君が、リスチェのお客様?」
何の予備動作もなしに、ザイルの背後に隠れるユイに視線を合わせた。ザイルは、これでも優秀な兵士のはずだ。なのに、死角を取るような間合いにあっさりと入り込む。
見事なまでの、間合いの取り方だった。
(取り繕っても、無駄だ)
おかしな態度は禁物。でも、それすら見抜かれる。
ユイは小さく息を吸って、ゆっくりと目を閉じた。
「ユイ様」
ザイルの声に、目を開ける。目の前に笑う彼の姿があった。なだめるようにザイルの手を叩き、じっと見つめる。
「大丈夫。初めまして。ユイです。貴方はリスチェ様のお友達ですか?」
「そうだよ。俺はシアン。ユイは異国の人?」
「触るな」
ユイに向かって無遠慮に伸びた手を、今度こそザイルが払いのけた。シアンは笑顔を崩さない。
「仕方ないなあ、ザイルは。大変だろ、こんな奴といるの」
茶目っけたっぷりに目をつぶってみせる。演技だろうとわかっているのに、思わずユイの肩から力が抜けた。
「いいえ、そんなことないです。いつも守ってもらってます」
「あれ、じゃあ君がザイルの仕事相手?」
「――はい、そうです」
ザイルの仕事相手=巫女。
そんな図式が出来ていることを、ユイは知らない。知らないなりに、意外そうなシアンの口調に何かを感じ取り、思わず言葉に詰まった。
「そっか。なら仕方ないかな」
「リスチェ様とのことですか?」
「そう」
目をわずかに細め、それから訳知り顔で言う。
「でも良かった。まだ、何もやってなさそうで。――俺にも、対処できそうだ」
「!!」
低められた声に体の中心に、震えが走る。言葉は平民語だ。平民語を完璧にリスニングできる程の語学力はまだない。
なのに、そこにひそめられた空気に、音に、反応した。
それは、何に対する怯えなのか、それとも純粋に何かを感じ取ったのか――そこまでは、ユイ自身にもわからなかった。怯えるのであれば、レイナードのほうがはるかに怖い。ハヴァイスやバッハテルドのほうが、はるかに警戒しなければならない。
「…………」
ユイの体のこわばりを見てとったのか、緊張感のない笑顔を浮かべる。
「ね、君が巫女様だよね? あれ、俺も敬語使わないとだめかな?」
「……敬語は、苦手なので大丈夫です。貴族語も、苦手」
「よかった。俺も貴族語はほとんど話せないんだよね」
貴族の言葉と平民の言葉は、標準語と方言程度の差でしかないが、だからこそ明確な差として現れる。ある程度の意志疎通は可能だが、同じ国民なのに何を言っているのかわからない、という事態すらあるのだ。だからこそ、貴族側は平民の言葉も話せるよう訓練されている。
ザイルが動きそうになったので、ユイは目で止めた。
「一応、巫女です。でも、特に何もしてないです。ルーとは、話せるけど」
「ルー?」
「神鳥(ガルハーク)の名前です」
へえ、そんな名前なんだあ、とやはりシアンはどこか緊張感のない声で言った。優しそうな垂れ目がさらに下がって、柔和な印象になる。ユイも笑顔を浮かべる。
敵にしてはならない、とどこかで誰かが告げた。
「リスチェに、何を話したの?」
「―――わたしに、色々教えて下さいって言っただけです。平民の言葉を知りたいのと、王宮にいたら、教えてくれないことが多いから」
「リスチェはさ、結構厄介な立場なんだよね。前ヤンジェイル卿の娘だし、今のヤンジェイル卿は議員だけどリスチェのお父さんと違って平民に冷たいし。悪い人じゃ、ないらしいけどさ。リスチェ曰く」
笑顔のまま、だが瞳の奥が冷たく光る。
「リスチェを、巻き込まないでよ。何にか知らないけどさ」
シアンはリスチェのことがただ心配なだけだ。
シアンのことは、後でザイルにしっかりと聞かなければならないと頭に刻み、困った表情を浮かべて見せる。そして、目だけはその奥を覗き込む。冷え冷えとした雰囲気が、ユイを覆った。
ほんの、僅かに本気をにじませて、微笑んだ。
「――――じゃあ、貴方も巻き込まれてみますか?」

シアンは小さく息をのみ、そして眉間に皺を刻む。
「何に、さ」
シアンはこの辺りでは有名だ。当然ザイルもである。多少変装しているとはいえ、珍しい顔立ちに変わりはないユイも同様。疑問を口にしてから、ちょっと口を引き結んでからユイの腕に触れる。細い手首は握りしめれば折れてしまいそうだ。
思いながら掴もうとした瞬間、ザイルの殺気が魔力となってシアンを刺激した。シアンは振り返って苦笑いする。
「大丈夫だよ。何もしない。ただ、ここじゃちょっと目立つだろ? アヤネイの店に行かない?」
ザイルが返答する前に、ユイが答えた。
「お願いします」
ザイルの苦虫を噛み潰したような表情に、シアンは笑う。
「じゃあ、こっち。ああ、もう心配性だなあ。ザイルが見ておけばいいだろ?」
付いてくると信じて疑わない顔で、シアンは背を向けた。
「おい、ついていくのか。あいつに」
「だって仕方がないもの。リスチェ様に変なことを言われたら困る。それに、ああいう人は早めに話をしたほうがいい」
「でもな」
ユイはため息をついた。シアンには2人の会話は聞こえていないようだ。誰か仲間に声をかけられている。少し遠退いた背中を見ながらユイは言う。
「だって、明らかに重要人物なんでしょ。だったら、ちゃんと話さないと。平民の人と仲良しでいたいの。平民の――真ん中の人なんかと、ね」
声を一段低くしたユイに、ザイルは顔を顰めた。
「お前な。別にシアンはそんなんじゃない。慕われてるけどな。気にし過ぎだ。そうやって、考えすぎるといつか足元掬われるぞ。っと、失敗するぞ」
わからないと思ってだろう、ザイルはわかりやすい言葉に言い換えた。
「かも、しれないけど」
でもユイは思うのだ。
直感が告げている。
彼は、逃してはならない人物だと。
「仲良く、なっておきたいの」
ユイがこうなったらてこでも動かないということは既に短い付き合いの中で学んでいた。ザイルは呆れた顔をしたが、結局何も言わなかった。
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