FC2ブログ
小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
6「星のある夜」
2日目の夜は何事もなく過ぎた。
リューイの硬い表情が気になったものの、サイラギに言わないと判断したことを尋ねる気はなかった。
小さな物音にも気付かないふりをして、サイラギは目を閉じた。
明日からが勝負だ。
さあ――お楽しみの始まりだ。

今宵は月がない。異形の者が跋扈する夜。だから、外に出てはいけない。外に出たものは、帰ってくることができなくなる。
「うふふ。だれか来ないかなあ」
「誰も来ませんよ。こんな夜に来るわけないでしょう」
「ええつまんない。だれか来てよう。そうしたら遊んであげるのに」
「―――私が遊んで差し上げますから」
「ほんと?」
「私が嘘を言ったことがありますか」
「しょっちゅう」
「……そうでしたっけ」
「そうだよ。しょっちゅううそつくの。覚えてないかもしれないけど、レイナは覚えてるよ」
「レイナが覚えているならそれでいいです」
「そうなの?」
「はい」
「ふうん」
呟いて少女は空を見上げる。手を伸ばせば、星が手に届きそうだ。目の先のあるのは導きの星と呼ばれる星。
「あの星はどこにこの国を導くのかなあ」
「滅んでくれたら私としては嬉しいのですが」
「ええっ、それはつまらないよ」
「レイナに害を及ぼそうとした連中など呪いによって死ぬべきです」
「別にレイナは気にしてないのに」
「私が嫌なんです」
レイナを抱きよせ、共に毛布をかぶる。お互いの魔力が近づきあって、熱を生じさせる。
「ふふ、あったかぁい」
「風邪を引かないでくださいね」
「大丈夫。カルアも気をつけてね」
心配そうな口調というわけでもなく付け加えられた言葉に、大層嬉しそうな顔で青年は微笑む。だが、少女は全く気にする様子もなくただ空を見上げ続ける。
「王が、また変革を起こそうとしてるみたい」
「……どの?」
一転して不機嫌そうに彼の声は低くなったが、相変わらず少女が気にする様子はない。
「今のヴィラエステルのおうさま。結構有能なひとが続くねえ。前の戦争も勝ったし。負けるかと思ったのに」
「負けてしまえばよかったのに」
「どっちでもいいけど。あのこがいたから、勝てたんだろうし。それも実力だもん、すごいよね」
「私はもう一度あんな思いをするくらいなら、この国を滅ぼしたいんですが」
「それはだめぇ。均衡崩したら怒られちゃうもん」
頭の真上にある彼の顔を見上げ、にっこりと微笑む。
「こんなのも、いいなって思うの。カルアは思わない?」
「………思います」
彼の同意に、満足そうに少女は頷いた。
「よね。――じゃあ、やっぱり王都に行こう。変革の場所にいないのは面白くないもの。変革の場所から何が生まれるのか――楽しみだなあ」
少女の決定に、彼は口を挟むことなくただ再び少女の体を守るかのように抱き締めなおした。
星は、瞬き続ける。


星が輝く夜だ。こんな夜、星詠みはどんな声を聞くのだろう。王家を導くとされる北極星は、不吉の星でもある。あの星は――何と言っているのだろうか。
陛下。
「陛下はやめろ。敬語もなしだ」
……わがままだな。
「王がわがままなものだろう」
陛下じゃないんだろ?
「いちいちうるさいぞ、アトラス。珍しいな、こんな夜更けに俺のところに来るなんて。さすがに俺も今宵は出かけたりせんよ。それともお前が連れ出してくれるのか?」
初めての夜遊びは、月が明るかっただろ。こんな夜じゃない。こんな夜では、夜影にまぎれて異形の者が跋扈する。お前が出てきていい夜じゃないって何度言えばわかるんだ。この間もお前勝手に外に出てただろ。護衛が捲かれたって嘆いてたぞ。
「ついてこれん軟弱な者はいらん。異形を退治するのは俺の役目だ」
前まではな。今のお前はてっぺんで指揮する立場だよ。自ら先導してはならない。
「面倒だな」
俺が、お前の代わりに外に出る。お前は俺の体を好きに使っていい。言っただろ?
「………声を出せ。俺は、その小技は好かん」
「本当にお前はわがままだな。俺がここにいるのバレたら困るんだけど」
「そうまでして来たのはお前だろうが。俺には関係ない」
先ほどまで王の頭に響いていた声が耳を通して入ってくる。影に隠れていた姿が光に照らされた。
「よ。眠れない?」
「………」
アトラスの軽い口調に返答はない。ただ、欄干を握る手が震える。
「明日から、王妃選びだろ? そのために色々準備してきたんだ、仕事も減ってるし自分のための時間くらい割けるだろうに。別に本当にあぶりだしのためだけに企画を思いついたわけじゃないだろう」
「――お前は、いいのか?」
「何が」
「俺が好きに王妃を選んでも」
わずかな間が空いた。だが、その間について王が想像を巡らせる前に王の頭に手を伸ばした。乱暴に頭を撫でる。
「ガキが余計なことを考えない。大丈夫、俺はお前を守る。宰相閣下もお前を認めてる。団長もね。お前はこの国の王だ。好きにしていい」
しばらくされるがままになっていた王は、ため息をついていまや視線が下になった相手を見つめる。
「年は1つしか変わらないだろう」
「1つも上だったら、俺がお兄ちゃんだよ」
再び王はため息をついた。時々、アトラスはこうやってお兄ちゃんぶる。それは王が迷っている時であり、支えて欲しいと思っている時でもある。
それでも、アトラスのことがわからない。何を思って彼に仕えてくれているのか、どうして彼は臣下でありながらより身近な存在としても支えようとしてくれているのか。確かに、出会った当初はそれを望んだ。しかし、今や彼は王である。王宮の中で、二人の時だけとはいえ態度が変わらないのはアトラスを始めとする近衛騎士団の連中や星詠みくらいのものだった。星詠みに限っていえば、どんな時だろうと態度は変わらない。騎士団の皆も、アトラスの態度を見て軟化したようなものだった。
「アトラス」
「どうした?」
欄干を握る手が弱まる。決めたのだから、迷ってはならない。そのために万全の準備は整えた。後は、ゲームを始めるだけだ。
「――明日の晩餐会。来るか?」
「俺が? 嫌だよ、俺知り合い多いから。侍女連中にはあんま評判良くないし」
「俺が行く以上、近従は許可させる。暗殺者が紛れ込んでいないとも限らんからな」
「……お前、行くのか。いいのか、ハンナは怒るぞ? 邪魔だってな」
想像したのか目が笑っている。ハンナも近衛騎士団の一員だが、王を尊敬しつつも罵倒ばかりしていた。
「最初の様子くらい確認したい。『目』を通じてみることはできても、空気はわからん」
「また負担が増えるんだって。王なら泰然と構えておけ。2人を信用しろ」
「信用してるさ。だが、王妃候補なんだろ? 自分の目で確かめたい」
しごく真面目な表情に、大きなため息をついた。結局のところ、アトラスは王に逆らえない。
「……俺じゃあ、役不足。どうしてもって言うなら、団長に行ってもらえ。あとはサリエルとハンナに任せておけ」
「―――アトラス」
欄干に体を預け、もう一度彼の名前を呼んでみる。とたんに、彼は苦虫をかみつぶしたような顔になった。
「ったくそんな顔しても無駄! 行かない! 仕事はたくさん残ってるんだ。ちゃんと道は開いておくから、緊急時にはすぐに駆けつけるって」
「そんな顔?」
「迷子の子供みたいな顔」
「そんな顔はしてないが」
王の申し立てにもため息をつくだけで、答える様子はない。
「……いいだろう。今回は免除する。だが、逃げられないぞ。そのうち絶対に参加してもらわなければならなくなる」
「逃げてないって」
アトラスの反論は弱く、説得力がない。何を考えているのかわからないが、女ばかりのところに行くのがそんなにも嫌なのだろうか。王とて女が嫌いなわけではない。しかし、明日の夜、王妃候補らの元に好んで行きたいとは思えないのは確かだが。
もう一度夜空を見上げる。星が輝いている。星詠みに頼めば、通訳してくれるかもしれない。だが、今夜はもう寝たほうがいいだろう。明日から忙しくなるからと、ぎりぎりまで執務が入っている。
「さあ――お楽しみの始まりだ」
星の導くままに。

「ふむ彼女が来るのか面白いなあさすが王だないや違うアトラスがすごいのかどこがすごいのかわからんがほうそうか彼のためか彼が動くとああなるんだなさすがというべきだろうな! お、何だ?」
「ふーむ。これは私もより話すべきかもしれないがだからといって動くほどでもないはずなのだがさてここから動くと星と語れるものがいなくなるし王宮が傾くなあどうしようか」
「なるほど私がすべきなのかふむそれはそれでありだなよしそれでいこうなら次の晩もう一度ここに来てくれるかい?」
「そうか残念だならば仕方がないそれはそれで大層麗しいだろう星の輝きも異なるがやはり美しいものは美しい」

夜が明ける。星明かりが消えていく。
昼の中で語ることもできるが、それは星が夜更かしをする場合だ。大抵の星が自らの美貌を保つために夜明けとともに眠ってしまうから。

夜が明ける。
「おやすみなさい」

良い夢を。





前へ                「花戦」目次               次へ

スポンサーサイト



この記事へのコメント
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://potsprite.blog83.fc2.com/tb.php/25-f7f7e8e8
文字を大きく・小さく

    FC2カウンター

    最新記事
    カテゴリ
    月別アーカイブ
    プロフィール

    土鍋妖怪

    Author:土鍋妖怪
    生息地:土鍋。
    体長:16cm。
    特徴:本の虫。

    リンク
    拍手
    最新コメント
    最新トラックバック

    メールフォーム

    何かありましたらお気軽にどうぞ。

    名前:
    メール:
    件名:
    本文:

    検索フォーム

    RSSリンクの表示
    ブロとも申請フォーム
    QRコード

    QRコード