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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
12:脱がせたいなら服を送れ
こちらに来てからほぼ一ケ月たちました。

わたしが今まで読んだファンタジーでは一ケ月もあれば十分にお話が進む。大体、何か問題があってそれが起承転結の「起」になるのだ。それなのに、わたしの「起」はこちらに来ることだけで、「転」までの道のりが果てしない。そもそも、帰ることができるかどうかもわからないのだ。ライエに聞く訳にはいかないし、だからといってヤグディルとの英語会話では細かい話が伝わらない。

シンデレラのようにはいかない。

何せ、言葉がわからないのだ。柔らかい脳細胞(希望。灰色の脳細胞は勘弁)を持つ大学生でも、たかだか一ケ月で流暢に話せるようになるわけがない。
とはいえ、人間必要に迫られたら何とかなるものだ。カタコトで意思疎通ができるようになった。全く言葉がわからなかったらもっと時間がかかったと思うけれど、実際にはライエが訳してくれるし英語で意思疎通を頑張ればヤグディルもいる。
ヤグディル通信講座は非常に便利で、おかげでだいぶ単語量が増えた。ご都合主義だかなんだかわからんな。ご都合主義というにはあまりにも努力が必要なので、仮に帰って誰かに話すことがあったとしても、そう思ってほしくない。これは全てわたしのどりょく。いや、本当に。

ああ、もちろんこの一ケ月ただ語学習得に費やしてきたわけではない。言葉を習得するだけではこの世界では生きていけない。必要なのは、知識だ。
というわけで、ライエにお願いしてこの世界について講義を開いてもらうことにした。これが想像以上にわかりやすくて助かる。

最初のライエの様子を思い出し――ちょっと眉をひそめた。


「私が、ユイに教えていいのか?」
『うん、ライエに教えてほしいな』
最初、提案した理由はライエが頻繁に来る理由づくりのためだった。あれ以来、ちょこちょこ顔を出すようになったのはいいのだが、時間帯が一定していないのが悩みの種。王様が来る以上、何も用意しないわけにはいかないし語学特訓も中断してしまう。でも、ライエは唯一日本語が通じる相手だ。毎日来るわけでもないから、ストレス発散のためにも日本語でぜひ話したかった。
『この国のこと、知りたいけど基本的なところから知らないし。小学生レベルくらいで』
「しょうがくせい?」
小学生という単語が上手く変換されなかったようだった。ちょっと考えてから初等教育、と言い直す。
『もしくは絵本レベル? この国のことも、この世界のことも知らないから。無理かな?』
「私は構わない。むしろアウトプットになって知識が自分の血肉となるからな、いい復習になる」
13歳がそういうこと言わないで下さい。
現役大学生としては耳が痛くなるお言葉だ。そんな熱心な生徒がいたら教授も涙して喜ぶだろう。
「サイガ、わたしはこの国のこと勉強したい。ライエに教えられたい。レイナードに頼む、お願いします」
こちらの言葉で簡単な文章を作り、最後にだめですか、と上目づかいでお願いする自分がきもい。この国の人の身長が総じて高いせいだ、と自分を言い聞かせる。サイガは女の人だし、断じてかわいこぶりっこではない。子供ぶりっこだ。
それはそれでどうよ、と脳内突っ込みが入るが無視。
基本的にサイガは自分の意見を言わない。わたしのお願いを通し、その答えを持ってくるだけだ。だから、答えに対しわたしがサイガに文句を言っても意味がない。
そのせいか、最近はサイガとの関係も極めて良好だ。単に口喧嘩するだけの度胸もないという話だが。喧嘩するような言葉も知らないしね。
「かしこまりました」
了承したからといってサイガが伝えるわけではない。あくまで彼女はわたしの護衛(という名の監視)だから、わたしの傍を離れるわけにはいかない。だと思ってたし、今まではそうだったんだけど。
「アウラファータ、それでは数刻宜しくお願いします」
ライエの護衛が何も言わずにただ頷いたのを見て、サイガはすぐに出ていった。
し、失敗した。
ガルシアさんとトレシーはいきなり現れた王様のための支度中。この部屋にいるのはライエ、とアウラファータのみ。このアウラファータがクセモノなんだ……何度かライエにくっついて来てるのだが、さっぱり読めない。
とりあえず美形。無表情。
美形でがたいがいいおじさんなんて映画の中にしか存在しないと思ってたよ。おじさん、というのも憚られるような威圧感のある雰囲気を持つ。
シェロンは筋肉の付き方がしなやかで、威圧感はあるが背後に控えている分にはさほど怖くない。自分で威圧感を調節できるのかもしれない。
それに対し、このアウラファータは後ろに座っていても怖い。初めてライエと一緒にこの部屋を訪れたときは、びびった。帰った後、背中が汗でべとべとになってしまった。当然着替える時にトレシーに気づかれて、同情したような目で何か言われた。
とにかく、わたしはこの人が苦手なのだ。
そんなことを全く気にしないライエが気づかわしげな瞳でどうした、と尋ねてくるので慌てて首を振る。
大丈夫です、これくらい慣れます。慣れないとライエと一緒にいられないしね。

数刻してサイガが戻ってきた。ライエに触れたままなので、サイガの言葉も理解できる。やっぱりアウラファータの存在に緊張してたのだろう、サイガが戻ってきたとたんほっとする自分がいた。監視とはいえ、サイガはわたしの護衛だし。
彼女はいつもの無表情で淡々と事実のみを伝える。
「陛下のお勉強の邪魔にならない時間帯なら構わないとのことです」
その言葉、どんな顔して言ったか気になるなあ。
「よかった。ありがとう、サイガ。ライエ、よろしくおねがいできますか?」
「ああ。いくらでも、教える」
ちょっとはにかんだような笑顔を不意に見せた。
「ユイに、この国を愛してもらいたいからな」

………………
お姉さん、貴方のそのテクにめろめろになりそうです。

空いている時間は2日に1度、午前のときと午後のときと。結構な頻度で許してもらえたことに驚くが、何か意図があるのかもしれない。ライエは素直ないい子だから純粋に頻度が高いことに喜んでいたけど。自分の疑り深さに時々嫌になる。
「ユイ、いつから始めようか? 今日からでもいいぞ」
『え、教科書とかいらないの?』
「図解はあったほうがいいが、内容は覚えてるから大丈夫だ。それに、最初だからな」
さすが王様。頭の出来が違う。講義についていけるか不安だ。頭の出来がいい人は、出来が悪い人のことを理解できないから。
「ユイはどこまで知っている?」
『……知らないに、等しいと思うよ。ハイランドって国名と由来、あと魔法の簡単な仕組みくらいかな。魔法なんてわたしの世界になかったし』
「そうか。じゃあ、魔法とかの講義から始めたほうがいいのか?」
『さすがにそれは教科書ないと理解できない気が……』
歴史は覚えられても、全く未知の力を理解するのは難しい。
『魔法関係は難しそうだから軽く、後でお願いします』
「わかった」
ちょっと首を傾げてから、また口を開く。問題発言があればサイガやアウラファータから注意されるのだろう、ちらりと横目で確認していた。その間に、もらった紙の束を自作ノートにしたものを開いてペンを握る。万年筆すら持ったことのないわたしにとって、ペン軸に液をひたす形式はとても未知の世界だ。筆よりましだけど筆のが慣れている気もする。
「じゃあ、まずこの国から説明しよう。社会の勉強だな。この国の名前は、ハイランド」
ハイランドと言ったあと、わたしの自作ノートに、この国の言葉で『ヴィラエステル』と書く。たぶん。最初にスペリングは習った。でも読み方は自信ない。
「ヴィラエステル?」
「ああ、そうだ。ヴィラが古代語で『高い』、エステルが『土地』という意味になる」
発音が怪しかったんだろう、ちょっと間があったが説明してくれた。
つまり、『ヴィラエステル』がハイランドと訳されているということか。なんてややこしい。古代語が英語に直されて聞こえてるのか? このあたりは難しそうな魔法問題ぽいからスルーしてしまうことにする。
「ヴィラエステルは、中央大陸ではかなり古い王国のひとつだ。面積はそう広くはないが、『神の山』を有してる。建国者がその山の頂上で王位を知らしめたことに名前は由来する。歴史の古さと『神の山』を有してるからな、現在は休戦中だが一目置かれているぞ」
ヴィラエステルと今度は聞こえた。……まあいいや。必要なのは実践であって研究ではない。
それよりも。
休戦中らしい。
ちょっとアウラファータの雰囲気は怖くなったが、ぎりぎりOKのようで何も言わない。なんてスリリングな講義!
死と隣り合わせ!
思考がちょっと脱線した。
「水が比較的豊富でな、農業と養蚕が盛んだ。今ユイが着ている服も生地がいいだろう? ユイが質素なものがいいと言っていると聞いたから、質のいいものを選んでみたんだ」
ふりふりドレスから簡素な服に変わったと思ったら、ライエが選んでたんですか。確かにとても肌ざわりがいい。庶民のわたしにはいたたまれなくなるくらいだ。
『ライエが選んでくれたの?』
「た、頼んだだけだ。私自ら選んでは、ないぞ」
ちょっとどもって視線をずらした。こころなしか、きめ細やかな頬に、朱が指している。お茶の準備を整えていたトレシーが、話の流れに気づいてこっそり後ろから囁いた。
「服を選んで人に贈るという行為は、告白を意味するんですよぉ。直接的に言えば、貴方の服を脱がせたいっていう意味です」
ああ、なるほど。
ちょっとトレシーを見ると楽しそうにウィンクをくれた。
どうもありがとう。知らないままのが良かったけどな!
『そっか。ありがとう、すごく着心地いいよ。でも、あんまり高級すぎなくていいからね? わたし、元の世界では庶民だから』
話を流してしまうことに決めた。
「う、うむ。あとは、水が豊富だから材木も育つ。逆に、あまり工業は発達していない。農業も主食は盛んだが、果物や野菜はものによるな。魔術もさほど盛んではない」
誤魔化し方は下手だ。それでもどうにか話を元に戻してくれたので、わたしもそれに乗る。
『魔術が盛んとか、あるの?』
「ガザリア皇国は魔術が盛んだな。魔法自体が盛んなこともあって、良い技術を作る。この国は保守的だから全てが入ってきてるわけではないが、ランプの仕組みを最初に作り出したのもあの国だ」
『ま、魔術と魔法は違うの?』
そりゃ訳語が違うけど、何が違うのかわからない。頭が痛くなってきた。あと、こっそりとこの国は保守的と書いておく。これってかなり重要な情報だよね。ガザリア皇国とか。皇国、ってことは宗教的な支配者がトップということか。まあ耳情報だから実は『公国』の可能性もあるけどさ。
「魔法は誰にでも使えるわけではない。魔力が高いものだけだ。先だってレイナードが当然現れてユイもびっくりしただろう? あれは、魔法だ。逆に、魔法を誰にでも使えるようにしたのが魔術だ。この世界では誰しも魔力を帯びている。体を動かす機能でもあるからな。だからユイは使えないが、誰もがランプをつけたり消したりできる。ああいうものを魔導式というんだが」
科学技術がここでは魔術にあたるらしい。それで、魔法が超能力。超能力があるかないかはとりあえず置いておく。
魔導式は――機械式、とでも覚えておこう。漢字面倒だな。絶対、漢字を書くのにこの紙はむいてない。さっきから何度も繊維質がひっかかる。この世界では上質な紙なんだろうけど、平安時代の和紙より質が悪い気がするんだけどなあ。陸奥とかの上質紙だけど。
せっかく水が豊富なのに、そのあたりはいまいちみたいだった。水の豊富さもどの程度かわからないし、蚕と訳されてるけれどまあおそらくわたしの世界の蚕とは全然違うだろうし。
とりとめなく思考を巡らせながら魔導式の魔の字を間略化したりひらがなで書いたり誤魔化してたら、面白そうな目でライエがわたしの手元を追っていた。
汚い字ですみません。突っ込まれると面倒なので先に口を開く。
『何となく、わかった。この国は魔術が盛んではないのね』
「そうだ」
工業は発達していないというのは、魔導式の道具を作るのが発達していないという意味だろう。魔術が盛んでない、がその基礎理論を作るのが盛んではないということ。
ガザリア皇国は魔術が盛ん。つまり、高度な技術を生みだすのが得意ということ。
『じゃあ、工業が盛んな国もあるの?』
「隣のリガータタは盛んだったな」
過去系が気になる。
疑問は置いておくとして、リガータタは、量産品を作るのが得意、という意味でいいだろう。
『ライエは、魔法は得意なんだよね』
「ああ。そうだな、じゃあそのあたりの話もしておくべきか。魔法を使える人間は少ない、という話はしただろう。そうだな――ユイの世界に、剣はあるか?」
『ないことも、ない』
昔ね。今は目にするのは包丁くらいだろう。
「あれと似ていて、才能がある人とない人がいる。さらに、剣裁きが上手いとか――動体視力がいいとかだな。剣以上に、魔法は才能に左右される。どれだけの魔力を有しているかだ」
一度言葉を止めアウラファータを見た。彼は何も言わずにただ目を伏せる。
「私は、国で一番魔力が多い。もともと王族は魔力の多い一族だ。魔力が多いから、王として選ばれた。その中でも一番多いのが私だ。だから、王になった」
重要なことが、語られている気がした。
「次代の王を決めるのは魔力の多さだ。王族の中から、最も魔力が多いものが選ばれる」
目を伏せ、唇をかみしめた。
何かが――
「陛下」
だが、それ以上聞くことはできなかった。サイガがライエの言葉を遮った。それ以上は語ってはならないということだ。
「お茶の準備が整いました。まだ初日です。休憩なさってはいかがですか?」
何かが、霧散した。でも、わたしには追及できなかった。
『そうだね。結構覚えることがあって、疲れたかも。ライエも喋りっぱなしは大変でしょ? 今日のお菓子はトレシー作でね、美味しいんだ。食べよう?』
わたしは逃げた。ライエの目によぎった何かを見なかったふりをした。
小さく頷いたライエにちぎった紅茶の入ったカップを握らせた。
わたしの言葉は、ライエ以外わからないから。
『少しずつでいい。教えてね』
言葉の裏に気づいたかどうか。
きょとんとした顔をしてから――笑ってくれた。

その儚げな様子に思うところはあったけれど。
わたしはただ黙って、カップに口づけた。

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