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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
第一章-3「結託…?」
終わった途端、ほぼ全員から溜息が洩れた。
「何書いてるのかわからなかった……」
「難しすぎですっ何を陛下は考えてらっしゃるのかしら」

……え、そんなに難しかったの?

謎のテスト終了。
普段はおそらく手紙くらいしか書いたことのないお姫様方は死屍累々となっていた。サイラギは領主仕事の代行のため、普段から大量の書類の決裁にあたっているので苦でもない量だったが。
「意味がわからなかったのです」
テスト終了後に落ち込んでいたティシアナをお茶に誘って今に至る。他の方々が何をしているかは知らないが、疲れきって各自の部屋に戻っているようだった。
紅茶に手もつけず、落ちこんだ様子のティシアナにお菓子を勧めるとぽつりとつぶやいた。
「テストの内容、ということですか?」
「はい」
確かに分量は多かった。予想外といってもいい。内容自体も、マナーや作法ではなく歴史や魔術についてなどが多く多少難しかったことは認める。正直全部終わらせる自信はなかったし、下手に目をつけられても困ると思って適当なところで筆を置いた。
「…………難しかったんですか」
「だって、外交とか経済とか、習ったことないんですもの。私が習ったのは、ダンスや音楽、刺繍とかで……だって、政治は殿方のお仕事なのでしょう?」
困った。
人材が少なすぎることもあって、アッデライド領では女も男も関係なく能力が高い者がその仕事を請け負う。だから数に強い女性は財務を担当するし、裁縫が得意な男性は裁縫を仕事とする。サイラギの父自体が裁縫を得意としよく結婚式が催されると嬉々としてドレスを縫っているので、アッデライド領では領民にもその傾向が強い。
領主の娘だからといってダンスや音楽だけにかまけている暇などない。そんな暇があったら木材を切っているほうがよっぽど有効的である。実際、山賊退治などの警羅の指揮を執るのはサイラギの仕事である。
そういう家で育ったサイラギだから、父親より経済や統治に向いていたからこそ、領主代行をこなしてきた。
「ティシアナ様の姉上様などは、何をされてるんです?」
普通のご令嬢のなさることなど書物でしか知らない。本当に礼儀作法しか習っていないのか、サイラギは少し疑っていた。
「礼儀作法や刺繍を習っています。もうお嫁に行かれましたけど、お姉様はピアノが得意で、よく演奏会を開いてましたわ」
本当だった。
まるで別世界である。ピアノは一応領主館には置いてあるが、神職についている者以外でどれだけの人間が弾けるのか。神職に従事する者は音楽が弾けることが神職に就く条件だ。そのため、アッデライド領では聖職者がなぜか祝い事でも音楽を弾いている。現領主であるサイラギの父には比較的音楽センスはあるようだが、それぐらいだ。
「どうしました?」
別世界の雰囲気に思わず気が遠くなったサイラギに、不安そうに問いかける。慌てて取り繕った笑みを浮かべた。
「いえ、なんでもないですよ」
会話を続けようとサイラギが再び口を開こうとした瞬間、涼やかな声が響いた。
「あら、サイラギに、ティシアナ様?」
「――ファリアータ」
彼女もまっすぐ帰らなかった人の一人のようだった。なぜかアイリスも一緒である。
「ここ、よろしいかしら」
当然のように彼女に聞かれ、ティシアナの侍女は人形のように頷く。艶やかな笑みを浮かべてアイリスと2人で席に着く。笑みは優しげだが何を考えているのだろう、と内心で訝しく思う。ファリアータにサイラギと仲良くする利点はない。サイラギからもっと攻勢をかけるべきかと思っていたくらいだ。
――本当に、アトラスから何を吹き込まれたんだか。
「今日の試験、難しかったわね。貴方はどうだったかしら?」
暗に貴方は違うんでしょう、と問いかけられ苦笑した。本当に彼女には叶わない。
「そうだね。私は、ああいうの得意だから」
「あら、あんなに難しい問題が解けましたの? 殿方が知っているような知識、私は知りません」
つっけんどんな態度はアイリスだ。何を調べたのか知らないが、サイラギが貧乏領主の娘で格下だと知ったに違いない。ティシアナがきょとんとしている。さらにアイリスがサイラギをこきおろそうとしたとたん、
「すごいね、さすがサイラギ」
うっとりしたような口調でティシアナに遮られ、言葉につまった。
「そうかな。アイリス様の言うとおりだと思ってますよ。私は珍しいだけで、ティシアナ様もそんなに勉強する必要はありませんよ」
「私も半分は解けたのに?」
くすくすとファリアータに言われ、再度苦笑した。
「ファリアータは特別でしょう。あれだけの図書館を有して、かつ文芸のパトロンまでやっている家の娘が、知識がないなんて」
ファリアータの実家が有する領地の図書館はその蔵書量で有名だ。王立図書館ほどの蔵書量はなくとも持っている古書の稀少さ、品揃えの良さから自然と学校も近場に設立されている。
「何をおっしゃってるの? それとこれとは別でしょう?」
アイリスがなぜか突っかかってきた。
(ファリアータと仲良くしておきたいのに、私が邪魔ってことかな?)
それならそう言ってくれたら遠慮するのに、と内心首を傾げる。
「そんなもんなのかな? ちょっと、やっぱり領地に閉じこもっていると疎くなってね。アイリス様もまた教えて下さいね」
「っっ、何で私が貴方に教えなければならないの? ご自分で調べればいいでしょう」
「だって、アイリス様はお詳しそうだから」
お願いできませんか、と目を合わせてお願いしてみたが、目を逸らされてしまった。
「断られちゃった」
肩をすくめて前に座るティシアナに笑いかける。なぜか彼女はぎゅっとサイラギの手を握り何度も首を振った。紅茶の入ったポットに当たりそうでさりげなく場所を移動する。
「髪型くずれますよ?」
「大丈夫、侍女が何とかしてくれるもの。私、裁縫とか得意ではないけれど、一緒に勉強したいです! 礼儀作法も、今習ってる最中だから」
「私なら教えられるわよ? 一緒にやりましょうか?」
ファリアータに遮られ、ティシアナがつまる。
あんまり苛めないであげてくれ、と目で訴えると苦笑されてしまった。
さらにファリアータは紅茶を口許にあてて呟くように言う。
「それに、今回の王妃選びは何かがおかしいわ。情報は共有すべきだと思わない? アイリス様もそれが目的でしょう」
柔らかく微笑みながらあっさりと言う。げほげほとアイリスがむせた。
「大丈夫ですか」
慌てて紅茶を注ぎ足してアイリスの前に置く。少し冷ましてあるから一気に飲んでも問題ないはずだ。
「どうなさいました、アイリス様」
「……つくづく貴女が対象外で良かったと思いますわ」
ぶつぶつと小さい声で言ったがサイラギに耳には届かない。ただ、隣に座るティシアナには聞こえたようでむっとした顔でアイリスを睨む。言葉の意味はわからなくても何となく声の調子でそこに込められた何かを嗅ぎ取ったようだった。
「どうしました?」
「サイラギはどう思う? 今回の問題、簡単だったんでしょう? でも、普通の令嬢に解けるような問題ではないわ」
サイラギの質問を遮って、ファリアータが問う。
「――わからないよ。ただ、一つだけ思うのは今回集まっているのは『粛清』を受けなかった者たちばかりということだ。当たり前だけどね。王がなにを目指しているのかはわからないけれど、貴族の数自体を減らす気なら、有効な手段だよね。これでさらに人数減らすなら。アイリス様はいかがですか?」
「……知らないですわ。私には関係のないことよ。私は、貴方とは違いますの。純粋に王妃を目指しているのです。他のことなんて、考えている暇はありませんっ」
いきなり席を立ったのでティシアナが驚いて目を丸くした。
「どうなさいました?」
「帰りますわ。余計なこと、してる暇ありませんの。ごめんあそばせ」
「そうですか。それでは、またあさって交流会もあることですし」
「――ふんっ」
あからさまに軽蔑の視線を送られ、サイラギは肩をすくめる。彼女は一転してファリアータに対し優雅な礼をし、侍女とともに去って行った。
「彼女みたいなタイプは、やっぱり怒った顔がいいよね」
「そんなこと考えてたの」
へらりと笑ってサイラギが言うと、呆れた声でファリアータが応じた。
「仕方がないよな。あれだけの美女が怒ると迫力もあるけど、それより綺麗だなあって思わないか?」
「私は思わないわよ」
「綺麗な方ですけど……けど……」
反応に困ってティシアナがしょんぼりと俯く。綺麗な人だと思ってはいてもサイラギが褒めていると思うと認めたくないのである。
ああ、可愛いと心の中で笑っていると若干乾いた目でファリアータが見ていた。
「あれ、そこ引くとこ?」
「私、引いてて間違ってないわよね、そうよね」
「ええ、そんなことないよ。可愛いものを可愛いと思って見るのは世の真理だよ。ねえ、ティシアナ様?」
「サイラギが言うならそうだと思うの」
「ほら」
その人間離れした美貌からは信じられないほど人間味あふれた表情でこめかみを押さえる。
「あれ?」
「あの、サイラギ?」
ティシアナは全くファリアータを気にしていない。むしろ、サイラギのことしか見ていない。
「何ですか?」
顔がゆるみきっている。リューイが見たらティシアナに対して嫉妬するに違いない。この場にいないのが幸いである。
「私にも、敬語なしがいいの。だって、ファリアータ様とすごく親しそうで……」
「私としては、ティシアナ様には王子様のように接しようと努力していたのですが。申し訳ありません、努力不足で」
「そんなこと、ないの! ただ私が、もっと、サイラギと仲良く、なれたらなって」
言葉は尻すぼみで口の中に隠れてしまう。白い肌に朱がさし、大きな瞳が潤む。
「ああ、泣かないで下さい。ティシアナ様に泣いてほしいわけではないですから。ね?」
「泣いて、ないです。大丈夫です、ちょっと言葉が上手に出てこないだけで」
「いくらでもお待ちしますよ。もちろん――ティシアナが、敬語抜きがいいと言うならそのとおりにするよ?」
「……サイラギ…………」

「私、どうしたらいいのかしら」
完璧に別世界に入った二人に置いてきぼりをくらってしまった。いや、むしろ行きたくない。まだこの場所にとどまっていたい。それなりに重要な話をしていたはずなのにどうしてこうなってしまったのか。よもや自分の観察眼が間違っていたのかと思い悩んで、
「そういえば、あのアトラスが持て余してたんだものね。一筋縄でいくはずがなかったわ」
「? アトラスがどうかしたか?」
2人の世界に入り込んではいても、話を聞いてはいたらしい。サイラギが尋ねティシアナが首を傾げた。
「ああ、アトラスっていうのは隣領地の次男坊で幼馴染なんだ。結構仲良くしてもらってる」
でも別にアトラスが私のことを持て余すって感じでもないけど、と続ける。
「人の扱いは上手いもの。でも確実に貴女には振り回されてるでしょう。話を聞いてても、アトラスの泣き所は貴女のようだし」
そうかなあ、と再び首を傾げる。
確かに、アトラスはサイラギに弱い。弟分として扱ってきたためにこんな風になってしまった、という弱みもあるらしい。何かと情報も提供するし、お願いも聞いてくれる。
「まあ、なあ。これでも仲は良いつもりだよ」
仲は良い。だが、一般に言う男女の関係とは違う。本当に家族のようなもので、性別を超えた友人であり、血のつながりの無い兄妹だ。大体、もともと縁戚関係にあたるのだ。2人にとって兄妹としての関係に違和感はない。
「実際あれで結構家族思いだから、家族がらみはアトラスの弱みなんだよ。それより、ファリアータはアトラスと仲がいいのか? 結構良く知ってるみたいだけど。アトラスと知り合う機会なんてないだろう」
血筋的にも違和感がある。広い領地とはいえ、アトラスの実家であるラウスデル地方もまた辺境にあるのだ。アトラスが国家の中枢でまがりなりにも渡り合っているのは、数々の粛清をくぐりぬけてきたおかげである。成人(16歳)する前から王都で学んでいたが、逆にファリアータがそういった宿舎で学ぶことはあり得ない。
アトラスが高貴なる血を引く姫君と知り合えるとは思えない。
付け足すと、彼女はどこか含みのある笑みで答えた。
「元恋人関係よ」
「ええっうそだろう? なんて羨ましい!」
心底羨ましそうな声をあげられた。
さらに羨ましそうな目でティシアナに見つめられ、ファリアータはこめかみを押さえた。

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