FC2ブログ
小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
19:先生、意味がわかりません。
「言葉がわからない?」
繰り返されて、わたしは頷く。

「だからわたしがわからない言葉を伝えたい時は、シロが訳してくれるの」
「それでそいつが……」
何やら納得された。もしかして、シロの特殊能力は外見にも特徴として現れるのか? 少しばかり顔つきを改めてわたしに向きなおってくれた。
「貴族は、平民に政治に参加させていない。だから、国を動かすのは貴族だけだ。ここまではわかるか?」
「わかる」
丁寧だ。すごく丁寧だ。先生の資格ばっちりである。
「さらに、貴族は特権を持つ。法はあるが、越権行為も許される――と、わからないか。そうだな、貴族は法を無視することも許される。理解できるか?」
無視、がよくわからないと正直に告げる。すると、シロが口を開いた。
『無視する』
日本語だ。シロのほうが、日本語習得が早いのが悲しい。
「ああ、なるほど。無視ね。大丈夫、わかった」
「だから、平民は貴族を嫌う。貴族も、平民を同じ国民とみなさない。全員ではないけどな」
付け加えたのは、ヤグディルがいるからだろう。ヤグディルはおそらく彼を差別していない。だから、彼はここに来る。
「教えてくれて、ありがとう。ここにいるのは貴族ばかりだから、教えてくれないの」
お礼を言うと、一瞬顔を赤くしてそっぽを向いた。
「別にお前にお礼を言われても」
うわあ、可愛い。ツンデレだツンデレ。
「大丈夫、わたしは貴族じゃない。平民でも、ないけどさ。でも、やっぱりここは高い物ばかりで居心地が悪い」
苦笑すると、仏頂面で睨んでくる。
うん、照れ隠しだねこれは。もっとつつきたいところだが、話は逸らしてあげよう。
「それより、腕は大丈夫なの? ヤグディル、遅いね」
「痛覚は消してる――痛みは消してるから問題ない。血は止めてある。久々に派手にやったから、応急処置じゃすまないと思ったんだろうな。っと、簡単な治療? 簡単な方法じゃダメだから、丁寧な方法をするために魔道具を探してるんだろう」
うわ、本当にいい人だこの人。
「ごめんね、わざわざ簡単な言葉に直してくれて」
あ、また耳まで赤くなった。
「俺が、話が通じないと困るからだ」
それって、ようするにわたしのためだよね。もっとディアル語が扱えたらつつきたい放題なのに。
よし、がんばろう。
「うん、じゃあ、話をしてくれてありがとう」
何を言えばいいか困ってるらしい。声をつまらせて、目線を逸らした。
やばい、久々にいじりがいのある人間である。楽しすぎる。お貴族様たちは利害関係があるからなあ、彼もないとは言い切れないわけだけど、今のところわたしのことも知らないみたいだし、少しくらい気を抜いても大丈夫だろう。監視もないのだから。
いやいや、信用しきってはだめだけど。ん? でもヤグディルにすら最低限の信頼を持てないなら、どうやって情報を得ればいいんだ?
袋路地の思考回路に陥りかけて、首をふった。
うん、とりあえずヤグディルは信用の方向で。だから、監視もない方向で。それで、監視があったとすればヤグディルの魔力を上回るほどってことで、ってことはそれだけ警戒されてるってことで。すなわち、許可をしたハヴァイスさんを疑う方向で。

理論構築終了。わたしって面倒くさい。

ほっとしてお茶をすすっていると、ものすごい音がした。ヤグディルが入って行った部屋から聞こえたが、いつものことなのでスルーする。戸惑ったように、彼は声をかけてきた。
「いいのか?」
「何?」
「見に行かなくても」
怪我人だという自覚があるのだろう、動くつもりはないらしい。動きでもしたら、後でヤグディルから怒られそうだしね。女の子に見に行かせるのも気が引けるが、という表情だ。
「んー、いつもだから。大丈夫だと思う。貴方と一緒の時は――と、あ」
「何だ?」
「大変なこと忘れてた!」
ここまで話して、おまけに話させておいて。
「ごめんなさい! わたし、貴方の名前知らないです。わたしも名前しか言わなかった。わたしは、ユイ・シラカワ。ヤグディルは『ユイ様』って呼んでるけど、様は好きじゃない。敬語も、いらない」
最初は様付してなかったのに、何でか知らないけど最近は様をつけてくれる。普段の口調がですますじゃないことも知ってるから、やっぱり少し悲しい。
「――俺は」
彼が言いかけたのに、大きな音を立てて扉が開いたから反射的に彼は立ちあがって構えの姿勢を取った。
「いやあ、ごめごめん。最近ユイ様関係の魔法書やら魔道具が多くて、なかなか見つからなかったんだ。こら、ダメだよ立ってちゃ。結構今回の怪我は酷いんだから」
「お前のせいだろ」
反論した彼の言葉を聞かずに、持ってきた複雑そうな機械を彼の傍に置く。
「これが、最新鋭の治療魔道具です!」
何やら嬉しそうだ。取り付けられた文字がたくさん書かれた包帯みたいなものを彼の腕に巻こうとした。
「ちょっと待て、それお前制作か?」
「そうだよ」
「試したのか?」
「今から」
「待て待て、悪化したら困る。実験してからにしろ」
最もといえば最もな彼の言葉に、ヤグディルは首をひねる。
「実験はしたよ? 虫で」
「せめて間に哺乳類挟んでくれ!」
ああ、悔しい。なんか絶対今面白い掛け合いしてる。茶々入れたいのに何言ってるかわからない。『哺乳類』ってなんだろう。実験もろくにしてないのに、彼で試そうとしてるのだけは理解した。
一応、ここは助け舟を出すべきかな。一瞬わたしのほうをちらりと見て、あまり泣きごとは言えないと判断してしまったみたいだし。
「結構酷そうなのに、大丈夫なの?」
「私の発明品に欠陥の文字はありません」
「それはお前にとってだろ。お前の実験道具で酷い目にあってる奴は軍にいっぱいいるんだぞ」
わあ、本当にマッドな方らしい。
「その言い方はないよ。ちゃんとその後きれいに治してるだろ?」
治したからっていい問題ではない。
「ヤグディル、わたし怖いから、できれば普通のでお願いします。見てられない」
「――仕方ないですね、ユイ様の前ですし、ユイ様を引きとめたのは私ですし」
感謝の目で見られた。
うん、結果的に恩を売った感じ?
その後出してきたのは、さっきの機械から包帯だけ取り出したようなもので、服を脱がせて丁寧に包帯を巻いたあとに何事か唱えていた。
ヤグディルが脱がせようとしたときに、ちょっとばかりひと悶着があったことは省いておく。どうせ、女の子の前では脱げないとかそういう話だろう。単語わからなかった。
「これで、よし。あとは自分の治癒力で治るよ。ザイルは魔力も高いからね、治りも早い。ただ、魔力が治療に集中される分、他の部分の魔力が薄くなるから気をつけてね?」
「知ってる。そんな状態でまた嫌がらせされたら、すぐに逃げれないこともな」
経験があるらしく、皮肉気に頬を歪めて吐き捨てる。
うーん、もったいない。そういう顔は似合わない。真面目な顔や恥ずかしそうな顔のほうが素敵だ。きっと、笑った顔も可愛いに違いない。西欧人の18歳位の、まだちょっと幼い顔は笑顔が素敵だと相場が決まっている。フィギュアスケートのフランス代表みたいでちょっと童顔な彼は、日本人顔が好みなわたしにしては珍しく好みだったりする。
『そういう顔は似合わないよ。真面目な顔のほうが、素敵。笑顔はもっといいと思うけど、笑わないの?』
日本語で言うと、きっちりシロが訳してくれた。
みるみるうちに顔が赤くなる。
からかい甲斐がある人だ。
「な、ななな――」
「ユイ様、ザイルは褒められ慣れてないんです。もうちょっと手加減してあげてください」
「うーん、ごめん単語がわからない」
大体内容はわかるけどね。知らないふりして小首を傾げる。
「あのね、それでまだ名前聞いてなかったんだ。ザイル、様?」
「様はいらない」
切って捨てるような言い方にも覇気がない。だが、本人はちょっと気になったようで言い直した。
「ザイルでいい。様付されるような身分じゃない」
「ザイルは軍の兵部のエリートなんですよ」
「サイガとは違うの?」
サイガ、という名前にぎょっとしたように身を引いた。いや、引こうとしてがっちり腕をヤグディルに掴まれていたので実際には少し身じろぎしただけだ。
どうしたのだろう。
「お前、サイガ隊長と知り合いなのか?」
「…………サイガは偉いの?」
サイガにつけられた呼称は聞いたことがない。なんか似たような音は聞いたことあるんだけど、覚えてない。
確か、シェロンが副将軍でその下につく百人隊長がサイガのはず。あれか、大佐くらいか?
中将→少将→大佐、みたいな。だとしたら結構えらい気もする。
「百人隊長の中でも、副将に近いといわれてる凄腕魔導剣士だ。――簡単に言うの難しいな」
手元にあった紙に図を書いてくれる。
「一番上が将軍2名。一将軍につき2名の副将。副将1人につき4名の軍団長。で、軍団長1人につき5人の百人隊長」
将軍の○を2つ、それぞれの○の下にさらに2つずつ、そしてそのさらに下に4つずつ○を書いた。そこからさらに5つ線を引いて、その5つのうちの1つをペンで指し示した。
「これが、サイガ隊長だ。シェロン副将以下は、今、王の警護が仕事のメインだからな。軍の中ではトップクラスの実力軍団だよ」
俺はこっち、と別の将軍の○を指す。
「サイガ隊長がいるのは魔導部。俺がいるのは兵部だから、一番上の将軍からして違う。魔導部は魔力量で実力が決まるから、まだ平民出も多いけど兵部は少ないんだ」
小難しいのにわかりやすい。わたし、この人に先生になってもらいたい。単語はわからないものもあるのに、図が非常に明快なのだ。
とりあえず、王の警護に力入れすぎ。何でだろう、理由ありそうだけど。土木事業とかも、軍部の仕事だって聞いてたのにこれじゃあ人が足りなくなる気がする。
そうやって聞くと、ああ、と頷いた。
「王の警護に、まさか下位の人間があたるわけにはいかないだろ? だから、シェロン副将が権限を握りつつ、実際はミルハーダ軍団長が指揮を取ってる。実際に警護にあたってるのはサイガ隊長と、あああとアウラファータ副将か。ちょっとあの人は例外的だから考えない方がいいな。基本、他の雑務はミルハーダ軍団長以下の一小隊の中で、士官クラスの奴らだよ」
アウラファータ、副将か。例外的ってのがわからないけども。あと、わたしの部屋の警備とかしてたの、士官クラスのエリートさんたちだったのか。
士官クラス、というところで多少口調が変わり目を細めた。
「俺は、さらに下。一番したっぱだよ」
自嘲気味に笑う。
「その若さで副隊長にまでなっていれば十分だよ」
「そこ止まりだろうさ。お飾りに、庶民出の兵部の軍人もいるって示したかっただけだろ」
「そうだけどさ。そこは、それを利用してがんばろうよ」
なんか、ふたりの会話が聞き取りにくい。貴族語が崩れてきてる。これ、平民語なんだろうか。
「それ、平民語?」
ザイルが何か言おうとした途端、わたしがいきなり介入したので息を詰まらせる。
うん、ごめんね。わざと。でも、あんまり自嘲的なこと言ってほしくないんだ。
「混ざってますよ。私も平民語使えますけど、やっぱり微妙ですからね。ザイルも貴族語話さないといけない状況ですから」
「じゃあ、ザイル」
「……なんだ」
改まって言ったからか、ちょっと身構えてる。うーん、そんなに大したことじゃないんだけどな。
「平民の言葉、教えて」
「何でだよ」
何となく言い出すことはわかっていたのだろう、返す言葉は静かだった。
「わたしは、いつまでもここにいられないの。市井に降りても生活できるように、平民語教えてください」

結果から言えば、NOだったわけだけど。
けち。
悔しかったので、サイガとどうして知り合いなのだと聞かれた時には答えてやらなかった。

前へ               「羽ばたきの音」目次               次へ

スポンサーサイト



この記事へのコメント
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://potsprite.blog83.fc2.com/tb.php/84-68058967
文字を大きく・小さく

    FC2カウンター

    最新記事
    カテゴリ
    月別アーカイブ
    プロフィール

    土鍋妖怪

    Author:土鍋妖怪
    生息地:土鍋。
    体長:16cm。
    特徴:本の虫。

    リンク
    拍手
    最新コメント
    最新トラックバック

    メールフォーム

    何かありましたらお気軽にどうぞ。

    名前:
    メール:
    件名:
    本文:

    検索フォーム

    RSSリンクの表示
    ブロとも申請フォーム
    QRコード

    QRコード