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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
第一章-6「喧嘩」
ファガルの声がその場に響く。――誰もいないはずの道。


そもそも、彼がこの道を選んだ時点で気付いていた。他に人は通らず、誰も巻き込まないように、人通りのない道を選んでいた。
だからこそ気付いた。ファガルの他、人はいないはずであり気配を感じればそれはおかしい。
「よく気付いたな」
「最初から、気づいていたさ。酒場の時点で俺らを睨んでいただろう」
姿を現したのは数人の男たちだった。酒場にたむろしていた男たちは、どことなく酒気を帯びているが正気を保ってはいるらしい。
「騎士のくせに、こんなところにいたら絡まれるのも当然だろう」
「酒なんざかっくらいやがって」
ふむ、とファガルは軽く頷いた。事実ではある。彼らと騎士は非常に仲が悪い。もともと仕事区分が似ているのだ。彼らの独占的な仕事であったがゆえに、賄賂などが横行した。それゆえ、騎士がさらに彼らを取り締まることとなったのだ。
「ちなみに、彼らはどなたでしょう?」
「軍の連中だな。俺らと仲が悪い」
「なるほど、仕事を巡っての奪い合いですか。羨ましい」
心底羨ましそうな声に、思わず目線を後ろにやった。しみじみと頷く様子は、どうやら本気のようだった。
「……何でそうなる」
「それだけ人手があるってことですから。それより、こっちで会話してたら相手さん怒りますよ?」
速く前を向いて下さいとせっついて、割と強制的に前を向かされる。
気が削がれた。なんか、どうでもよくなってきた。
「お前ら、仕事はどうした」
おざなりに聞くが、男たちは答えない。代わりに中心にいた男が鼻で笑ってまぜっかえした。
「はっ騎士のくせにサボっているお前に言われたくないな」
「それも道理ですねえ」
背後からのんびりした声で同調され、頭を押さえた。
「いちいち、気を削ぐようなことしないでくれないか」
「わかりました」
サイラギは頷きつつ心の中で舌を出した。
都会の人は気が荒いらしい。ちょっとくらい、よそ見したって文句は言われまい。サイラギの領地では、喧嘩の外野で子供がお弁当を食べてることだってあるのに心の狭いことである。
サイラギの心内など知らず、ファガルは一歩前へ出た。
「とはいえ、軍規違反をしてる人間に絡んでこられては、何もしないわけにはいかん。適当にノしてやるからとっと来い」
「てめっなめやがって!」
騎士は軍の階級職と同じくらいの地位、力がある。よって、一兵卒でしかない彼らで勝てる相手ではない。
理性ではわかっているのだろうが、お酒と人数が彼らを後押しした。
「やっちまえ!」
彼らのリーダー格の男の言葉で1人目が斬りかかる。鞘でもっていなし、ファガルも剣を抜いた。ついで別の男を蹴飛ばしながら起き上って再び斬りかかる男の剣を叩き割る。
「わあ、力技」
思わずサイラギは呟く。
刹那、ファガルの左手がしなり、いつの間にか持っていた短剣で、手を組んで魔法を発動させようとしていた男の腕を切り裂いた。
「わああああっ!!」
お酒が入り、興奮していては血のめぐりも速くなる。血が勢いよく噴き出す。魔法をとめる以上の視覚的効果があるはずだ。リーダー格の男はわずかに後ずさる。
――だが、引く気配はない。
はっとファガルは気付く。
「おいっ逃げろ!」
「え?」
気づくのが遅かった。サイラギ自身、のんびりと構えたままで全く戦闘態勢すらとっていなかったのだ。『壁の中』から不意に現れた手がサイラギの首にまわり、サイラギを拘束する。そのまま、その腕の主は姿を現した。
「動くな。動いたら女がどうなっても知らねえぞ」
「……魔導部の奴もいたのか」
軍部は魔法を主に扱う魔導部とそれ以外の兵部に別れる。通常、騎士と仲たがいをするのは仕事区分が被りやすい兵部の連中であり、仕事が被りにくくかつ自分の力に自信のある人間の多い魔導部の兵とぶつかることは少ない。
「あいにく、俺らの仕事もなくてね。この辺りで一緒につるむことが多いってわけさ」
魔導部と兵部も仲がいいほうではないのだが、騎士という共通の敵が彼らの仲を近づけたらしい。敵の敵は味方、愚痴を言うのは騎士のこと、というわけだ。
「形勢逆転って奴か」
にやりと笑ってリーダー格の男が一歩足を踏み出した。
「さあ、どうしてやろうか」
この場をどうにもできないファガルではない。だが、どうするのが最善か。

「あ、じゃあファガル様をぼこぼこにする前に質問よろしいですか」

首元に剣をつきつけられているというのにサイラギは暢気な声を出した。
「は? お前、立場がわかってないようだな。これからこいつをぼこぼこにしたあと、俺らお前をどうすると思う?」
嘲るような口調とともに、首筋にわずかに剣が食い込む。普通の令嬢なら怯えて黙るだろう、だがサイラギは普通ではない。
軍隊といえども所詮魔道部か。剣の使い方が甘いなあ、などと考えつつしれっと答えた。
「そうですね、凌辱するのが一般的なパターンだと思いますが」
男らは目を見開いた。『凌辱』という言葉が貴族の令嬢から出てきたことに驚いたらしい。
「後のことは後でどうにかします。それより、なぜ仕事がないんでしょうか」
「……そりゃお前、騎士に仕事を取られたからだよ」
「具体的には」
淡々とした彼女の口調、身体の自由と生死の決定権を奪われているというのに堂々とした彼女はこの場の空気を全てもっていった。彼らは顔を見合わせ、答え始める。
「この辺りの治安維持は俺らの仕事だった。それを、こいつらが取り上げた」
まともに答える彼らに、逆にファガルが驚いた顔をした。空気を壊さないため何も話せない。
彼らが、『まともな神経』をしていることに驚いた。
そして恥じる。よくよく考えれば一般兵士の蛮行は、元を辿れば単なる領民を徴兵したことが原因なのだ。
(――こいつ)
サイラギの情報は頭に入っていた。だが、実際会うのと文字情報とでは大違いだ。
彼らはファガルへの敵対心を隠さないまま、嘲るように口ぐちに語る。
「戦争の武功も騎士に奪われたしな。実質の王宮内での権力も、軍部より騎士の方が大きいんだよ」
「また今の王が騎士寄りであいつらばかり優遇しやがる」
こっそりファガルは目線を泳がせた。
「おまけに軍部の取り締まりまでやりやがるんだよ!」
「あら。それはおかしいですね。取り締まる側と実行する側が異なる、というのが当初の騎士団設立理由だったのに」
アトラスが騎士であるから、王立騎士団の状況くらい知っている。
「おかしいだろうよ! 騎士団なんて先王が作ったもんだろうが!」
「俺らは戦争に駆り出されて、後はぽいだよ、ばかばかしい」
なるほど、と彼女はひとり納得したように呟いてから続けた。
「とはいえ、騎士を苛めていい理由にはならないわけですが」
かっと彼らは激昂した。
「お前に何がわかる!」
「わかりません。ただ、私闘は法律で禁じられています。ファガルが逃げ切り、注進する余裕もあれば罰されるのは貴方達ですが。まあサボっているので注進しないかもしれないですけどね」
にっこりと微笑む。
「でも、私がいますから。報告しないわけに、いかないんじゃないかなあ」
ファガルに話を向けるとげんなりした顔でサイラギを見つめる。
「お前、火に油を注ぐようなまねを……」
「それはすみません。大丈夫です、貴方の実力ならぼこぼこにされないですよ」
「お前を人質に取られてたらどうしようもないだろう」
「そうですね。じゃあ、サボってたのを内緒にする代わりに、私がここにいることも内緒で。大通りで会って、案内をしてくれたってことにしていただけます?」
話が見えないのは男らだ。
「てめえらっ」
「いいだろう」
彼のセリフを遮ってファガルが首肯した途端――サイラギはスカートをいきなりたくしあげた。
「なっ」
一瞬後ろの男の意識が途切れる。高くあげられたスカートが視界を遮る。
「甘い」
視界を奪われ意識がそれた男のみぞおちに肘をいれ、振り返りざま太ももに装備した短剣を首元に突き刺した。鋭利な先が、壁の石と石の間に突き刺さる。
「邪魔だ」
サイラギの早業に呆けていた男たちの隙を、ファガルはついた。
最初にしかけきた男らには鳩尾に拳を叩きこんで昏倒させ、別の男には足を切りつけて動きを封じる。
「てめえっ」
「悪いな」
男が気付いた時には、ファガルの拳は目の前であった。

短剣を予想外に深く突き刺してしまった。
全員をのした後、サイラギは短剣を抜こうと奮闘していた。まさかこのままにしておくわけにはいくまい。足を壁にかけ全体重で抜こうとして、
「――その短剣はなんだ」
後ろに影が出来た。見上げると眉をひそめたファガルの顔がある。
「ああ、出るとき門番の方にお借りしたんです。魔法封じの腕環と、短剣。ほら、中って基本的に危険物禁止でしょう。だからといって、知らない土地を武器なしに動くのは怖かったので。大丈夫です、ちゃんと後でお返ししますから」
「お前な」
「それより、これ抜いて頂けます?」
ファガルは何かを言いかけて、結局口をつぐんで黙って短剣の柄に手をかけた。
「わあ、さすがですね。すごい」
あっさり抜いたしまう男の筋力を羨ましいと思う。男に生まれたかったと心底思うが、そこは仕方がないというところだろう。
短剣を再び太ももに装着しようとスカートをたくしあげかけたら、ファガルから待ったがかかった。
「待て。ここで、それをするな」
「え、別にあんなにあげないですよ?」
「それでもお前、姫君だろうが」
「とっくに姫扱いをやめている貴方に言われたくありませんよ」
「姫扱いして欲しいのか」
「いえ、全く」
そんなの邪魔である。当然のように首を振る。
「お前を姫扱いとか無茶だろうが……」
「何か言いました? 気にしないでも問題ありません。少しあげないといけませんが、こうやって、ほら」
一瞬の早業である。
「スカートの布を多めにとってありまして、そこに隙間を作るんです。で、そこから出し入れ可能、という訳です」
もう一度やってみせましょうか、とスカートに手をかけたので慌てて止めた。
別にそんなことを要求した覚えはない。
「そうか。まあいい。では行くぞ。待ち合わせだろう」
「そうですね。でも、ちょっと待ってて下さいね。この人たちが目を覚ましてからです」
また何を言い出した、という顔になった。
さっきから予想外のことばかりするサイラギについていけないようだ。
「報復でもする気か?」
「まさか」
サイラギは楽しそうに笑う。その様子がろくでもないことを企んでいるようで、ファガルは顔をしかめた。
「ああ、でも一度に目を覚まされては困りますね。じゃあ、この人とこの人」
言って指差したのはリーダー格の男と魔導部の男だった。
「ちょっと別の所に連れて行きましょう。そのほうが、話もしやすいですしね」
その表情はどう見ても悪ガキのようだ。
「手伝って下さい。さすがに2人も持てませんから」
「……2人とも持つさ」
いくら何でも女性に男を抱えさせる訳にはいかない。軽々と2人とも米俵のように抱え、先に立って歩き出した。
「え、どこ行くんですか?」
「別のところに連れていくんだろう。人通りがないところのほうがいいんじゃないのか」
予想外の気づかいに、ちょっとばかり目を見張って――破顔した。
「はいっ」

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