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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
第一章-4「覚悟」
サイラギにしてみれば、こんな美人と付き合えるアトラスが羨ましくて仕方がない。
ずっと男になりたいと思っていた。男であれば、問題なく領主の地位を引き継げるのに――女だから、問題が生じるのだ。

「いいけどね……私に嫉妬はしないのかしら?」
「なぜ?」
心底不思議そうに聞かれ、ファリアータは首を振った。
おそらく、本当にそういった関係ではないのだろう。楽しそうにサイラギの話をするアトラスにいらだちを覚えたことを思い出し、淡く笑った。
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもないわ。私も馬鹿だったことを思い出しただけよ」
「馬鹿だったことは覚えておいたほうがいい。私も昔は馬鹿だったからな」
「私はっ…………」
勢い込んでいいかけ、黙りこんだティシアナにサイラギは優しく諭す。
「馬鹿でないなら問題ないよ? それに、ティシアナさ――ティシアナは、まだ15歳だろう? 覚えていて先を読んで動くより、自分のしたいように動く方がいい。私もそうだった」
「サイラギも?」
「ああ。だから、ティシアナも、心配しないでいい。ここにいる間は、いざとなれば私がストップかけるから」
微笑むと、ティシアナの頬も赤く染まる。
見つめ合う。
「だから……私、そんな突っ込みキャラじゃないのよ。言っていい? いい加減にこっちの世界に戻って来てくれない? 一応『王妃候補』の集まりなのよ?」
ファリアータの疲れた声にも関係なく2人は見つめ合う。なんだか知らないが通じ合っているらしい。
ここは割り切って楽しむべきなのかもしれない。きっとそうだ。
「――突っ込みキャラの存在って、重要なのね。私には面倒だわ」
今さらながらに、アトラスの存在価値に気づく彼女であった。

憂いを帯びたファリアータも美しい。ティシアナは可愛いし、やっぱり王都に来てみて良かったと一人悦に入っていると、不意に頭に直接リューイの声が響いた。
《サイラギ様、今大丈夫ですか?》
《あー……手短にしてもらえたら、嬉しい》
挙動不審になってないだろうかと2人を見るが、どうやら2人とも気付かなかったようである。
なにせ、こんな技を使える程の魔導士は少ない。リューイのことはいくらファリアータらといえど秘密にしておかなければならなかった。
《わかりました。では伝言です。ミリアと連絡が取れました。あと1日で王都に着くそうです。事情は直接話すとのこと、後でアエラと一緒に話し合ってくださいとのことです》

ミリアが来るのはまだ3日以上かかるはずであった。馬を酷使しない限り、そこまで早く到着することは物理的に不可能である。
「どうしたの、サイラギ」
「ああ、なんでもないよ。ただ、ちょっと用事を思い出した。悪いけど、私はこの辺りで退散させてもらうよ」
一刻も早く戻って情報を確認しなければならない。

次の約束だけ交わして戻ったサイラギは、当惑した様子のアエラに問う。
「どうしてこんなに早いんだ?」
「わかりません。ミリアの返事じゃ、要領を得なくて」
ミリアからの手紙には、王宮の検閲がかかるためか詳しく内容が語られていなかった。ただ、とにかく予定外に早く来ることが可能らしい。本来ならばミリアが紹介状を持って直接王宮を訪ねる予定だったのだが。
「――直接行くか」
「サイラギ様っ?」
咎める口調に、サイラギは肩をすくめて答える。
「だって、仕方ないだろう。いくら防御壁を張ってはいても、ここは王宮だ。後から入ってきた侍女なんて、格好の盗み聞きの対象だろう。そんな危ない橋を渡れるか」
「サイラギ様が、外に出ることも立派な危ない橋です!」
「じゃあ、誰が行く?」
ぐ、とアエラはつまった。諜報を担当しているリューイは、王宮側を探ることで忙しい。王宮側の侍女と実際に会い、仕事をしているのはアエラだからアエラも出るわけにはいかなかった。そうなると、サイラギしかいないのだ。なんという人手不足。
あまりの人の少なさに泣きたくなる。何せ、男性が使えないというのが痛い。病気の母親の世話を男性に任せるわけにもいかなかった。王宮でなければ、女性に魔法で変換、という手も使えた。王宮に不審をもたせるわけにもいかない。それにおそらく、そういった変身系も魔法は解除されるように結界が張ってある。
「明日は幸い何もない。何も起こらないとは限らないが――いざとなれば、風邪でもひけばいいさ」
暢気である。
「何があるかはわかりませんよ」
「大丈夫大丈夫。たとえ、粛清されたとしても」
覚悟を決めた瞳。
琥珀色をした瞳が、アエラの心を射抜く。
「その時は――粛清されるのは、私だけで十分だろう。そのための布石は打ってきたんだからな」
彼女の覚悟。
昔から、サイラギの世話をし彼女の気質を知り、なおかつその気高さに惹かれるアエラには――何も、言えなかった。

一方、サイラギのその言葉を扉の外で聞いていたリューイは、ノックしようとした手を下して踵を返した。
(ああ――また、いなくなっちゃう。大切な、人が)
サイラギがいない世界なんて、必要ないのに。
心の中に立ち込めた暗雲を振り払うように、速足で自室へと向かった。

サイラギはリューイが立ち聞きしていたことに気づくはずもなく、ランプを灯して与えられた資料を見比べる。
予定からいえば、明日は何もないはずだった。他の王妃候補と交流する可能性もあるが、優先すべきはミリアと会うことだ。ミリアさえいれば、もう少し動きやすくなる。
それに、とサイラギは思考を巡らせる。
彼女の目的は別に多くのオトモダチを作ることではない。もちろん多いに越したことはないが、重要なのは情報源になるかどうかだ。さらに仲良くなる必要がある以上、多すぎる知り合いは逆に裏目に出る。
(一番の目的では、ない)
優先順位を忘れてはならない。
まずは王に会ってみないことには、話にならない。アトラスは王を非常に評価しているようだった。直接会って、それから。
(見極めさせてもらおう)

自身の命を、そして領民の命を預けられる人物かどうか。

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