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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
10-晩餐会
夜が、やってきた。

お茶会でもないというのに、妙齢の女性が11人も集まる機会などそうないだろう。
案内された席はティシアナの隣で、サイラギより先に席に着いていた彼女は大きな目を瞬かせてから花のような笑みを浮かべた。
「サイラギ様」
「サイラギでいいですよ。ティシアナ様、またお会いしましたね。ああ、大丈夫ですよ」
ティシアナは侍女と離れた経験がない。不安げに周囲を見回していたことに気づき、優しく言い添えた。一瞬にして赤くなる。
「だって、一人になったことなんてないんですもの」
「一人じゃないですよ」
にっこりとほほ笑む。
「私が隣にいます。ご心配なく、何かあったら私がティシアナ様をお守りします」
サイラギのすごいところは、それを本心で言っているところである。とことんまで次期領主であるという意識が染みついているのか、かよわいお嬢様は守るものであるという認識なのだ。ティシアナを真ん中にしてサイラギと反対側に座った少女が一瞬眉をひそめた。目があったがふいと逸らされる。
(あれは、アイリス様か?)
10人の名前と経歴を直前まで叩き込んである。
アイリスはカデトゥス家ほど大きくはないものの、王都に近く重要産出品である魔石の産地、バルガイズの領主の娘だ。確か次女で年は19。16では適齢期とするには魔力が不安定なことを考えると、一番結婚適齢期といえた。ちなみにサイラギは遅い。ぎりぎりだ。
アイリスに話しかけようとして――扉が閉められ、同時に扉近くにたった二人の騎士に目が行った。何人かはすでに王妃候補者の中で顔を知られているのだろう、王妃候補者たちは驚いた声で「ハンナ様が……」などと囁き合っている。
残念ながら、騎士団の有名人は知らない。格好からするに、近衛騎士団のものだ。つまり、『王の直属』。『国』の軍隊ではない。
――ようするに、ここでおこることは全て王に伝わるということだ。そして、それを暗に私達に知らせている。
今回の王妃品評会に、予想以上の企みを感じた。

「今回はお集り頂きありがとうございます」
一瞬静まった隙を見計らい、澄んだ声が一方の口から響いた。おそらく、女性だ。中性的だが、伸ばした髪を結っているところから考えて魔法剣士。
もう一人の柔らかい雰囲気を持つ青年は、さほど髪をのばしていない。正式な剣には、魔術封じの紋が描かれている。対魔導士・魔術士用の退魔術を扱う剣士だろう。
リューイならともかく、魔力探知力に欠けるサイラギには彼らの実力はわからなかったが。
「わたくしはハンナ。こちらはサリエルです。今回の夕食、またそれ以後のメインの警護等を担当させていただくこととなっております」
11人の口から一斉に驚きが漏れる。
サイラギもびっくりした。なにせ、近衛騎士団は王の傍に仕える者。精鋭部隊であるし、そう簡単に動かせるものでもない。それが、こんなことに使うなんてと思わないではいられない。
あるいは、『使わなければならないほどの事情』が生じると予測しているのだろうか。
「それでは、しばしご歓談ください。すぐに食前酒をお持ちします」

「――アイリス様、いかがなさいましたか?」
一瞬顔が険しくなった彼女に、声をかけたのはカステリーナだった。
ファリアータとは違った方向の美貌の持ち主だった。輝くような金色の髪が彼女の美しさを際立たせていたが、それ以上に赤い瞳が苛烈な性質と自信を表していた。
美しさのせいだけではない。ここで、彼女こそが主であると誰もが認めるほどには堂々とした女主人だった。
年は確か22歳。サイラギより年下だとは到底思えない。田舎育ちである意味純粋培養のサイラギと異なり、幼少時より宮廷で揉まれて育った証拠だ。彼女のバックにある血筋を考慮しなくても確かに彼女は王妃候補ナンバー1だろう。
「い、いえ何でもありませんわ!」
血筋では負けていないアイリスも、カステリーナの空気に飲まれていた。同じように美しい金髪を持つがカステリーナのそれより少し淡く、結いあげることによって色を出していた。
「そう? ならば良いのですけど。ふふ、こういう形式は初めてですわね。ご存じの方のほうが多いとは思いますが、わたくしがカステリーナ。どうぞカスティとお呼びください」
にっこりと微笑む姿は堂々としていて美しい。皆が空気に飲まれる中、それでは、と声をあげたのがファリアータだった。ああ、やはり美しい。
彼女には、ティシアナと別れたあとに顔を合わせていた。思わず「友達になって下さい」と本音がこぼれてしまうくらいには、人を見抜く目を持った美女だ。何故かアトラスと知り合いらしく、妙に仲がいい印象を受けた。
「では、私も名乗らせて頂きます。ファリアータ・カデトゥスですわ。しばらく一緒にヒスリア宮に滞在するのですもの、よろしくお願いしますね」
カステリーナを太陽とするならファリアータの美しさは月。王宮側もそれを見越して配置したに違いない。隣に座る彼女らは1対の絵画のようである。
ああ、やっぱり来て良かった。
先ほどまでの思いをすっかり忘れて陶酔した。美しいものが好きとはいえ、彼女の領地では限度がある。やはり、洗練された美しさを見るには王都に限る。
よりどりみどりの美女、美少女たちが同じように挨拶し、適当なところでサイラギも同様に挨拶する。特に興味の無さそうな扱いをされているのは折り込み済みだ。彼女たちが全員お互いの情報を知っているわけでもないだろうし、知っていたとしてもサイラギは辺境領主の娘でしかない。次期領主がどうしてこんなところに、という疑問はありそうだが。
出てきた料理は予想以上に美味しかった。なかなかティシアナは食が進んでいないようだったが、この雰囲気では仕方がない。場の空気を全てカステリーナが持っていってしまった。彼女を中心にして話は進められ、彼女を中心に笑いが起こる。
ファリアータもまたカステリーナの影となり話題を展開させる。
「まあ、わたくしもこういう場に連れて来て頂きましたけど、なかなか相手が見つかりませんの」
「カステリーナ様ほどの方でしたら、相手が霞んでしまいますわ」
隣に座る姫も本気で言っているようで、お世辞を言っているようには思えない。
「ふふふ、皆様美しいからそのような方ばかりでしょうね。カステリーナ様にふさわしい方はもちろんそういらっしゃいませんけど、ファリアータ様も難しいんじゃありません?」
「私はカステリーナ様と違って、相手が寄ってきて下さらないの」
「お父様が厳しいのですね。適当な相手では許して下さらないのでしょう」
花が咲いている様子は素敵だ。予想通りといえば予想通り、ティシアナは人見知りらしくもぎゅもぎゅと小さな口に料理を詰め込むだけで一言も発しない。一人ぼっちに慣れていないというのもあるが、だとしたらこのような場は苦痛だろう。
サイラギの視線を感じて目をあげた。自然と目が合い、にこりと微笑むとフォークを持ったまま口許だけ笑ってくれた。
可愛いなあと悦に入っていると、その様子が眼に入ったのだろう今まで何も声をかけられていなかったのにいきなり名前を呼ぶ声がした。
「あ、申し訳ありません。何でしょう?」
「サイラギ様はアッデライド地方の次期領主さまでしょう? どうしてこちらにいらしたのかと思って」
尋ねたのはカステリーナ。さすがに彼女は皆の情報を頭に入れて来ているらしい。――だが、ここで誰が味方になりえるか、友達になりえるかわからない以上語る気はなかった。
「私があまりに貴族社会に疎いものだから父が心配いたしまして。領地も遠いですし、お誘いも頂く機会もないので……私自身王都に、来ることができる機会はそうないので、楽しみにして参りました」
にこやかに言ってのける。父親にそんな甲斐性があったらこんなこと計画しないよ、と内心ぼやきながらカステリーナの反応を待った。
「あら、でしたらまた今度お誘い致しますわ。我が家の庭はとても美しいの。母上もよくお茶会を企画していますし、気安いパーティーですからよろしければいらっしゃらない?」
「領地が遠いので――行くことができたら、行かせて頂きたいですね。誘ってけるなんて光栄です」
「カステリーナ様のお誘いでしたら、私ならどんなに遠くても行きますわ」
「私も参加させて頂きません? 噂にはよく聞きますけど、本当に美しいのだとか」
こっちの貧乏さを舐めるな、そう簡単に馬を消耗させられるか、と思いつつにこやかに頷く。カステリーナはどうかわからないが、一部の女性からはサイラギを敵から外されたらしい。ありがたいことだ。
サイラギとしても、王妃の座など狙っていない。
「うふふ、また終わりましたらお誘い致しますね。どのような形で王妃が決まるのかわかりませんけれど」

空気が一瞬凍る。だが、カステリーナが再び口を開いたことで、すぐにその空気は霧散した。
(……彼女は、何かを知っているのだろうか)
王の目的はわからない。参加者の一部は目くらましだろうが、確実に何か目的がある人物がいるはずだ。王妃探しはこんな形で行われるものではない。
王の地位自体、いまだ危うい。議会の不穏な動きは王都に在住するサイラギの直臣から聞いていた。もしかしたらそれが関係するのかもしれない。
(一度、直接会う必要があるか)
直接ヒスリア宮に入ってしまったため、会う機会がなかった。リューイなら動けるだろうが、へたに使いすぎて目立ちたくはない。

それ以降はつつがなく――お互いの手探りは終了した。終了した時点で全員に難敵扱いされたのはカステリーナとファリアータ。サイラギほどではなくとも、本当に王妃になる目的があるのかはわからない。だが、全員の目は彼女たちを見ていた。
ティシアナは別だが。
「サイラギは、これからどうするの?」
純真な目を向けられたらどうしたらいいかわからない。つつがなく終了したあとは、控えていた侍女が迎えに来ている。アエラもサイラギを迎えに来ていた。ティシアナの侍女が険のある目つきで睨んでいる。
「帰りますよ? 夜更かしは美容の大敵です。ティシアナ様も、お若いですからまだお綺麗ですが油断してはいけません。特に珍しい体験をしてお疲れのはずです。おやすみになったほうがいいでせすよ?」
それでも、目を伏せながらちらりとも侍女のほうを見ない。
「……帰り道ですし、お送りしましょうか。いかがですか?」
聞いたのは侍女へのつもりだったのだが、ぱあと花が開くような笑顔をされてしまってはどうしようもない。
侍女も諦め顔で何も言わなかった。――アエラだけは、後で話を聞かせてください、とでもいいかねない呆れた目で溜息をついている。
「では行きましょうか」
帰り仕度をする者もいれば、カステリーナの周りに残る者もいる。ファリアータと少し話したかったのだが仕方がない。彼女も数人に囲まれていた。扉の前に立つ衛兵代わりのハンナとサリエルに挨拶をされ、ティシアナと共に丁寧な淑女の礼をする。
ちょっと驚いた顔をしていたのはハンナだ。近衛騎士団が何人いるか知らないが、おそらくアトラスの同僚だろう。下手したらサイラギのことを知っているかもしれない。
アトラスなど、近衛騎士団でもぱしりに使われていそうと勝手に想像していたから、知らないかもしれない。
何も口出ししてこなければ問題ない。

不意に耳元に気配がした。
『あら、帰ってしまうの?――またゆっくりお話しましょうね』

反射的にいつも剣のある位置に手を置いてしまう。ハンナは目線を厳しくし、おそらく魔法が発動されたであろう方向を見やる。サリエルは素早く『消去』の魔法を発動させていた。
「大丈夫ですか」
続きがあったのかもしれないが、サリエルの魔法で消えてしまった。落胆など見せてはいけない。
「問題、ありません」
わざわざハンナとサリエルという王の斥候の前で魔法を発動させるとは何と大胆。もし、その行為によりサイラギに注意を向けさせる気ならなんと狡猾。
口許に笑みを浮かべ、何が起こったかわからずに心配そうな顔をしたティシアナの手を取った。
「失礼致しました。それでは、また」



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