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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
21:テンプレ展開は望んでない
時々鬱になるけれど、基本的にわたしは激情にかられて動くことはない。
と、自負していたし物事に対しうまく対処しきれる範囲で動いていると思っていたんだけど。

この展開は予想外です、先生。

確かに町に降りたいとは思ってました。でも、こんな形で町に降りたいなんて思ってません。むしろ帰りたい。
「僕もこんな形で町に出たのは初めてだ。楽しそうだな」
「………ライエ」
楽しげに笑う様子はいつもよりずっと子供らしくて、それはとてもいいことだ。いいことなんだけど!!
「違うぞ、ライアだ」
「ライア様。口調が男の子ですよ」
金髪の美少女はぱっと手で口許を押さえた。
「そうね。気をつける」
心底頭が痛い。なぜ――変装して、ライエと2人きりで町に降りなければならないのだ。しかも、レイナードらに黙って。

話は数時間前にさかのぼる。

「ユイ、町に降りるぞ!」
あいかわらず見目麗しいですね、でもなぜ女の子の格好をしてらっしゃるのでしょうか。
突然現れた美少女に思考停止。なぜか大きな荷物を両手いっぱいに抱えている。まず、どうやってドアを開けたか聞こうか。それとも何で来たのか聞くべきか。
ドアの開け方なんて考えても馬鹿な話だし、できるだけヴィラエステル語を使いたい。言いやすい後者を選択した。
「ライエだよね? 今日は勉強の時間はないはずだよ?」
ライエとは昨日授業を一緒に受けたところだったはず。臨時の授業とかは聞いてない。何より、何となく怪しい。
「課外学習の時間だ」
なぜか自信満々に言い切った。怪しげな箱をその場に置く。魔法を使わなかったらしい。それも怪しい。
どうやら見張りもいないらしい。監視と警護を兼ねて、兵は常駐しているはずだ。一体どういう説明をしているのか、顔を合わせても挨拶することはない。そもそも顔を合わせる機会などほとんどないし、外に出られるのはサイガがいるときだけである。
さらにわたしの部屋を見張っているはずの兵もいない、わずか数分の間を縫うように来ているのだ。ちなみに、その時わたしはシロと一緒にヤグディルからの課題をこなしていたところだった。
「課外、学習?」
「そうだ、町に出て実際に言葉を使ってみよう。平民語に関心があるのだろう? 私は平民語も使える。実際に王宮で使える人は少ない。それに、基本的に身分の高い者がいる場所で平民語を使うことは禁止されているから、ユイが聞く機会はないだろう。ユイも、知りたいんだろう?」
知りたいけども。
知りたいけど、それって何か違う気がする。
「私も練習しておきたいしな」
「……レイナードかハヴァイスさんに、許可とかもらってるの?」
レイナードはライエの教育係だ。少なくとも、彼の許可がなければ何もできない、はず。
「大丈夫だ。それより、変装用の服を持ってきた。ユイも多少顔つきを変えた方がいいだろう。私の傍にいれば、魔力を常に供給できるから多少造作を変えられるぞ」
あからさまに話をそらしやがったこいつ。
「私は女だ。男と女の魔力は違うが、ユイの分も魔力を演出することを考えたら女のものに変質させたほうがいいだろうしな」
何かすごいことを言われてます。えーと、そういう魔法は難しいって聞いてたんだけど。
「シロも?」
「そいつは目立つ」
一刀両断である。
正直、そんな危ない橋は渡りたくない。でもさすが王様というべきか、強引でひとの話を聞かない。
止められそうになかった。下手に止めたら、逆切れしそう。それから何かしでかしてわたしが巻き込まれて――るーぷ。
そんな状態になってたまるか。
とはいえ、暴走気味なライエを止めるのも難しい。
「わたし、1人じゃ服着れないよ?」
「庶民の服は着やすいぞ。シロに手伝ってもらえばいい」
「ライエは?」
「私は魔法で変質させる」
すみません、わたしに抵抗の余地はなさそうです。
余計なことしたくないんだけどなあ、本当。
シロは頭の中を読める。というわけで、テレパシーみたいに伝えてみる。
《シロ、聞こえてる? わたしたちがいなくなってから、レイナードに伝えてほしい。サイガでも構わない。ライエが城下に降りて、『ユイ』も一緒だってこと。あと、シロはわたしの気配辿れる? 何か持ってくから、それたどってほしいの。いい?》
ちらりとシロを確認すると、小さく頷いて鏡台へと向かう。鏡台の中にあるのは、盗られることになかった時計だ。
「これ」
《……これがあれば、気配辿れる?》
ライエに聞かれるわけにはいかないので心の中で確認。厄介だ。シロにあまり知能を与えたら、それこそ可哀そうなことになる気がする。
『アルジャーノンに花束を』のように、なってしまうかも。いやそれならばまだいいけれど――と、また思考がずれかけたわたしをライエが引っ張り戻した。
「ユイ、だからユイは貴族のお嬢様に仕える侍女で、私がお嬢様だ。そのほうが楽だろう?言葉もわからないだろうしな。私の名前をライア・ティアルカとする。ユイはユアンだ」
「お嬢様に、侍女一人でいいの?」
それって危ないと思うし、何より信用されるんだろうか。
「女ひとりよりいいぞ。それに王都の治安は悪くないと聞いている。何かあれば私だって魔法の使い手だ、多少の相手なら撃退できる」
いや、別にそういうわけではなく。そもそも、この国の『治安は悪くない』基準はそこまで高くないと思うんだけどなあ。今まで聞いた話を総合して考えてみると。
誘拐とかされそうだ。
「脱ぐのはシロに手伝ってもらえば良い。着るのはおそらく1人でできるだろう」


改装終了。違う、回想終了。
賑やかな城下町で、あちこちで声が飛び交う。ライエと手をつないでいたら言葉はわかるのでありがたい。
やっぱり、首都なんだろう。ある程度の想像はしていたけれど、やっぱりそれ以上に大きい。ただし東京ほどではない。イスタンブールとかに近いかなあ。イメージだけど。ちょっとごみごみしつつ、それでも精錬された町。大通りに並ぶ店は規制でもあるのかどれも似たような外観だ。建物と建物の間に隙間がない。ヨーロッパの風景を思い出す。
わたしたちがいるところがちょうど繁華街になるのだろう。店も多いし隣に馬車をとめる場所もある。そこで休憩ができるようにか、ちょっとした食堂もあるようだ。今いる場所は治安も悪くなさそうで、高級な感じ。
庶民のわたしにはいたたまれない。
ウィンドーショッピングのように店を覗きながら歩くライエは、ひどく楽しそうだ。こっちは気が気でないというのに、ちょっと腹が立つ。せっかく町に降りたのだから色々情報を仕入れたいのに、ライエがいては何もできない。もちろん、一人では何もできないわけだけどさあ。ライエがいる分、言葉はわかるけど。
活気はあるが、どこかおかしい。綺麗すぎる。文明程度はわからないにしても『綺麗すぎる』ということはそれだけ規制があるということだろう。もちろん、他の町を見たことがないからわからない。勝手に判断してはいけない。
考えるのは帰ってからでもできる。整理は後で。今は、とにかく多くのものを仕入れることだ。
豪華そうな店に入れば揉み手をする店主が近づいてきた。最初はカモ扱いかと思ったが、それにしては対応が違う。普通見知らぬ金持ちのお嬢様(しかも幼い)が来てもそんなに相手にしないだろうに。
さすがライエ。
はっきり言ってオーラが違う。正直に言えば、目立つなお前。下手に目立ってろくなことはないというのに。
高級な通りから少し外れたところに、市がある。見たことがないのだろう、ライエの目が一層輝いた。やだなあ、ああいうところは絡まれやすいしスリにも合いやすいのだ。
「ユアン、あっち行こう!」
「はい」
仕方がない。とにかく警戒しておこう。
演技を忘れないのはさすがと言っていいが、それにしてもはしゃぎすぎだ。
――はしゃげない環境だってことを思うと、大目に見てあげたくもなるのだけど。
ライエの笑顔は今まで見たことがないくらいに輝いていた。わたしの前でもどこか『王様』モードが抜けることなく常に気を張り詰めていたようだったのに、今のライエはどこまでも嬉しそうで子どもらしい。
ライエがそんなにも喜んでくれるなら、ちょっとくらいレイナードから疑われてもいいか、と思ってしまうくらいには。
……うん、いいよね。別に補佐官だし。影に権力ありそうなハヴァイスさんとか噂の宰相とかと違って、多少疑われても大丈夫だろう。大丈夫じゃないけど、どうにか。この間もライエが監視を遮断してくれちゃったから、あの後サイガの目が痛かったんだ――ああ、ヤなこと思い出したよ。思い出せないことにしよう。
わたしだって、適当にしたいときはある。動きたいように動こう。
何よりライエの楽しそうな顔をもう少しだけ見てみたかった。
「ユアン見て見て。これ、綺麗。お守りだよ」
ライエに声をかけられた我に返る。危ない。ちょっと気持ちが飛んでた。王城にいるときとはまた別に、スリに気をつけねばならないから気を抜くわけにはいかない。ライエってば、お金の感覚がずれてるから大きい金額しか持ってきてないんだよね。それしか知らないわけではなく、それしか手元になかったみたいだ。まだ崩してないから、こんな屋台で物を買えるとは思えない。
「何?」
一応尋ねる。高いものかもしれないし――そうだとしたら、崩すチャンスなんだけど。さっき何か買っておけばよかった、と内心思いつつライエの手の中を覗き込む。
ライエが手に取ったそれはお守りの形をしたペンダントだった。おそらく、ライエは普段もっと綺麗で華麗なものを見ている。そんな彼に綺麗だと言わせるくらいには、すきとおった水晶がはめ込まれてたお守りだった。素朴な木彫り細工が繊細だ。
「何のお守り?」
思わずわたしが尋ねると、店のおばちゃんが楽しそうに笑う。
「おや、お嬢ちゃん外の人間かい?」
……まあ発音でバレるだろう。
「ええ。今は、ライア様とともにいます」
仕えてます、と言いたいところだったがあいにく単語を知らない。ごまかして微笑む。
「そうか、外の人は知らんのかねえ。これは、『狼乙女』の紋様だよ」
「『狼乙女』?」
何やら物騒なネーミングである。あ、ちなみにライエと手を繋いだままなので日本語訳されてます。
「そう、安定しているこの国も一度危機に見舞われたことがあってねえ。その時に狼とともに現れた異国の乙女が国を救ったという話だよ」
「へえ」
なんだか壮大な話でわくわくする。危機か。そういえば歴史を学んだときにちらっとでてきたな。
「で、それ以来安全のお守りとして彼女と狼をかたどったモチーフが使われるようになったというわけさ」
説明、短!
「安全のお守りですか」
伝説の聖人なのになんだかチープ感。
「そうだ、ユアンに買ってあげる。ユアン危なっかしいもの」
「え、何言ってるんですか」
それ、ライエには言われたくないです。店主にも聞かれてるから日本語で反論するわけにいかないし、と一瞬つまった隙にすかさず店主が別の品をライエの前に提示する。
「お、気前がいいねえ嬢ちゃん! こっちはどうだい? 小さいお揃いだ」
「お揃い……そっちも買います」
値切りもしないのかい。
慌ててわたしは口を挟む。
「駄目です、旦那さまから使い過ぎてはだめといわれてます」
「だって、ユアンに似合うと思うのだもの。私がずっと守れたらいいのに」
きらきらした目でしょぼんとされてしまったら、いたたまれなくなる。おそらくその思いは本物だろう。ライエはわたしを連れて来てしまったことに罪悪感を持っていて――それでも返したくないと、思っているのだ。
そんなことどうでもいい。今重要なのは、お金である。ライエも金銭感覚を身につけるいい機会だろう。わたしもこの国の貨幣価値なんて知らないけど、大体わかるものだ。
「でしたら――じゃあ、二つを一個分のお金でください」
あああ、もう言葉が使えないのがもどかしい。交渉もろくにできない。
「それは無理だよ、結構高いんだ。原価がかかってるんだ」
「じゃあいりません。わたしは高いものが欲しくないですから」
ライエの手を引いて去る素振りを見せると、慌てて店主は呼びとめる。
「あのねえ、『狼乙女』の祝福の言葉を入れてもらうのにはお金がかかるんだよ。1,8分でどうだい?」
「1,2」
数字だけなら言えます。
「1,6が限界だよ」
「――1,4。ダメなら、買いません」
ライエが欲しがっても、財布のひもを握っているのはわたしだと気付いたのだろう。溜息をついて、仕方ないねえ、1.5と言われた。
ふむ。まあ、妥当なところかな。もっと交渉術があればいいんだけど、今の語彙力なら限界だろう。
「わかりました。ライア様、買ってもいいですよ」

そんなこんなで、今わたしの首にはそのお守りが下がっているが――ライエはわかってるんだろうか? 『外に出たことがレイナードらにバレない』なら、買ってもつけられないということに。
気づいてそうなんだけどなあ。知っててやってるのかな。

まあ、お約束のようにお揃いのペンダントでますますテンションがあがったらしいライエが絡まれるのも、時間の問題と言う訳で。

予想より、早かった。できるだけ、変な道は避けたつもりだったんだけど。

結構高かったので無事に崩せたお金で食事していたら、いきなり酒臭い男たちが近づいてきた。
わたしはため息をついた。
ああ、面倒くさい。
そういうテンプレ展開、わたしいらないし。


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