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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
11「宴のあと」
「どうしましたか、サイラギ様」
部屋に戻るや否や、消去の魔法をサイラギに浴びせて質問する。サイラギの体には魔法の残り香があった。

アエラも魔法の使い手である。人材の少ない領地の中では希少だ。ちなみにサイラギは貴族の血を引いてはずなのに、基本くらいしか使えない。
「特に何でもない。――誰かは、わからなかった。『ゆっくりお話しよう』と言われたよ」
眉間にしわを寄せたアエラが湯気のたったスープを持ってくる。簡素だが『我が家の味』で体から力が抜けた。
「目をつけられたか。何もしたつもりはないんだが――もしくは、最初から目をつけていたか」
「なぜです? 次期領主の一人娘がこのような場に出るのは確かに場違いですが、ないことではありません。養子の当てがないわけではありませんし」
「私にもわからない。ただ、予想以上にここは魔窟だということだよ。王が何を企んでカステリーナやファリアータを呼んだのかもわからん。あの2人にこれ以上権力を持たせても危険だろうに。カステリーナに至ってはむしろ王と並び立つんじゃないか? 下手をすれば、同様の力を持った者として王宮が荒れる」
「現王の実権は強いですわ。あと、誰に聞かれているともわからないんですからカステリーナ様たちにはちゃんと敬称をつけてくださいませ」
「やだなあ、アエラがちゃんと結界張ってるだろ? 大丈夫大丈夫」
アエラの小言をさらりと流して空中を睨む。
「今はね。ただ――リューイ、わかるか」
黙ってサイラギの靴を磨いていた彼は、一瞬目をあげて頷く。手を止めて首を傾げた。
「それは、王制になって間もないから、ということでしょうか」
「ああ、うんそれは大きいね。もともとは『魔導士の王』でしかなかった軍のトップが、議会で執政官に選ばれたがゆえに『王』になったようなものだから。当時からすれば仕方がなかったというところだけど――前王が上手く道を引き直したとはいえ、くすぶり続けた火種はいまだ消えていないよ。なんていったって、たった3代前の話だ。生きている者は大勢いるし、何より議員の中に初代をよく知っている者すらいる。ファリアータの家系もその1つだ」
「……ファリアータ様が、その一人であると?」
用心深く疑問を発したが、サイラギは両手でカップを持ったまま首を傾げる。
「そのあたりがわからないんだよ。彼女があれだけの美貌と血筋を背景に持ちながら、いまだに未婚であるのは『トラケス』が原因だと思うんだけど」
「なぜですか」
「勘? 何かあると思う」
あっさりと言う。だが、彼女の勘は馬鹿にできない。サイラギが『トラケス』がひっかかるというのならば、何かしらの問題が生じているはずだ。
「実際、母親方の名前は確かに普通公開されないけど、あれだけ秘密にされるのはおかしいからね」
サイラギが彼女の母親方の名前を知ることができたのは、ひとえに優秀な諜報員のおかげだ。彼らが遠い領地のために、常に情報を仕入れてくれるからこそサイラギは王都の動向に敏感でいられる。
「カステリーナもよくわからない。他にも気になる人はちょっといたな」
「これが、王の粛清であると?」
サイラギが隠していた言葉を、リューイがあっさりと掘り出した。サイラギの髪を整えようとしていたアエラがぎょっとしたように身を引いた。尋ねられた当のサイラギは片眉をあげてふっと笑う。
「さあな。私にはわからないよ。だとしたら私が呼ばれる理由もわからない。単なる隠れ蓑ならいいんだが、それこそ粛清の対象にされたらたまらないからね。多少行動に用心しないといけないな。リューイもだよ?」
「わかりました」
「だったら少しは大人しくしておいてください」
「そんなことしたら、わざわざ招待に応じた意味がないじゃないか」
「意味?」
後ろから問われ、リューイもじっと疑問を発せずともじっと彼女を見つめる。しまった、という顔になって肩をすくめた。
「秘密」
ふふふ、と笑って再びカップに口をつけた。


全ての片付けが終了したとたん、その人物は姿を現した。
「やはり初日はこんなもんか。顔合わせだけでもあれだけなごやかに進むとはな」
「……わざわざいらっしゃることはなかったのに」
言葉の中に「何で来たんだてめえ邪魔だ」というニュアンスを込めてハンナはため息をついた。近衛騎士団の恰好をしたその美丈夫は、楽しげに笑った。
片付けが終了したとはいえ、まだ多くの侍女は残っている。王の顔を知る者は少ないから、近衛騎士団の恰好をした王を気にする者はいない。それでも、数日は姿を表さないはずの王がこんなところにいると知れたら何が起こるかわからなかった。
珍しくちょいちょいと気安く王を呼ぶ。何も考えずに近づいた王の耳をひっつかんで部屋の隅に連れて行った。
「ちょ、待て! 耳ちぎれる!」
「何で来たんですか。何か興味がおありで?」
耳を引っ張ったまま口許を耳に寄せた。手加減する様子は全くない。
「サリエル、助け――」
「もういませんよ」
マイペースなサリエルはハンナの暴虐に気づいていたが、頓着せず「またいつものようにじゃれてるなあ」と思うだけだった。それよりすることがある。王妃候補たちがちゃんと部屋に帰ったかチェックしなければならない。
自分のすべきことをするため、既にその場を離れていた。
「……俺、王だよなあ」
「ですね。たまに殴りたくなりますが」
「そういうこと言うのは騎士団の奴らくらいだぞ? 政務官や軍部の連中は俺に敬意を払っている」
「姿見せてませんしね。陛下が放り出した後始末は我々の仕事ですから、汚れた部分は見えてないんです」
辛辣に言い切り、赤くなった耳をようやく離す。女性にしては大柄だが、それでも男程ではない彼女は王とは身長差がある。しかし確実に王を威圧しており、傍から見れば王より立場が上だった。不幸中の幸いというべきか、そんな様子を見ていては誰も彼を王だとは思わないだろう。
「で、どうしてこんなところに? サリエルの『目』を通して見ていたんでしょう?」
「見てたさ。だから、来てみたんだ」
あっさりという彼に殺意を覚えた。ゆらりと立ち上った魔力の渦に彼は慌てて言い添える。
「面白いことになってたし、魔法まで使われていたろう。残り香でもあればと思ってね」
「アトラスか団長でも連れられてるんですか」
「まさか。俺一人だよ」
「一人で、行動し、な、い、で、く、だ、さ、い!」
「わかったすまん! 頼むから耳元で音強化して大音量響かせるのやめろ」
こめかみを押さえて剣で弧を描く。王のまわりに円を描くことで防御壁を作った。
「アトラスは、後から来ると思うぞ。ここに来るのに<解錠>したのはアトラスだ。置いて行ったが」
「そんなことで『空間渡り』を利用しないで下さい。魔力の動きを監視してるんですよ? ひっかきまわさないでください」
「――それ以前に置いて行くなよ」
反論しようとした王の言葉にかぶせる声は、アトラスのものだった。
どうやらここまでダッシュで来たらしい。呼吸がさほど乱れていないのは訓練の賜物だろう。後宮つきの侍女は騎士団のことをさほど知らないが、アトラスの恰好を見て何も言わずに通してくれたようだった。
しかしハンナは王に追い付いた彼にねぎらいの言葉もなく侮蔑の視線を与えた。
「馬鹿者か」
「会うなり馬鹿者はないだろっ?」
「馬鹿者を馬鹿者と言って何が悪いの。王を一人で行動させないで。面倒な」
「『空間渡り』しようと思ったら向こう側に扉を作る奴が必要で、いないならこっちで扉を管理しないといけないんだよ!」
魔導士でも滅多に使える者がいない『空間渡り』の術、その理由は結局のところ利用の不便さにあった。
「だった陛下を送りこまなくていいでしょう。邪魔なだけ」
「邪魔でも陛下が行きたいといえば俺は何も言えないって」
「言えるくせに。特権を与えられているなら最大限利用すれば? その頭は空っぽなのかしら」
「すいませんでしたああっ!!」
毒舌は相変わらず健在だ。むしろ、人前なぶん、だいぶ抑えられている。だからこそ組み合わせとしてサリエルが選ばれたというのに、当の本人はマイペースが過ぎて通常業務しかしてない。ここにサリエルがいてくれたら癒し&抑制効果があったのに、と心の中で涙を流すアトラスであった。
「で、陛下? 何かおわかりになったんですか?」
わざわざ来たんだから何か発見しないとただじゃおかんと言いたげな剣呑な目でハンナは腕を組む。魔力量で言えば王は大した量を有していない。先代までの『魔法の国の王』というイメージからは対照的なくらい魔法は苦手だったが、そのぶん勘や魔法以外の要因を察知するのには優れている。
そのせいで、ハンナからは『野生』呼ばわりされているのも周知の事実だ。本人が気にしてないので誰も注意しない。
王は鼻をひくつかせ――そのあたりが『野生犬』だというのだが――まわりの様子を探る。
「む。ちょっと残り香の気配が変質してるな。きっちり消してきているのだが……これは、わざと、か?」
指を動かしてその元を探す。
「ふうむ? ずいぶん乱雑に消してる」
「ああ、最後はかなり無理やり追い出したので」
あのままだとカステリーナの周りにたかりっぱなしで終わらなかった、と言ってのけた。
「おそらく急いで消したんでしょうね。ということは、最後のほうに残っていた方のものということでしょうか」
「かもしれんな。魔法を使っているだけだとハンナを誤魔化しきれんと読んだのか。魔道具も使っている」
「さすが陛下。しょっちゅう抜け出して工具師のもとで遊んでいるだけあって、道具の気配がよくおわかりです」
「…………褒めてるのか」
「ええ、役立つ者は私、褒めますよ? 何か?」
「もういい」
きょとんとした顔で聞き返すハンナに言葉を返せない王であった。
一方のアトラスは、折角来たのだからといちいち侍女を手伝ったり痕跡を探したりしている。騎士団の中でも小手先の魔法は格別にうまいと褒められている彼だ。こういった作業はハンナより上手い。
「そこの小手先魔導士、何かわかった?」
「小手先言うな。最近じゃあ団長まで俺のこと小手先技術じゃ、騎士として致命的とか言うんだぞ」
「本当のことでしょう」
「広めたのはお前だろ!」
肩をすくめて答えないのは事実だからだろう。むしろ、本当のことを言って何がいけないのかと言わんばかりの彼女はある意味騎士団最強であった。
「で。何かわかった?」
「――特に何もないです」
「役立たず」
何もないことはいいことだろうが、との反論は口に出せない。口に出したとたん怒涛の罵倒が返ってくるからだ。
「ハンナ、そんなにアトラスを苛めちゃだめだよ? 僕らだって実際見つけられなかったんだから」
「サリエルが言うならそうね」
のほほんとした口調でアトラスを取りなしたのは、一通り姫様らの様子を確認して戻ってきたサリエルだった。
『サリエルっ! よく戻って来てくれた!』
王とアトラスの言葉が期せずして二重奏を奏でた。侮蔑の目を向けるものの、ハンナが内心を口に出すことがないのはサリエルがいるからだ。心の底から主従は安堵した。
「姫様方は異常なし。一部の方々は結界張ってたけど、寝るときだから仕方ないかなってレベル。怪しい動きもなく、侵入者もなし。……です?」
王がその場にいることに気づき、きょとんとした眼になる。ハンナの罵声より彼の純粋な当惑のほうが心に痛い。
「ああ、すまん。ちょっと気になったことがあって来た」
「僕の『目』だけじゃ足りませんでしたか?」
仕事をしていた王だが、必要ない会議だからとサリエルの目を通して晩餐会の様子を見えるよう、細工を施していた。だから、様子だけなら彼の目を通すだけで事足りたはずだ。
「視覚情報だけじゃつい心もとなくてな」
「陛下は武人ですからね。しょうがないと思います。でも、慣れないとだめですよ?」
「すまん」
改善するかはともかく、穏やかなサリエルにはきちんと謝る。
「……俺のときと態度が違い過ぎるだろ」
「陛下はアトラスに甘えてますからね」
「甘えてるか!」
「あら、甘えてるわね。自覚なかったんですか、意外ですね」
ハンナに一刀両断され、撃沈した。
「……いや、まあいいだろ。幼馴染みたいなもんだから。それより、今日はもういいですか? 今日の決済分がまだだと宰相閣下がおっしゃってましたが。明日にまわすにしても、明日は財務官がいらっしゃいますよ?」
「ああ、大丈夫。さっきも議会が長引きそうだったから、ヴァンを身代わりにしてきたから。決済もハンコ押すだけだし」
飄々と言い切った王に唖然として、慌てて議会の様子を確認する。イリヤがいれば、中継は繋がる。――議員らと会話する『王の姿』があった。
「っ!! こっちより議会のほうが重要でしょうが!」
「俺は実物を見ないと気が済まないんだ。事件は会議室で起こってるんじゃない。現場で起こってるんだ」
「そのネタはこの世界にはないから!! お願いだから戻ってきてくれ!!」
「ん? かの有名な『マイスタ=マイスタ・ロース』の中の言葉を引用しただけだが? 有名な劇中セリフだ」
「え、アトラス知らなかったの? そっちのほうが意外ね。貴族のくせに」
何を言えばいいかわからず項垂れて呟いた。
「もう何でもいいです……そういえばありましたねそんなんも……」
「大丈夫。僕もわからなかったよ。ほらほら、ヴァンに任せたままだよ」
空気を読めないマイペースっ子、サリエルがある意味で空気を読んで話を強引に戻す。
「ああ、そうだな。陛下、とりあえず戻ってください。ヴァンが困っています」
「あいつはそうそう困らないだろう」
「セイアリーズが、キレますよ?」
王は黙った。
「……それは、嫌だなあ」
「もうすでにセイアリーズにはバレてると思いますね」
「議会長殿は笑顔で怒るものね。一番怒らせたくない相手だわ」

いっそ帰りたくない、と顔に書かれた王の背中を押したのはサリエルだった。
「ほら。帰らないと、話が終わらないよ?」

どこまでも空気が読めないサリエルであった。


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