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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
9「王の企み」
注意:王サイドの話です。単なるキャラ紹介と裏設定紹介みたいなものなので、恋愛を楽しみたい人は無視してください笑




王宮の中心部に、その部屋はある。王と一部の近従にしか入ることを許されないその部屋は、王の執務室であり同時に要塞でもあった。
中央にしつらえた簡素だが座り心地の良い革製のイスにもたれかかり、目の前に並べられた資料に目を通す。王妃選びの候補者の履歴や、実際には提出されていない調査資料などがところせましと集められていた。
「王」
呼ぶ声に、沈黙をもって続きを促す。王の護衛である彼は淡々と続けた。
「晩餐会の準備が整った」
「そうか。で、『違反者』はどれくらいいそうだ?」
「確実なのは3人。怪しいのが2人」
「意外と少ないなあ。もっといるかと思ったが」
集められた人数は11人。不確実な違反者を含めても6名は違反することなく従ってきた。王の意図を読んでいるのか。
新たにドアをノックする音がし、深く思考の海に沈みこんだ主の代わりに彼は答える。
「はい」
「失礼します。……ヴァンも呼ばれてたのか」
資料を山ほど抱えて現れたのはアトラスだった。答えないヴァンの代わりに、王はにこやかに答える。
「当たり前だろう、ヴァンは俺の護衛だ」
「自覚がおありでしたか」
「ここには誰もおらん。敬語はやめろ」
わがままだなあ、とため息をついてアトラスは口調を切り替える。
「ヴァンがお前の護衛だって自覚あったんだ?」
「当たり前だ。俺が傍に置くと決めたんだ。護衛以外ないだろう?」
「たまに忘れてる気がするんだよなあ。いいけどさ。ヴァンは護衛って自覚あるの?」
楽しげな口調で聞くと、軽く彼は首を傾げた。
「仕事」
短く答えた。アトラスは笑い、王は仏頂面になる。
からかうのはそこまでに、と腕いっぱいに抱えた資料を王の前に置こうとしたが、あいにく机の上は資料でいっぱいだった。仕方がないので床の上に置く。
「少しは整理しろよ」
「整理はしてあるぞ。ほら、名前を言ってみろ。すぐに出てくる」
「お前なあ。なら俺が持ってきた資料を足したらどうするんだ。置場がなくなるぞ」
「…………アトラスがどうにかしてくれるんじゃないかな。なあヴァン」
「ちょ、待て。ヴァンを巻き込むなそして俺を利用するな。お前が動かないせいで俺にどんどん仕事回ってきてるんだぞ」
ひきつった顔で言いつのるが、全く聞かずに一人で頷いてヴァンを呼ぶ。
「というわけでアトラスにその件は任せろ」
ヴァンが口を開く前に、げんなりした口調で抗議する。
「横暴! 専制君主反対!」
「王だからな」
「そこでふんぞり返って腕組むなうざい」
「うざい言われたぞ。王に向かってなんて口のきき方だ。どう思うヴァン」
「敬語使うなって言ったのお前だろ、聞いたよなヴァン」
子供じみた口喧嘩はいつものことだ。だがそのたびに何を言えばいいかわからなくて、ヴァンは困ったような顔で黙ったまま凝視してしまう。
彼の表情の変化に気づくものが極少数だが。
「そこは黙れガキどもと言っていいと思いますよ」
「黙れガキども」
素直に言葉を繰り返した彼に、いっせいに二人は顔を顰めた。渋い顔の王は何もない空中に向かってしっしっと追い払うような仕草をする。
「聞こえてるぞ。いつからそこにいた」
「アトラスと一緒に入ってきました」
楽しげな口調を崩さず姿を見せない『彼』と、とたんにそっぽを向くアトラス。どうやらアトラスは一緒に入ってきたのを知っていたらしかった。
「……知ってたな」
「当たり前ですね。アトラスが魔導の波動に気づかないはずがない。気付かなかったのは陛下くらいですとも」
口が裂けた面のみが不気味に空中に浮かびあがった。目もとは彫り込まれているだけで穴はなく、口元に裂かれた線のみが面をつけている人物の様子を示していた。
「魔法は苦手だからな」
「わかってるなら練習しろよ……」
ぼそりと言われた言葉を無視して、面に向かって言う。
「で、なんだ? お前が俺の部屋まで来るなんて珍しい」
説教はアトラスとセイアリーズで十分だ、と付け足す。
「そういえばセイアリーズはどうした?」
「議会の準備中。陛下、早く行かないとセイアリーズがキレますよ?」
仮面の奥でくつくつと笑う。彼の実際の顔を見た者はほとんどいなかった。見たことがある王も、『その顔』が彼の本物の顔かどうかすら知らなかった。魔導の天才であり、王に代わって国の守りを一手に引き受ける魔導士長。
『幻惑の仮面』イリヤ=スィリアルーン。
「イリヤ、ちゃんと行くってセイアリーズに伝えておけ。逃げんよ」
「人使い荒いですね」
「本体がどこにあるかわからない人間が何を言う」
紫色の煙が唯一の穴から洩れる。溜息、のつもりらしい。紫色の煙が下へと降りていき、身体を形作る。仮面のみが浮かぶ姿は不気味だが、ここにいる人間にとってはむしろ仮面以外があるほうが驚きとなる。
「一応、ここにいますけどね」
「イリヤ、俺がここは片付ける。そろそろセイアリーズが本気で怒るだろうから、先に行っててください。どうせ俺は会場には入れないし」
年齢制限がネックとなって、条件を満たしてはいてもいまだ議員でないアトラスがイリヤを急きたてる。最も、年齢をクリアするようになったとしても議員に選ばれるかは微妙なところだが。議員は『貴族』の味方であっても『王』の味方ではないからだ。
「もうちょっとこちら側でも案件が残ってるんで、直接送ります」
「げ、俺あれ嫌い」
「了解した。先に話を進めておくよ」
煙が広がり、一瞬にして仮面を覆う。煙が霧散した後には、そこには影も――魔導の波動すら、残らなかった。
「というわけで陛下? 急がなきゃならんので、とっとと話続けますよ」
ざっくばらんな敬語モードになったアトラスは無敵だ。笑顔に迫力がある。王も逆らう気はない。
「結局晩餐会の違反者は?」
「確定しているのはティシアナ姫、アイリス姫、ジュンネ姫。他2人が不確定」
ヴァンの返事とともに、3つの資料の束が宙を舞って自らアトラスの前に並ぶ。肖像画付きだった。いちいち顔を映し出していては魔力の無駄遣いだからだ。
「意外と少ないですね。情報が漏れている可能性は?」
「漏れているなら、『情報漏洩』に気づくだけの者ということだな。たかだか晩餐会の違反だが」
「あとは? 陛下、何か気がついたことでも」
「いや、特にない。動きがまだないのは当然だ。2日目から動き回っている者など少ないからな。最も、こちら側に働きかけている者は少なからずいるようだ」
眉をひそめた彼に淡々とヴァンが報告する。
「もう4人排除した」
「ヴァンが? 俺のとこまで回ってないけど」
「お前にこれ以上負担かけるわけにいかん。大したことない小物だ。ザイルフッドには報告してある。報告したほうが楽だったか?」
「団長判断ならそれでいい。――今日は、陛下はどうしますか?」
晩餐会に王の出席予定はない。ただ、王妃候補たちの動向を見張る必要があった。今回集められたのは『カモフラージュ』か『曰くつき』ばかりである。王に本当に正妃を選ぶ気があるのか、アトラスには見極め切れていない。せめて愛妾くらいは持ってほしいというのがアトラスの希望だ。これ以上、女に興味がないと思われてはアトラスにまで影響が及ぶ。
アトラスと王が話すたびに、きゃあきゃあ侍女たちに騒がれてはたまらない。
「議会は何時までだ?」
「貴族たちが夜まで時間を費やすわけがない。議題もさほど大きなものはない。荒れるまでもなく予定調和で終わるはずです――セイアリーズさえうまくまわせば」
貴族でありながら髪を短くし、近衛騎士団に入ったアトラスと貴族至上主義のセイアリーズの仲はあまり良くない。皮肉ぽい口調になったのは仕方がないことであった。
「5年も議会長を務めあげている猛者だぞ、あれは。1ヶ月俺が議会に力を入れなかったからといって、そう簡単に議会を荒らさせたりせんさ」
「1ケ月も放置する気ですか」
「王妃選びに、それくらい時間かけても問題ないだろう」
王妃選びという名の――粛清の、続きを。
楽しげに唇がまくれあがる。こういうとき、彼は王そのものの顔であった。絶対的権力をその手に持ち、権力を振るうことに躊躇いを覚えない王者の顔。

(ごめん、サイラギ。俺は、お前をこちら側に引き込みたくはなかったのに)
思い浮かぶのは『正しき貴族』の姿である彼女の姿。
彼女に招待状を見せたのは『王の命』。断ってほしかったのに、彼女は断らなかった。おそらく本能的にわかっていたのだろう――招待状という名のそれが、王による勅命であることに。そして、断った時に起こる何かに気づいていたのだ。

「そろそろ行かんとな。議会に遅刻は厳禁だ」
にやりと笑った王は、アトラスに言う。
「資料整理、宜しく頼む」
「それが目的ですか」
「いいだろう、俺は眠くてたまらん議会に出席しないといかんのだ。お前はそれを免除されてるんだ、ありがたく思え」
不意にまじめな表情になり、耳元で囁く。溜息をついたアトラスの魔術は既に展開を始めていた。
「終わったら迎えに来い。途中までヴァンに送らせる。――せっかくだ、余興は楽しまんとな」
魔術の展開が終了する。剣を抜き、最後の仕上げを行う。単純な移送の魔術ならここまで手の込んだことはしないが、おそらくイリヤが作った出口は議員たちから見えるところにある。ならば、せいぜい派手に威厳のある登場をしてもらわねばならない。
(無駄な魔力の浪費だ)
そう思いながらも、その行為が権力の象徴であることを知っているからこそ雑にはできなかった。いつのまにか王の傍に控えていたヴァンが最後の発動のサインを行う。
向こうでのイリヤの準備は終了していた。イリヤの波動と繋がったのがわかる。どんな準備をしているかは定かでないが、そのあたりの演出は王に任せればいい。アトラスの仕事は、扉を開くだけだ。
「わかったよ。ヴァン、扉の鍵は開けておくから先にサインだけくれ」
「はい」
アトラスの抜き身の剣が王の胸部の前で弧を描く。
「<解錠>」
ごとりと空間が入れ替わる。アトラスの内部で、扉が開く音がした。目をつむり、自分の中に落ちた鍵を拾う。次がないならば体内に魔力として扉ごと戻してしまってもいいが、迎えを命じられた。ならば、同じようにして扉を開かねばならない。
剣が鍵となり、施錠される。鞘におさめたあと、ゆっくりと目を開けた。
「……………本当にあの野郎! 重しで止めておけよ!」
あとには、魔術の反動でばらばらになった資料が残るのみだった。一度アトラスの前に集められた3人分の資料も、持ってきた資料さえばらばらになってしまった。
全て整え直さなければならない。一体どれだけの資料を集めたのだか知らないが、11人分ともなればそれだけで量は多くなる。
宰相すら関与している今回、手を抜く訳にはいかない。

「――あ」
最初に手に取った1枚。
不意に、王の考えの一つが読みとれた気がした。
自然と顔が険しくなるのを自覚しながら、アトラスは思考の海に沈みこんだ。


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