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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
12「目指す場所」
リューイは悩んでいた。

サイラギが魔法を浴びせられたという事実。アトラスから聞きだしたこと。
それらを考えれば――サイラギは、一刻も早くここを離れるべきであった。
でもそれはサイラギの望みと反するのだ。サイラギはリューイに対し何も教えなかった。アトラスの言葉も、どこまで本当かわからない。彼はサイラギのことを考えてくれる人物であるという点においては信用していたが、同時に王の家臣でもあった。
一日彼についてまわってわかったのは、予想以上にアトラスが王のそば近くで仕えているという事実だった。陛下からの呼び出しです、という声がかかったのは2日間で1度や2度ではない。そのたびに彼は訓練を中断していた。騎士団の皆も当然としていて、アトラスに嫉妬を覚えている様子もない。
(もっと、彼は情報を知っているはずだ)
あれだけ王から呼び出しがかかっていて、何も知らないはずがない。
本当は、アトラスの言葉をサイラギに伝えるべきなのかもしれない。でも、なぜだかリューイは伝えたくなかった。サイラギの悲しい顔を見たくなかったからかもしれないし、アトラスに張り合ったからかもしれない。
両方かもしれない。

「リューイ?」
「え、あ、はい」
気づくと心配そうにサイラギがリューイの部屋を覗きこんでいた。寝たと思っていたのに、いつまでもリューイの部屋の明かりが消えないのを心配に思って起きてしまったらしい。慌ててリューイは窓を閉め、サイラギの元へ駆け寄る。
「大丈夫か? ぼーっとしてるなんて珍しいな。星でも見ていたのか?」
「……はい」
サイラギの琥珀色の瞳がリューイのつむじのあたりを見つめていた。小さなため息のあと、ひょいとリューイを抱え上げる。
「サイラギ様?」
「リューイ、いくつだっけ?」
「15歳です」
なぜそんなことを聞くのだろう。首を傾げると、サイラギは少しだけ微笑んだ。微笑んでいるのに、なぜだか悲しそうに見えた。
苦しくなる。
「そっか。もうそんな年か。悪いな、こんなことに付き合わせて」
「僕はサイラギ様の小姓です。傍でお仕えするのが仕事ですから」
本当は、仕事でなくてもずっと傍にいたい。でもそれを言うとサイラギがもっと悲しそうな表情をするのをわかっていたから、口にはしなかった。
「私が叙勲してあげれたらいいんだけど。父上にもその権限がないからな。ったく、王もおかしな制度を作ってくれて。領主それぞれにだって私兵が必要なんだから権限くらいくれたっていいのに」
「別に、僕は騎士になりたいわけじゃないですよ?」
「私がしてあげたいの。リューイの身分は危うすぎるからね。支配階級になれば、私がいなくても少しはマシになるだろうし」
『サイラギがいないところ』で生きていく気などさらさらないが、もちろん内心を語る気はない。
「それくらいしか、私にはしてあげられないからさ」
「全然――今でも、十分なのに」
サイラギの傍にいるだけでいい。ずっと言ってるのに、それでも彼女はリューイに色々なものを与えようとする。
「子どもが言うな。黙って受け取っておけ。大きくなれば、どうせ何ももらえなくなる。そうなってから後悔しても遅いんだ」
サイラギの言葉に暗い影を読み取り、口をつぐんだ。
部屋から言葉が消える。外では星が瞬いていた。
「じゃあ、消すぞ。明日も仕事がある。速く寝なさい」
「はい」
ランプを消す。手元に小さな灯りを灯し、サイラギは立ちあがった。
急に暗くなったから、よくサイラギの表情が読めない。
「――おやすみ。いい夢を」

ずっと聞きたくても聞けないこと。
(僕は、もう15歳なのに。ずっと子ども扱いで。――サイラギ様は、僕をどうしたいんだろう)
誰にも聞けないその問いは、リューイの心に深く沈んで浮き上がってくることはなかった。


領地を出て1週間、予定では後3日程で王都に到着するはずだった。
直接王都に向かったサイラギと異なり、後続部隊は商談などいくつか要地をまわってから王都に向かわなければならなかった。予定通り荷を下ろし、商談を済ませた。今回は王都に向かう故、直接市に品物を卸してもいいのだが今後の関係を考えればそういう訳にもいかない。
馬車の中で今後の予定を思い返していたら、商談を終えたらしく中へと入ってきた。一応騎士の恰好をした彼は、顔をあげる様子のないミリアに声をかける。
「ミリア、この調子だと予定通りつきそうだ。王都についたらどうする?」
「姉さんに連絡を取る。こちらの予定を知ってるから、向こうでも受信精度上がってるはず。無理なら直接行く」
「……相変わらず行き当たりばったりだな」
「どうにかなるから」
姉であるアエラと対照的に細身のミリアは、むしろサイラギによく似ていた。淡々と話す口調も、サイラギから影響を受けている。
「で、どうかした? わざわざ私に変更のない予定を言いに来るのはおかしい」
「あー。それがだな。ちょっと外出てきてもらえるか?」
少し眉をひそめたものの、素直に立ちあがって彼の後ろについていく。商談とは別件のため、彼女は商談用とは異なる馬車に乗っている。サイラギに要求された物を積み、さらに商談用の積み込み切れなかったものまで積んであるためそんなに広くない。どちらかといえば、通常少しあまる空間を広げてミリアが乗っている形だ。
「商談自体はうまくいったんだが。そうだな、ちょっと介入があって。俺じゃ判断しきれないんだ」
「貴方に判断できないことが、私に判断できるとは思えない」
彼は下流とはいえ貴族出身のため、交渉でそう簡単に失敗することもない。アッデライド家本家から結構離れた傍流なのでほとんど庶民と変わらぬ生活をしているが、名前だけは貴族の名残が残っていた。
そういうわけで、通常貴族は商業に携わったりしないが、アッデライド家では雇うお金もないことから商才のある彼が物の売買を一任されていた。その彼が問題視することに、ミリアがたちうちできるとは思えない。
「いや、それがどっちか言うとお前向き。俺らはすぐ帰るし……それに、なあ」
まあ入ってくれ、と言われ先ほどまで商談が行われていた家に入る。特に変わった家ではない。
そこに、予想外の声が割り込んだ。
「あっ初めまして! 貴女がここの、御主人さま?」
「………いえ、違います」
「あれ? そこの騎士様が、判断を下す方を連れてきますって言ってたのに」
振り返ると、全力で目をそらされた。
どうやら情報すらろくに伝えずに丸投げしてきたようだ。後でおぼえてろ、と内心で毒を吐きながら観察モードに切り替える。
声をかけてきたのは真白い少女だった。肌も白く、髪も輝くような白。かろうじて目の色が薄い青の色をしていた。灰色に近いかもしれない。
可愛らしい少女だが、異質すぎる。
「何の判断ですか」
要件くらい先に言っておいてくれたらいいのに、と思いつつ筋肉の塊の彼には無理かと思い直す。彼がミリアの頭の中を覗けたら泣いて詫びたかもしれない。
「えっとね、レイナ達王都に行きたいの! でも、移動方法がないから、すごーく時間がかかっちゃって。この家に、泊めてもらってたんだけど、そうしたら王都に行くって言うから。連れて行ってもらえないかなあ? もらえないですか?」
言い直す少女はあっけらかんとしている。
「レイナ、達?」
「そう。あ、そうだ。カルア、来て!」
「どうしましたか?」
家の奥からひょこりと顔を出したのは20代くらいの青年だった。少女に比べて酷く凡庸な顔立ちの、ごく普通の青年だった。きょとんとした表情が少しアンバランスだ。
「2人なの。だめ?」
「――いいですよ」
ミリアは腹をくくった。
サイラギなら許可するだろう。もちろん、サイラギの気付かれない範囲ですべて仕事を回すことは大切だ。サイラギに知られさえしなければ、問題ないし誰も伝えはしない。だが、ある意味で『リューイに似た少女』をミリアは置いて行く気にはなれなかった。
即決したミリアに、ここに連れてきた彼は唖然とした顔をする。
当然といえば当然だが。
彼が口を挟もうとする前に、少女は歓声をあげた。
「やった! ありがとう、本当に困ってたんだ。レイナはね、レイナっていうの。こっちはカルア。よろしくね」
「アッデライド家の侍女、ミリアです。今回の責任者は私ではありませんが、貴方がたについては私が責任を持ちたいと思います」
「アッデライド家?」
「ええ。アッデライド地方の領主の命で、我々も王都に向かう途中です」
正確には次期領主だが、そこまで見知らぬ少女に言う気はない。目的も同様だ。サイラギとともに育った彼女は非常にサイラギと似通った思考回路をしていた。
「ふうん? えっと、貴族様? いるの?」
「商談にあたる担当者は貴族の地位は持っておりますが、私含めほとんどの者は持ってませんよ。気にしないで下さい」
「だって。大丈夫だよ、カルア。そんな顔しないでも」
どうやら貴族が嫌いなのは青年のほうらしかった。あからさまに嫌そうな顔を隠そうともしない。
「……徒歩で行きませんか?」
「やだよう、間に合わないもん」
一体どういう関係か。観察していても見えてくるものはない。危ない人間を関わらせるわけにはいかないが、そうは見えなかった。
もちろん、危なかった時のための布石を張っておくつもりではある。
「ただ、私の目的は物の売買ではありません。契約の邪魔をするわけにはいかないので、私と同じ馬車に乗って頂きたいのですが」
「いいよ。うん、そのほうが嬉しい。女の子と一緒のほうが楽しいもんね」
「――レイナがそうおっしゃるなら」
お忍びの貴族だろうか。少し少女も世間離れしているような印象を受けた。何より、カルアという青年の少女への態度は従者のそれだ。
「では、こちらに。荷物を用意してください。ご案内します。さほど良い環境とは言い難いですが、我慢してください」
注意を怠ってはならない。でも。
ちょっとくらい遊び要素は必要だ。

完璧な筋に少し遊びと不確定要素を加えるのが趣味の、ミリア。
その後始末をするのは周りの人たち。
色んな意味で、彼女はサイラギとよく似た性格であった。


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