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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
7「はじめてのであい」
すがすがしい朝だ。まさに、戦いの幕開けにふさわしい。
「よっしゃああ!! がんばるぞお!!」
「サイラギ様! はしたない言葉で叫ばないで下さい!」
いきなり怒られた。

アエラによって整えられた髪。シンプルながら上等そうなドレス。肘まで隠す長い手袋。用意は完璧で、今日の夜が待ち遠しい。今日もリューイはどこかに潜入しているようだが、早めに帰ってくるようには言ってあった。何があるかわからない。リューイ自身が入ることは不可能だが、初回のパーティーである以上、常に先を見越しておかなければとサイラギ自身は考えている。
(……ふむ)
まだ準備の時間まで余裕がある。
できれば、情報が欲しい。誰が来るかは頭に入っているとはいえ、顔も形もわからない。父親から教えてもらったそれぞれの『親』の情報はあるものの、似ていなかったら意味がないわけで。
「アエラ」
「何ですか?」
最終チェックと手入れに余念がないアエラの返事は適当だ。気付かれないようにゆっくりとドアまで移動し。
「ちょっと遊んでくる」
「えっサエラギ様っ?」
抗議の言葉が届く前に、ドアは閉められた。


晩餐会には誰が来るのだろう。周りに尋ねてみても、「ティシアナ様より可愛らしい方はいらっしゃいませんわ」というばかりで誰も教えてくれない。どんな様子かも教えてくれない。いつもそうだ。彼女は常に仲間外れで、いつの間にか全てが終わっている。
つまらなそうにしていたら、気を利かした侍女の一人が庭に連れ出してくれた。ここの庭はいい香りがする。噴水から水がはね、きらきらと光が反射する。彼女の家の庭も大きいが、雰囲気がまるで違った。
「絵本の世界みたい」
温かい雰囲気と、きらきらと輝く世界。
一緒に来ていた侍女も、紅茶を用意するために一度部屋に戻った。ティシアナの傍には誰かいつのが普通で、絶対どこかに護衛担当の騎士が隠れていた。でも、ここでは違う。男は入れないし、彼女の家には女騎士はいない。見える範囲だから、ちょっと油断したんだと思う。
ほんの一瞬だけ、一人になる。一人になるなんてこと絶対になかったから、余計に物語の世界みたいだった。
だから。
「あれ――初めまして」
だから綺麗な黒髪のひとを見たとき、物語の世界の人かと思ってしまったのだ。

「え――あ、はじめ、まし、て」
淑女としても挨拶をしなければと思うのに、見惚れてしまっていて。動きが遅れてしまって、こけそうになる。
「あっ」
「あっと――危ないですよ?」
長いドレスのすそを踏んでしまい、ちょっと足から崩れそうになる。その人は離れたところにいたというのに、あっと言う間に傍に来てティシアナを軽く抱きとめた。黒髪が眼の前をかすめる。
「ご、ごめんな――」
「謝らないで下さい。私がしたいとこをしただけですから。謝るなら――お礼が、欲しいかなあ」
そう言って、黒髪のひとはくすりと微笑んだ。
綺麗な人だ。
ティシアナも上流貴族の生まれである以上、侍女も美人が揃っている。父親が過保護だからパーティーに出たことはほとんどないけれど、兄姉を始め、綺麗な人間は見慣れているつもりあった。
でも、この人は。
身にまとう空気は凛としていて、優しく微笑む表情は親しみにあふれている。知らない人からこんな笑顔をもらったことなどない。自然と顔じゅうに血が集まって、でも、言わなければならないことを口にした。
「ありがとうございます」
「いいですよ。気をつけてくださいね?」
黒髪のひとはもう一度にっこりとほほ笑んだ。

それから少しだけたわいもない話をする。侍女が慌てて戻ってきて、ティシアナから黒髪のひとを引き離そうとしたからがんばって止めた。滅多に彼女がそういう我儘を言うことはなかったから、仕方無さそうに紅茶を用意してくれた。2人ぶんだ。
きっと、侍女も黒髪のひとなら大丈夫って思ってくれたんだろう。
嬉しくなって自分の名前を名乗る。黒髪のひとも、ちょっと考えてからサイラギ・アッデライドと申します、と名乗ってくれた。
ティシアナはきょとんとした。
「女のひと?」
見知らぬ人と話すことを面白がってはいなかった侍女も、黒髪の人も一瞬動きをとめ――『彼女』は大きく噴き出した。
「あはっ……初めてっ……ふふふ。いえ、申し訳ありません。ご期待に添えなくてすみません。これでも私、女なんです」
「申し訳ありません。ティシアナ様はあまり外の方と交わったことがないのです」
侍女に謝られ、ティシアナは頬を膨らませる。用意された椅子の上で足をぶらぶらさせるとまた怒られた。ますます面白くない。
「だって、王子様みたいって思ったんですもの」
「そうですか。でしたら、ここにいらっしゃる間――王子様に、なって差し上げましょうか?」
柔らかく笑んだ気配に、思わず顔をあげる。酷く優しく見つめられ、頬が朱に染まる。『黒髪の彼女』が片膝をついてティシアナの柔らかな手を掬いあげた。
「ティシアナ様?」
「あ――は、はい」
「また、遊びに来てもいいですか?」
兄上を巻きこんだ騎士ごっこ。侍女や護衛を巻きこんだ物語のまねっこ。そのどれよりもティシアナの理想で、真剣な目をしたサイラギに恥ずかしそうに頷いた。手の甲に触れた唇が、柔らかくてくらくらする。
「私も、サイラギ様にお会いしたいです」
「サイラギ」
「え?」
「サイラギで、いいですよ。お姫様」

侍女の鋭い目での牽制をくらったが、サイラギは一向に気にしなかった。なにせ、お姫様ご本人に気に入られたのだ。ティシアナといえば、今回のお后候補の筆頭である。年齢が少し幼いこともあって1位ではないものの、父親は前王の側近であり現在も王の近臣であるはずだ。
年齢よりも幼い印象すら受けた。確かリューイと同い年のはずだ。口調こそリューイも幼いが、中身はしっかりしている。彼女はきっと大切に育てられたのだろう、俗世に染まっていないという侍女の言葉にも頷けた。
今日の準備がまだ済んでいないからと侍女に急きたてられて戻ってしまったが。
約束、できたし。
(――さて、次はどこに行くべきか)
頂いた紅茶を飲みほし、立ち上がろうとするサイラギに声がかかった。
「サイラギ様」
「――何でしょうか」
ティシアナの侍女だ。先ほどの侍女とは違う、威厳を伴った美人。素早く外面を張り付けて振り返る。
「何のおつもりですか」
「何、とおっしゃいますと」
困ったようなふりをして首を傾げると、彼女は眉間に皺をよせて距離を詰めた。
(胸大きいなあ。でもアエラのが形綺麗かもしれない)
という余計な考えは表面に出さずにあくまで知らぬふりを通す。
「ティシアナ様は、サイラギ様とは格の違うお方です。将来のお后となられる方ですわ。何の目的で、ティシアナ様に近づかれるんです?」
やっぱり来た。
とはいえ、たかだか侍女に強く言われたくらいでぼろを出すサイラギではない。やっぱり本名使うんじゃなかったかなあと思いながらも言い訳を頭の中で考える。
人を言いくるめる方法その1。
本当のことしか言わないこと。
「通りがかりに、お会いした方にご挨拶をと。そうしたら、突然躓かれまして――お支えしただけです」
嘘ではない。
「最後に、遊びに来ていいかとおっしゃったのはサイラギ様ですが」
「ティシアナ様がお名残り惜しそうでしたので、つい。あの方の瞳に見つめられるとこう、何でも叶えて差し上げたくなってしまいました」
これも本当だ。そろそろ、と侍女から催促された彼女の瞳に絆された。実際そういう人は多いのだろう、眉間の皺を増やしただけで反論は返ってこなかった。
しかし、ここまで警戒されては今後やりづらい。毎回毎回サイラギの悪口を吹き込まれては困る。
「私は、今回はオマケなんですよ」
一瞬にして考える表情になる。さすがに有能だ。サイラギの様子から嘘がないかを探っている。『敵』の情報は喉から手が出る程欲しい。それはお互い様で、同時に足を引っ張るか、協力関係を結ぶかもそれですべてが決まる。
「私のことをご存知なら、我が家の状況もおわかりだと思いますが」
それ以上は何も言わない。勝手に想像してくれても構わないし、よりサイラギのことを知ろうとしてくれても構わない。
「失礼致しました」
伏せられた瞳に何を隠したのかはわからなかった。だが、彼女はサイラギがティシアナに会いに来ることを認めた。
「いえ、急にお会いしてしまったのはこちらですから」
淑女の礼ではなく、『次期領主』としての礼を取る。その様子が見えているかなど関係なかった。
「お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした」
その場からサイラギの姿が消えるまで、彼女は目を伏せたままだった。

ここは女の戦場だ。剣も力もいらない、ただ情報のみが武器となる。重要なのは武器をどこで使うか。誰に使うか。そして――どう嘘をつくか。
そのために必要な手札を揃える必要がある。

サイラギは次なる手札を手に入れるため、もう一回りすることに決めた。
(偽名か、本名か。さて――どうするか)
相手への情報の出し方すら、武器になるのだから。


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