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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
11:世界は優しくそして厳しい
ぼさぼさの髪の間から、眼鏡の奥で優しげに細めた目が覗いていた。

「ヤグディル……why, are you here?」
「I hear your voice and meet magic power….in wave?」
声が聞こえたまではわかったけど、後半がわからない。波の中で魔法がどうした。
「Please speak in your language. I understand that, now.」
英語が合ってるかは不明。そのあたりはノリと勢いで察してくれ。
「ああ、陛下がいらっしゃるから理解できるんですね。ええと、そうですね。魔術には波動がありまして。その気配を感じて、それからガラスが割れる音、貴方がたの声が聞こえたもので、ふらりと寄ってみたんです」
察してくれたみたいだけど長い。それをあれだけの単語数で話したんだろうか。だいぶ省略してた気がする。ガラスなんて単語出てこなかったし。Waveは波動だろうけども。
「大丈夫ですか? 顔色悪いですよ。あ、ここにリンゴがありますね。食べました? 美味しいですよ。体にもいいし、食べてください」
見事なまでにその場にいる人々をスルーし、わたしの口の中に例のリンゴを突っ込む。切られているとはいえ、大きい。口いっぱいに甘酸っぱい香りと味が広がり、文字どおり口の中はリンゴでいっぱいになった。
なぜかぎゅっとライエの手が強くなった。なんだろう。尋ねようにも口の中が塞がっている。
「ファンダレク卿。なぜここに……」
レイナードはヤグディルの苗字らしい『ファンダレク』に卿をつけて尋ねる。爵位やらなんやらがあるのか。伯爵とか侯爵とか。どうしよう、そんなん日本語訳されてもわからん。侯爵と公爵ってどっちが上だっけ? それ以前に発音一緒!
というか、この人貴族だったのか。全く貴族臭がしないけれど(きらきらオーラみたいな)、そういえば浮世離れはしてる気がする。
彼はのほほんと微笑み、
「ヤグディルでいいですって。私もレイナードとシェロンの爵位や苗字、覚えてないですからねえ」
「いや覚えといてくださいよ」
レイナードの突っ込みが妙に優しい。むしろ疲れている。やっぱり、苗字を覚えていないことはおかしいのか。
「ヤグディル、それよりどうしてここに来た? 先ほどのは答えではないだろう」
格好つけたのにあっさりヤグディルがその空気を壊してしまったからだろうか、妙に仏頂面だ。
レイナードの作りだした空気を壊した。
「大丈夫?」という一言だけで。
「あ、よくわかりましたね。そうなんですよ、一応完成しました。まだ不確定ですけど、使えるはずですよ」
どうぞ、と形ばかりは恭しく手渡された(それでもヤグディルが恭しいこと自体違和感があるけれど)それを受け取って、ライエはわたしの腕にはめる。
「?」
鈍い銀色の腕環。そこから延びる細く細かな鎖が二本と、それを繋げる一個の環。両手で丁寧に薬指にはめ込んでくれる。恥ずかしくなって、指の先に熱が集まる。手の甲に口づけされたときはめまいがするかと思った。
銀色の腕環の中心部には、黒っぽい石がはめ込まれている。見るからに高級そうだ。
「ら、ライエディル様っ! それは――」
陛下じゃなかった。もともと名前で呼んでたんだろうか、親しげな口調だ。ひどく慌てている。それをわたしの両手にはめ、得意げな笑み(わたしのほうからは見えないけど)をレイナードに向けた。
「いいだろう? ヤグディルに作ってもらってたんだ。このままだとユイは一人で何もできないからな」
振り返って嬉しそうな笑みでわたしの手の甲を撫でる。まだ柔らかい指がくすぐったい。
「これは魔力をユイの手に生じさせる装置だ。周りの魔力を吸収して溜める。そうすることで、微弱だが一定の魔力がユイの手を覆うんだ。ランプも点けられるぞ。便利だろう?」
便利だとは思いますがレイナードの目が怖いです。だからといってここでお礼を言わなくても変な目で見られそうだし。
そもそも、わたしが魔力を持たないからこそ、『あの部屋』に軟禁する口実があったわけだ。一人で鍵を開けれるようになったということはわたしを開放するのと同じこと。それを、この王様はわかっているのだろうか。
「……ありがとう。良かった、いつも誰かがいないと何もできなかったから。これって、魔法も使えるの?」
微弱とはどの程度なのだろう。問うとわずかにライエの笑顔が曇った。
「すまないがそこまでの魔力は溜められない。いや、溜められるんだがそのためには魔力を誰かが石に込めねばならん。通常周りにある魔力程度では何もできないんだ」
「べ、別に必要なわけじゃないからいいよ? ちょっとかっこいいなあって憧れがあっただけだから」
レイナードの目が厳しくなった気がして慌てて取り繕う。
……本当だってば。わざわざ王様の加護っていう最強の籠を飛び出すほど愚かじゃない。少なくともこの世界の知識と言葉と何かしらの技量を身につけるまで、出ていく気はさらさらない。異世界召喚なんて最悪の事態だとしても、山をさ迷ったり命狙われたり餓死しかけたりしない分ましなのだ。
「私が魔力を入れればいいんだが、まだその細かい作業は苦手なんだ」
「ううん、大丈夫。どんな感じかなあって思っただけだから」
話変えようよ話。何かないかと視線を泳がせ、ヤグディルの手の汚さが眼に入った。
「や、ヤグディル。どうしたのその手」
わたしの言葉はわからないだろうに、目線と口調で何を言いたいか気づいたのだろう。ああ、と頷いて話を変えてくれる。

あまり、良くない方向に。

「実はですねえ、さっき侵入者を始末してきたんですよ。殺したりはしてないですけど、ちょっと結界に引っ掛かったみたいでちょちょいと。あ、レイナード、尋問官に引き渡したんでお好きにどうぞ。でもできれば、ちゃんと公表して裁判かけて追放してもらえると嬉しいです」
そんな裏事情知りたくなかったです。
勘弁してほしい。レイナードの目線が厳しくなった。もしかしたらそれはヤグディルに対してかもしれないけれど、わたしが何の反応もしないのはおかしな話なわけで。
レイナードの指が宙に何かを描く。わたしには聞き取れない――ライエと触れているのに――言葉を呟いた。その瞬間、彼の手から光が噴き出て宙に描いた文字が輝き、消えた。

ええと。

「ら、ライエ今のなに? あ、それよりライエ戻ったほうがいいよ、侵入者でしょ、危ないよ!」
「大丈夫だ、私は強いしシェロンも傍にいる」
そうじゃないんだよ、ここにいるのは迷惑なんだよ。いくら強くても限度があるのだ。ここがひらけていて比較的周囲の状況を把握しやすいのは利点だが、同時に確実な罠ははれない。そもそも、ライエが来るはずじゃなかったからそれ専用の守りは敷いていないはずだ。
どんなに強くても、状況によって左右されてしまう。
それを、ライエは知らないのか。

王様はどこまで、何を知るべきなのだろう。

わたしが言っていいことかわからないから口を噤む。基本的に事なかれ主義ですからね。代わりに、同じことを英語で繰り返した。『ライエ(こころもちR発音で) should go back』だけだけど、しっかりヤグディルには通じたらしい。
「レイナード、ユイも言ってますしライエディル様をお部屋にお連れしたほうがいいと思います。あれから結界は揺れてないけど――念のため。ハニラヤに連絡しましょうか?」
「それはいい」
なんかいきなり苦虫をかみつぶしたような顔になった。ハニラヤ……さんが苦手なのだろうか? 個人的にそれはとても美味しい情報だ。言葉がある程度通じるようになったら、会わせてもらえるようにそれとなく頼んでみよう。
とりあえず何か言いたげに口を開いたライエを黙らせるべく笑顔を作る。
「ね、皆困ってるしわたしもそろそろ戻りたいから、一緒に部屋戻ろう?」
「一緒か?」
「途中までは。ライエ、勉強中でしょ? ちゃんと勉強してから、会い来てくれたらいい。時間はあるんだから。ちゃんと、起きてるから大丈夫」

わたしの言葉がわからなくてもなんとなく察してくれるガルシアさんとサイガがわたしの行動を見越して片付け始めた。わたしが立ちあがったことでライエも自然と身をひく。
うん、体近いけどね。身体的接触に慣れない典型的日本人としては過度のスキンシップはお断りしたいところだ。ライエの場合、感覚的に小学生の相手をしている気分なのでそこまで拒否する気もしないが。
それとなく手を離して『言葉がわからない状態』を作ってお手伝いをしようとしてみる。予想通りトレシーに怒られて、仕方がなくぬるくなった紅茶を飲む。良い葉を使っているのだろう、ぬるくても結構美味しい。
そして、予想通りレイナードがライエに向かって何か言っている。これが、わたしが知るべきでない事柄なのかライエを単純に怒っているのかはわからない。
それでも、どうやらライエはきっちりわたしとの会話を伝えたらしい。らしいというのは、ライエの言葉はわかるはずなのにいまいち声が小さくて聞こえなかったからだ。魔法でも使っているのかもしれない。ライエの主張を聞いたレイナードがジト目で睨んでくるのでサイガの後ろに隠れてみる。
『……まあ、いいでしょう。彼女が起きている間にしっかり勉強を済ませてください』
了承をもらったらしく喜色満面でわたしに抱きついてくる。
「ユイ、後で行くからな!」
王様が気軽に下々の者に抱きついてよろしいのでしょうか。今さらといえば今さらだが。
「お待ちして、ます」
顔が硬直していたことにたぶん、サイガは気付いた。気付いたからって王様をただの護衛が引き剥がすわけにはいかないから何もしてくれなかったけどさ。
つい敬語になってしまったのでライエが不服そうな顔になるが。
だって後ろのレイナードからブリザードが! いやこれ絶対本物だってむしろ魔法ですかってくらい寒いんですが! あれですか、現代日本でいう『気』がこちらでは魔法でしょうか。
某前世を見る先生(そういえば最近テレビで見ないなあ)を思い出して暗澹たる気分になる。
信じてないとまでは言わないけど、わたし、生まれ変わるなら細菌とかがいい。

ブリザードにあてられてちょっと思考が脱線してしまった。危ない危ない、この世界でいまだ隙を見せることは許されない。

「じゃあまた後で行くからな。絶対、起きてないとだめだぞ」
最後に唇をとがらせて念押し。
……ちょっと胸キュンしてしまったわたしは、ダメ人間ではないはずです。


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