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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
第一章-8「バリスの民」
バリスの民。
それは、元々この大陸にすむ先住民の一族のことである。

古来、バリスの民とヴィラエステル王国の主だった民であるディアル人は仲良く、とまでは言わなくても自らの範囲を決めて暮らしていた。わずかに交易もあったくらいである。

転機がどこにあったのかはわからない。ただ、最終的に勝利し人数を増やしたのがディアル人だったということである。バリスの民は大陸の奥に追いやられ、あるいは別大陸へと移動した。一部は、ディアル人の中に積極的に溶け込んだ。
今となってはその血もとけこみ、時々バリスの民の特徴が少しばかり出る程度である。
ただし貴族は例外であり、『表向き』は生粋のディアル人である。その点において、平民に対して差別意識をいまだ持つ貴族も多い。

バリスの民の、惣領の血。

ファガルが知らない訳ではなかった。だが、それが一体サイラギにとってどんな意味があるのかまではわからない――王妃品評会に、出る意味が理解できない。
ファガルは黙ってサイラギの次の言葉を待つ。
「なるほど、貴方がどれほど今回の品評会に関わっているのかは知りませんが――相当、深く関わっていらっしゃるんですね」
「悪いが、詳しいことは言えん。ただ、そのうち会うだろうよ」
「アトラスも来てませんよ? 今のところ私たちの前に姿を見せているのは女騎士の方と、封魔の術を持った方だけです。――貴方も、そういった技をお持ちで?」
言外に交換条件を求める彼女にファガルは苦笑した。
「参った。仕方ないな。俺は封魔の魔道士――サリエルのような特殊な魔術を会得してはいない。が、かなり王の近くにいるのでね。王の警護を任されることが多いから、必然的に行くこととなる。もっとも、傍で仕えるというよりは少し遠くから監視することの方が多いのだが」
かなり曖昧な答えだが、サイラギにとってはそれでも十分な情報だ。
「おい、こっちだぞ。そっちが逆だ」
ふらりと別の道に入りかけ、ファガルは慌てて彼女の手首を掴んだ。
先ほどの男たちを撃退したとは思えない程細い手首に驚いて強く掴んでしまった。
「痛いですよ」
「ああ、すまん。だがちゃんとついて来い。方向音痴なんだろう?」
「――う。まあそうなんですけどね……なんかアトラスに似てますね」
ぼそりと呟いた彼女の言葉に足を止めた。
サイラギに全く悪気はない。ただ、思ったことを口にしただけである。
「そんなに似ているか?」
「え? いえ、全く。ただ、私が迷子になると迎えに来るのがアトラスだったんですよね。隣の領地でしたし私が森で迷った場合にどこへ行くかとかどこで遊んでいるとか、そういったことをわかるのが彼だったので――今から考えれば悪いことをしたなあ、と思いますけど」
隣とはいえ、そこそこ遠い距離である。きっと意外に娘に甘いサイラギの父が、頼み込んでいたに違いない。当時はそんなこともわからず、迎えに来た彼を睨むことも多かった。思い出したらちょっと申し訳ない気分になってきた。また今度謝ろう。
(当時はガイウス兄上に憧れてたからなあ……)
ガイウスはアトラスの兄で、サイラギの初恋の相手でもある。忘れているけれど、彼に迎えに来てほしかったとか駄々をこねたに違いない。

ちょっと昔を思い出して浸っていると、急に手首に力が加わり痛みが増す。顔をしかめてファガルを見上げた。
「痛いですってば」
ぎょっとした。なんか怖い顔だ。サイラギは滅多に人を恐れない。それは貴族としての誇り所以、という節もあるが、意地でも恐れを抱かないようにしている。
なのに、彼の雰囲気に気圧された。
今まで何か問題発言をしたかと慌てて思い返す。これで、王に何か不利益なことを告げ口されてはたまらない。
アトラスに似てるということと、彼と仲が良いということくらいか。
一応、アトラスが騎士団の一員であることくらいは知っている。しかも、この間図書館で見た彼らの様子から考えるにそれなりに仲がよさそうだった。似てると思われたくなかったか、もしくは。
不意によぎった考えに、自分の勘ぐりに嫌になる。

――アトラスと仲良くなることで、『私』を王に売りつける口実にすると思われた、とか。

しかしそれでは昔から仲が良いという事実は変えられないか、と思い直す。そもそもアトラスの紹介状でやってきているのだし、彼が騎士団である以上サイラギの情報は筒抜けのはずだ。
だとしたら何に怒っているのだろう。もう一度サイラギは彼の顔を見直した。
「――どうしました?」
「どうもしない」
どうもしなかったらそんな顔してないってば。てか何かデジャブなんだが、いつだったか。
一生懸命思い出そうとしているうちに、再びファガルが口を開いたので霧散してしまった。
「気にするな。ああ、単純に面倒なことを思い出しただけだ。本来の仕事を放り出してきてるからな」
「やっぱりサボってたんですね」
「告げ口するか?」
「いえ、貴方に恩を売るほうを選びます」
さらり、と言う。ふっと腕を握る力が抜ける。にやりと笑うその表情に、先ほど感じた畏怖はもうない。
「なら、恩を買おう。いくらだ?」
「そうですね。とりあえず、王の目的とで」
あっさりと言った。
あまりにあっさりと言われ、ファガルも一瞬何を言われたのかわからなかった。表情を変えない彼女に、呆れたため息をつき改めて向き直る。
「それは等価ではないだろう。俺に王を裏切れと?」
「別に情報を渡すだけでは裏切りにはなりませんよ? 別に私も王妃を狙っているわけではありませんし――まあ、第五夫人あたりなら手を打たないでもないですが。その際は、ぜひ我が領地に国境警備の人数を増やして頂きたいものです」
「それは黙ったおいた方がいいだろう?」
「戯れ言に過ぎないですし」
しれっと答えるサイラギの言葉は、どこまでが本気でどこまでが冗談かわからない。全て本気にすら聞こえる。
「それに、私の目的も多少話したでしょう?」
「――バリスの民、ということか。だがそれはある程度こちらにも入ってきている情報だがな」
サイラギの狙いはわかった上であえて、話に乗る。サイラギもわかっているのだろう、口調を変えずに話を続けた。
「それもそうですね。では、ディアル人の王国であるヴィラエステルに、バリス人の領主がいる――このことの意味は、おわかりですか?」
「さあ、どうだろうな。俺なんかにはわからん上の奴らの意向が働いてるんだろうよ」
ファガルは誤魔化す。
そして、その意味は話を続けろということだ。
(うーん、思った以上に喰えない奴だなあ。人選失敗したかな)
ここまできた以上、後には引けない。絶対に引き込んでやる。引き込むのは無理でも情報だけは手に入れてやる。
決意を新たに、表面上はにこやかに話す。
「アッデライドは特殊なんですよ。隅っこの家柄だからこそ古い。でもそれだけではない――バリスの民を抑えるために、王国が作った枷。それがアッデライドです」
「ほう。それならば、今更こんなところに来る必要ないだろう? それとも、田舎から出てきたくなったのか?」
揶揄するように言うが、目が笑っている。
「まさか。私は田舎の方が好きですよ。人の流れが速くって、私にはやってられません。ただ、枷がゆるんできている、としたらいかがでしょう」
とたん。
ファガルの雰囲気が変わった。
「――ほう。続けろ」
「…………時間がたちすぎてしまったということです。我々だけでは、抑えきれないものもある。そして、我々の本来の意味は既に失われつつある。王のそばにいる貴方が知らないのでは、意味がありません。だとしたら、我々は『我々のために』確実に領地を確保しなければならないのです」
サイラギは続ける。
「別に独立を求めているわけではありません。ただ、現状隣の領地が拡大のために虎視眈々と狙ってるんですよ。その保護を、求めてみようかと。ま、後はあんまりにも中に引っ込んでたんで、現状確認の意味もありますが」
それだけではないが。
これだけでも十分な情報だ。後は勝手に調べればいい。
にっこりと笑って終わりの意を告げる。
「で、陛下の意図はいかがです?」
ここまで手の内をさらしたのだ。ファガルが何も情報を与えないわけにはいかない。嘘をつくことも可能、誤魔化すことも可能。
しかし、今サイラギは『領主代行』として話しているのだ。王と領主はほぼ対等。そして、王の臣下である騎士は領主より地位は下。
かつ、王の側近であることを話した以上、それは『王に言葉を伝えることができる』ということをサイラギに話したようなものだ。だとすれば、それは単なる王妃候補をその監視者の会話という以上の意味を持つ。

サイラギの語りを途中で止めなかったことをわずかに後悔して、ファガルは彼女をねめつけた。
「――嵌めたな」
「何のことでしょう」
本気でそう思ってるらしく、きょとんとした顔をした。
ファガルは深いため息をつく。
彼女の意図を知るため、語らせたのは半ば好奇心であった。今回の王妃品評会において、サイラギはそこまで深い意味を持たない。アッデライドを引きずり出す、という意図はあっても今回嵌める予定なのは別の者たちだ。
「さてな。自覚がない方が意外だが。いや、むしろそのほうが正しいのかもしれんが――」
何やらぶつぶつ言う彼に訝しげな目を向ける。
「どうかしました?」
ふっと顔をあげると急に立ち止まった。腕を掴まれたままのサイラギは急停止する羽目になり、抗議しようと彼を見上げる。
が、その言葉は口から出てこなかった。
「さて、サイラギ様」
「………何ですか」
わざとらしい笑顔でファガルは言った。
「その話はまた後ほど。――着きましたよ」

勝ったのはどちらだったのか。

いつのまにかミリアらがいる宿泊施設兼王都内にあるアッデライド所有の屋敷についていたのだった。

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