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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
1「到着しました王宮に」
さすがに、王妃候補となれば、見目麗しい者が集まる。もちろん、今回の目的はそれではないが、サイラギはひそかに楽しみにしていた。今回の王妃候補となるのはサイラギも含めて11名と聞いている。中途半端な数なのは、おそらくサイラギのせいだろう。

アトラスを半ば脅して持ってきてもらった参加者表を見ながら、頬が軽く緩むのは避けられない。なるほど、ある程度の地位に集まる家系の子女が集まっているようだ。おそらく筆頭は現宰相を叔父に持つカステリーナだろう。王の考えからして、これ以上宰相に力を与えるとは思えないが、娘ではないところがミソだ。現に宰相には、結婚適齢期に入ったところの娘がいるはずである。他にも、見たことがある家名ばかりだ。ただ、ある程度地位や派閥に偏りがある。結婚適齢期の女性がいなかったか、あるいは脛に傷を持つ者が多いせいだろう。
サイラギの家系のように、没落しかけの家も来てはいないようだが。
没落しかけの家などというものは、この場にはふさわしくないと冷たい目で見られるだろうが、サイラギはへっちゃらである。むしろ、それで自分を敵とみなされないほうが都合がいい。貴族間同士は仲良くなっておいたほうが何かと得だというのに、父親は舞踏会が苦手だとことごとく避けてきた。サイラギも得意ではないが、情報収集に欠かせない場所に出かけない父親を理解はできない。
王妃候補に並ぶことを決めた理由の一つは、ここでオトモダチを作っておくためであった。幸いなことに、なかなかどうして美味しい家柄が多い。よほどの野心家か、脛に傷を持たずに王に娘を献上できる者。知りあいになっておいて損はない。
サイラギは参加者表を片手に、現在集まっている馬車の数を数えてみた。カーテンを開けるのは非常識です、とアエラが再三注意するので、開けるのはほんの小指の先ほどだけだったが。
「ひーふーみー……多いな」
「当たり前ですわ。随従の数だけではありません。少しでも快適に過ごせるよう、様々なものを持ってくるのが当然なんです」
サイラギはといえば、最低限の荷物に、随従はアエラとリューイだけである。あとから来ることになっているのも、アエラの妹、ミリアのみ。彼女についてくるついでに、男勢が王都には来るらしいが、ここに近づくことはできないだろう。アトラスによれば、ご飯も寝るところも、服でさえ用意があるとのことだったので、大して気にしてなかったが。
「そうはいっても、人手は足りないしな。参ったな、もう少し連れてくるべきだったか?ご飯代も浮くし」
世知辛いことを呟くが、優秀な侍女は否定した。
「いえ、最低限で十分です。どうせ、男連中は入れないんですもの。奥方様についておくべき人のことも考えたら、仕方ありません」
今さら、人手が少ないことで陰口をたたかれることを厭うつもりはない。ただ、人手が足りないことで、トモダチができにくいのではないのか、という点が気がかりではある。
(そんな人間は本当の友達にはいらないけど……情報源だからなあ)
人柄など、気にしてる場合ではなかった。
少し、手段を考えなければならないかもしれない。
与えられた部屋に入り、一息ついたサイラギはベッドに寝転がる。
「サイラギ様、はしたないですわ」
「ふかふかだな、このベッドは。見ろ、調度品も上等なものばかりだ。少しくらい持って帰ってもいいだろうか」
「……それは、御自分で交渉してください」
荷造りを崩し、サイラギの居場所を整える。部屋、といっても細かくいえばひとつの館が与えられたようなものだった。部屋が三つにダイニングが一つ、ソファに暖炉まで完備されている。
「こんな場所を持っているなんて、つくづく王宮は素晴らしいですわね」
「そうだな。たぶん、ここは元後宮だろう」
ぎょっとしたようなアエラを見ることなく、目を閉じる。
ご飯は一体、どういう風にして食べればいいんだろうか。届けてくれるのか。あ、あとせっかくだからお風呂入りたい。
お風呂などという高級な装備は、ここに比べればはるかに貧相な彼女の家にないわけではなかったが滅多に入ることはなかった。あんなに水を無駄にするものを使うのは、お祝い事があった時くらいだ。
「リューイ」
「はい」
子犬のようにちょこんと傍に座った彼の頭を手探りで撫でる。
「今日は、休みだ。だが、明日から一ヶ月――頑張れるか?」
「問題ありません」
「サイラギ様も、ですからね?」
しっかりと釘をさしたアエラの言葉には答えずに、ふかふかの布団に顔を埋めてしばしの休息を楽しんだ。

初日と二日目は、「か弱いお嬢様方」が慣れるためだろう、アエラの元に届けられた予定表は空白だった。
「でも、どうやって王様は選ぶ気なんだ? ここで暮らしてるだけだと会えないだろう」
サイラギは予定表を見ながら首を傾げた。後ろで髪をすくアエラものぞきこむ。
三日目の夜、晩餐会。ごく私的なもので、王はこの場には現れず王妃候補の間で交流を行うのみだという。実際、付き人は不許可という異例の晩餐会だ。何かしら考えがあるとみるべきだろう。
四日目、王の教育係がやってきて、知性を試すテストを行う。……なんだか、官を選ぶ試験みたいだな、とサイラギはこぼした。どの程度か結果は知らされないらしい。
五日目、未定。
六日目、交流会。7日目、王と対面。
「一週間後か」
「遅いですわね」
「王が乗り気でないんだろうな。それにこれ。三日目が晩餐会で、六日目が交流会。普通、逆じゃないか? 五日目も空白だしな。……リューイ、調べられないか?」
隣で同じように覗き込んでいたリューイの灰色の瞳がサイラギを映す。澄んだ瞳が、サイラギの言葉を待つ。
「アトラスがここにいるだろう。あれに連絡を取ってもいい。ただ、あいつが吐くかは微妙なとこだが」
ちょっと首をかしげると、リューイを膝に乗せる。この頃大きくなったとはいえ、それでも同年代の男の子に比べればまだまだ小さく軽い。出会ったころは、小さくて細くて、生の気配すら希薄だった。
動かないでくださいよ、というアエラのぼやきを無視して、その瞳を覗きこんだ。
「結構、重くなったな」
「外ではやらないで下さいよ」
いつもの小言は無視して、指をひとつたてた。これだから、という厭味な溜息は無視することにする。
「何を調べるか、わかるか?」
ちょこんと首をかしげて、同じように指をたてた。うふふ可愛い、という言葉がサイラギの口から洩れるが、ちょっと危ないそのセリフに今さら反応するような人物はあいにくこの部屋にはいなかった。
「ひとつ、王の意向。ふたつ、他の候補者の動向。みっつ、この王妃探しの目的」
三本の指をたてたリューイの頭を撫でて、目もとをなごませた。
「うん、それでいい。ああ、他の候補者の動向は後回しでいい。少しは調べてきたし、私でも動けるだろう。これでも、外には出れないことになってるんだ」
「なぜですか?」
「ん?」
相変わらず三つの指をたてたまま、サイラギをじぃっと見つめる。
「外、出れます。正面は、騎士がいっぱいで無理だけど、裏庭のところに小さな小屋がありました。外に、通じてます」
「ナイスリューイ」
さっそく外に出て探検してきていたらしい。こんな面白そうなところだ、暇はいくらでもある。サイラギも探検してみたい。何せ、王が様々な女たちを集めていた後宮跡である。隠し通路もあるかもしれないと思うと、わくわくしてくる。
「サイラギ様は、そういうことなさらないでくださいね」
「何で考えてることがわかるんだ」
「顔に出てます」
リューイにまでさっくりと言われ、思わず頬に手を当てる。
「そんなに、顔に出てるか?」
「ぼくは、わかります。でも、他の人はわからないと思います」
もともとサイラギはさほど表情の変わらない性質である。思っていることをそのまま人に悟らせるような正直者でもない。だが、表情が変わらない分、長く付き合いのある者にとっては微細な変化をキャッチしやすいのだ。
「他人にわからないならいい。……アエラにばればれなのは、悪企みしにくくて困るけど」
「そうお考えなら、悪企みなさらないでください」
「嫌だよつまらない」
唇をとがらせ、アエラの顔を見るべく上を向く。
「動かないでください! まだ髪を梳き終わってないんですから!」
「……十分だと思うけど」
「そんなことありませんわ。いつも思うのですけど、適当に髪の毛をくくってらっしゃることが多い割に、綺麗にされてますわね? だからこそ、やりがいもあるのですけど」
先から丁寧にほどかれていくサイラギの髪は、ストレートの黒髪である。髪の毛はやや太めではあるが、きめ細かく枝毛ひとつない。人手が足りないため、大抵サイラギには自分で洗ってもらっているのに、どうしてこのような艶を保てるのか。
「これでも、努力してる」
「だったら、格好にも努力してください」
「両方やったら金がかかって仕方がない。どちらかを選ぶとなれば、元を磨くほうが先だろう? さすがに手は荒れるしな」
伐採を手伝ったりはしないが、馬を乗り回す彼女の掌は固い。それでも、始終乗り回しているわりには綺麗な手をしていた。もちろん、深窓のお姫様とは程遠く、豆が出来ていたりはするのだが。
「私も、その点は口うるさく言わなくて済むので助かってますけど」
長い付き合いだ、どうして手入れを怠らないかくらい、わかっている。
サイラギは自分とは真逆の細い髪をしたリューイの頭を撫でる。
「じゃあ、とりあえず調べ物は頼む。別に、わからないならわからないでいい。下手に動きまわって、警戒されたらやりにくいから程々に。むしろ、少し距離を置くくらいのつもりでやってくれ」
「わかりました」
リューイは彼女の膝の上から下り、上着を着なおした。
「もう行くのか?」
「三日目までには、わかっていたほうがいいと思います」
「それはそうだけど」
「アエラ、少し小物借りる」
「部屋に入って左に固めてある荷物には触らないで」
「わかった」

丁寧な一礼、流れるような所作はサイラギが教えたものだが。
「うーん、私に対するあの敬語はどうにかならないかなあ」
「敬語ってほどじゃないでしょう。私に敬語で喋らなくなっただけ、上出来だと思いますわ」
「表情もわかりにくいし」
「サイラギ様もです」
「あまり喋らないし」
「サイラギ様に対しては、あれでもだいぶ喋りますわ」
「……城の人間と仲良くやれてるのか?」
リューイに関することになると途端に心配症になるサイラギである。
「大丈夫です。あの容姿もありますし、逆に無口なのが神秘的で素敵だといって、人気者ですわ。会話をしたらしたで、結構子供っぽいので可愛がられてます。サイラギ様だってご存じでしょう?」
王宮と違って人が少ない彼女の城では、領主と使用人との関係もまた近い。盗み食いをすれば料理人から容赦なく放り出されたし、稽古の邪魔をすれば怒鳴られる。普段は一応敬語を使ってはくれるものの、口調には笑いが混じる。
サイラギとて、それだけ近ければリューイに対する感情もわかろうというものだ。それでも心配してしまうのは親心みたいなものだろう。
「何より、サイラギ様がリューイを大切にしてることは、皆わかってますから」
「……私に対する敬語、どうにかしたいなあ」
恥ずかしくなって、話をずらしてみた。
「リューイ様、とお呼びしたほうがいいでしょうか?」
「それはいい。そんなことしたら余計、固くなる」
サイラギがリューイに与えた身分は彼女の近従だ。いずれ、それなりの年を迎えたら騎士にしてやりたい。
「心配されなくても、リューイはサイラギ様が大好きですよ。他の方と話している時よりずっと表情が柔らかいですもの」
「なら、いいんだけど」
自分で育てたとも言える彼、あれでは、将来が心配だ。ついつい母親の気分になる。
「演じ方はお教えになったんでしょう?」
「うん。普段があれなだけ、びっくりするけど滅茶苦茶上手い。舞踏会に出しても問題なく相手できると思う」
貴族同士の付き合いは問題ないのだ。問題は、自分が素を出せる相手を見つけられるかだ。
「彼女探しとか、したほうがいいのかなあ」
「小姑みたいなことはやめてください」
真剣なサイラギの口調に、うんざりした口調でアエラは止めにかかった。
「小姑って……小姑はそんなことしないよ」
「そういう下世話な考え方をすることが問題なんです。本当に、誰から影響受けたんだか。さ、終わりましたよ」
「ようやくか」
「髪質には気を使ってるんですから、ここでくらいきれいにしといてください」
「あ、それなんだけど」
にやりと笑ってせっかく梳いた髪をひとつにくくった。
「サイラギ様!」
「メイド服、借りてきたからさ。ちょっと探検してくる」
「借りてきたんですかっ?」
「当たり前だよ。アエラって豊満だから私にはちょっと大きくて。特に胸」
そこがいいんだけど、と付け足されて真っ赤になって訴える。
「酒飲み親父みたいなこと言わないでください!」
「あははは、アエラ、かわいい。いつもはちょっと気取ってる感じだからさ、そうやってために隙見せると男はころっと落ちるよね。わざと?」
「いい加減に――」
「じゃ、留守はよろしく」
アエラの背中をぐいぐい押し、自分の部屋から追い出した。本気で言えば、アエラは彼女に逆らわない。悪いことをしたかな、とちょっとだけ思ったが、探検へのわくわくには代えられない。
王妃品評会の担当者からアエラが渡されていた地図は、既に書きうつし済みである。あの顔は覚えておこう、一人につき一人、担当者がついている可能性がある。サイラギが候補者の一人だとバレては元も子もない。
自分と比較的近い背格好のメイドから借りた服は、思ったとおりぴったりだった。男の近従の変装をしようかとも企んだのだが、ただでさえ男は少ないのだ、顔を覚えられる危険があることを考えればやめた方がいい。
いまだに、心揺れるけど。ズボンのが楽だ。
簡素なメイド服に身を包み、サイラギは窓を大きく開けた。部屋は、庭園に面していて、花の香りが鼻をくすぐる。
(あ、ギャグになっちゃった)
ふふ、と自分で受け、後でアエラに言ってみようと思う。たぶん、蔑んだ目で見られるんだろうなあと思うとわくわくした。
アエラは、怒った顔も可愛いし。
「よし、とりあえずはリューイの言ってた抜け道チェックだな」
ついでに、誰かほかの候補者を見つけられたらいいなあと思いながら、サイラギは窓枠にあしをかけ、一気に飛び降りたのだった。

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