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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
23:美少女2人に囲まれて天国気分
案内されたのは、応接間だった。結構いい家柄なんじゃないかなあ。古くても品の良い机にソファ、それから暖炉。奥のほうで火が灯っているのがわかる。
なんていうか、やっぱりこの世界の技術基準がわからない。ランプがあっても、暖房器具はないのか。石油がないイメージかなあ。じゃあ風呂はどうやって沸かしていたんだろうって感じだが。

当然のように上座だろう場所にライエは座る。対面式ソファで、暖炉が正面にある方ソファも心持ち豪華そう。年季が入った上等なもののようだ。あまり人が使っていた気配はないけれど、きっちりと掃除されていて重厚な木の机もいい感じに渋みが出ている。
一応、わたしは侍女の立場だから隣に座るわけにはいかないしと、突っ立っていた。
「そっちに座っていいわよ」
ライエが言ってくれた。助け舟ありがとう。
あ、ちなみに脳内変換なのでライエの言葉は『わよ』に聞こえる。注意して『ディアル語』で聞くように心がけると、二重音声みたいになる。で、そうすると実際は別に語尾が女性っぽくなったりしていないことがわかる。
ようするに、この辺りは英語と一緒だよね。動詞の語尾が変化するから、むしろフランス語に近いようだけど。あれだあれ、言葉尻にeがつく感じ。個人的にはほとんど変わらん。
何はともあれライエに提示された通りにライエにできるだけ近い位置の、右側の小さめのソファに浅く腰かけた。
「こんなものしかお出しできませんが」
出されたのは大き目のカップに入れられた見たこともない飲み物。
走ってたからありがたい。ライエが口をつけたのを確認してから、わたしもカップに手を伸ばす。あれ、毒見すべきだった?
……いいや。考えてても仕方がない。サイダー水みたいだ。少し炭酸が入っていて、甘みがある。
喉が潤う。
「ありがとう」
「いえ。こんなものしかお出しできませんで、申し訳ありません」
淡々と喋る。慇懃無礼といってもいい。これが素なのだろう。せっかく美少女なのに、色々と損をしているような気がする。
でもわたしの好みとしてはどストライク。無表情美少女って、いいよね。あー本が読みたい。漫画も読みたい。
一気に飲み干したわたしと、ちょっとずつ減らしてから空にしたライエ。……まずかったかもしれないけど、いいや。うん、だってわたしはライエを抱えてたんだから。
「少々お待ちください」
そう言って、一度引いた後もう一度紅茶と、それから小さなお菓子を持ってきてくれる。今度は熱いダージリン系(匂いより推定)。それから、クッキー系のお菓子が入った籠。
なんて気が利く。
あれだよね、いったん喉を潤してから、熱い紅茶で一息、みたいな。
わたしの感慨をよそに、
「ふうん」
ぼそり、とライエが意味深にうなづく。
何なんだ、いったい。
「ライア様?」
「――何でもないよ。これ、いただくね」
口調がちょっとずつ素に戻ってるけど、ライエが元が美少女にしか見えないから問題ないんだろうな。主人であるはずの彼女は傍に立ったままで、ミルクと砂糖まで持ってきてくれる。
「あの、ありがとうございます。お世話になります。この家の、ご主人は――」
「元は父の所有ですが、現在父はおりません。当主は叔父上ですが、この家のみ私に残してくださいました。ですので、現在この家の主人は私となっております」
た、単語……。
「叔父上? ――ああ、現ヤンジェイル卿かな? 3年くらい前に汚職で失職して、当主が変わったんでしたっけ」
「よくご存じで」
え、貴族なの? この子。
思わず言葉が漏れて、彼女は淡々と言う。
「没落貴族です。お気になさらず」
そう言われても。
困ってライエを見るが、涼しい顔で紅茶を飲むだけで何も言わない。
『なんでライエ、わかったの?』
日本語で聞く。どうせ外国人だと思われているならいいだろう。
「家紋を見れば、わかる。入口にあったでしょう? それに、ソーサーやカップにも紋章は刻まれてる」
「申し訳ありません。勉強不足でした」
へえ、そういう仕組か。侍女らしく殊勝に謝ってから、彼女にも礼をする。ライエは天使のような微笑みを浮かべた。
なんでライエは女の子じゃないのだ! 成長した姿が見たいのに。きっと人に見えないくらい美しくなるだろう。男の子でもなってくれないかなあ。期待できないかなあ。
わたしの内心の葛藤をよそに、口を開く。
「申し遅れました。私はライアネル・ティアルカと申します。助けて頂きまして、ありがとうございます。こちらは従者のユアン。どうぞライアと呼んで下さい」
そっとわたしの手にライア様の手が重なる。違う、ライエだった。
どきどきする。わかってる、彼女の言葉がわかるようにしてくれてるんだろう。すっごく気が利くよね、でもそれ以上にどきどきするんだよね。
わたしは変態か。
ノリツッコミ終了! ……すっごいむなしい。
「リスチェラッタ・ヤンジェイルです。リスチェとお呼びくださいませ。大したおもてなしもできませんが、どうぞおくつろぎください。よろしければ、馬車をお呼びいたしましょうか」
「いえ、構いません。実はお忍びで出て参りましたの。ほとぼりが冷める頃にこっそり帰ります」
ふふふ、と笑う。
天使系美少女(ライエ)とミステリアス系美少女(リスチェ)。
なんて天国!
しかもこのリスチェ……さん? ちゃん? 人づきあい苦手そうな雰囲気がたまらない。

じゃなくて。

――正直、使えそうな子だ。
気の使い方、動き方、ライエの身分への判断。追われている人間を匿うことのリスクを知らないタイプには見えない。そこまでお人良しだとは思えない。
覚えておこう。女の子って政務官でも活躍できるのかなあ。魔力が高ければ軍の魔道部には所属できる。政治関係はわからないし。たぶん、ライエも聞かされてない気がする。だとしたらヤグディルに聞くしかない。それも、言葉がもっとわかればの話だ。

ま、そんなの関係ないんだけどね。
今考えることはただ一つ。
美少女万歳。

わたしの内心がどっかに漏れ出ちゃったんだろうか、ライエがむっとしたように唇を尖らせてわたしを見る。
「ユアン?」
「はい」
見た目ちょっと違うからね、いつもの『完璧天使にしか見えないんですお姉さん困っちゃう』なライエもいいんだけど今みたいなちょっとだけ庶民的なライエも可愛いんだよね。地が良いからなあ。
目に何かが出ちゃったのかもしれない。なぜかと言えば。
「……何でもない」
何やら目元を赤くされて眼をそらされたから。
う、気をつけよう。あっちにいた頃みたいに堂々と「横顔ななめ30度だと鎖骨が美しく見え、かつ手を伸ばしているとちょうど脇の部分が見えてエロい」なんて言わないように気をつけよう。
だめだ、王宮にいないせいか脳内が暴走気味だ。ライエの横顔の顎からクビにかけての細さがたまらないけどそれより肩にかけてのラインが骨っぽいから妙にどきどきするとか、リスチェの無表情かつ冷静な態度にどこか妖しい感じがするのは処女を守るような凛々しく可憐な雰囲気があるからか、とか考えてはいけない。
自制自制。
ああ、だめだ誰かと語りたい。誰か立候補してくれないかなあ。
もうちょっと言葉が堪能になったら、ザイルで遊んでやろう。犠牲者決定。
どうせ王宮に帰ったら元の思考回路に戻ることは確実なので、今は好きに暴走させることにした。自制はするけどね。
「いかがしました?」
「あ、いえ何でもありません。失礼致しました。――ええ」
わたしの躊躇を読み取ったのだろう。リスチェは長い睫毛の瞳を一回、瞬かせた。
「どうぞ、リスチェとお呼びください」
いいのか?
わかりやすく言えば、現代日本で天皇陛下をお名前でお呼びすることは本来非礼にあたる。名前は呪力を持つから、という日本の考え方からきてるとは思うんだけど詳しくはよく知らない。
ここはどちらかといえば欧米系の国だ。ただ、名前に呪力を持つという考えは同じなはず。ローマとかはどうだっけな……忘れてしまった。
わたしがちらりとライエに確認を取ると、小さく頷いてからわたしの代わりに返事をしてくれた。
「リスチェ様。では、もうしばらく滞在させて頂きますね」
「かしこまりました。――ああ、でも申し訳ないのですが」
「何でしょう?」
「もうすぐ、子供たちがやって参ります。こちらまで来ることはないと思いますが、気になさらないで下さい」
「子どもたち? 私たちを助けてくれた子でしょうか」
「はい。近隣の子供たちを集め、お世話させて頂いております。その際に、読み書きなども教えております」
ん?
なんか、ライエの視線がちょっとだけ厳しくなった。
「リスチェ様が、ですか?」
「はい。私もです。人が足りない時は、手伝って頂いております。もともと、父が仕事の合間に始めたボランティアのようなものですし」
リスチェの様子からは、特に問題がありそうには見えない。ライエも何も言うつもりはないらしく、すぐに笑顔に戻った。
「宜しければ、私も覗いても構いませんか? お礼を言いたいのです。小さい子とあまり触れあう機会もないですし」
お前も小さいだろうが。内心突っ込んだ。
ライエって見た目何歳くらいに見えるんだろうなあ。本来の年齢より幼く見えてると思う。それとも貴族の子女のほうが、平民の子供より精神年齢は高いと考えられているんだろうか。
案の定、ちょっと彼女も困惑したようだった。
「ライア様、がでしょうか。――構いませんが、様子を見てからでも宜しいでしょうか」
「ありがとう。ふふ、楽しみ。同年代の子と話す機会ってないんだもの」
ああ、なるほど。
たぶん、ライエにとっては言い訳の1つだろうけど、それもまた真実を指しているように思えた。ライエの周囲には大人しかいない。それがライエにとっては当然で、王様であることを考えたら普通のことなのだろう。
それでも、現代日本で育ったわたしにはひどく悲しいことに思えたから。
だから、ちょっとばかり嬉しかった。
「かしこまりました」

軽く談笑したあと、不意に響いた鐘の音にリスチェは立ち上がる。どうやら子供たちが来たらしかった。放置するわけにもいかないし、という顔をされてしまったので代わりにわたしが立ってライエの給仕をする。
彼女優雅に一礼して足早にどこかに行ってしまった。子供たちを上手く説得できるといい。一時的にでもライエに友達が出来たら、と思う。
結果として、部屋には2人だけで残されることとなった。貴族らしいんだけど、確かに貴族っぽいんだけど――使用人の1人もいないのか? 老執事かむひあ。
わたしの貧困な脳みそでは、そんなテンプレなイメージしか存在しない。
「ライエ、どうかした? リスチェ様のこと気にしてたみたいだけど」
紅茶を優雅に持つ様子は一枚の絵のようだ。わたしの感慨をよそに、ライエはちょっと遠くを見た。
「ん、ちょっと思い出してた。リスチェ様は、前ヤンジェイル卿の1人娘。兄がいたけど、戦争で亡くなってるはず。ヤンジェイル地方の領主で、議員の1人だったんだ。叔父っていうのは、前ヤンジェイル卿の弟。彼も議員をやっていて、僕も顔は見たことがある。面倒そうな人だった。
ただ、汚職で後継者を指定できなかったから、あくまでも次期領主はリスチェ様。前ヤンジェイル卿も上手く立ち回りそうな人だったのに、どうしてこんなことしてるのかなって思ったの」
女の子としての口調とライエ本来の口調が混ざってえらく幼い。どうでもいいか。ただ、すごく可愛い。内容は固いけど。
「ここに、リスチェ様が1人でいることに対する疑問?」
「そう。使用人がいないわけじゃないだろうけど、1人か2人だろうね。しかも自ら働いてお金を稼いでる。教えてるって言ってたのは、おそらく教師をしてるんだ。普通、貴族はそんなことをしない。戯れに前ヤンジェイル卿が教えてたって言ってたけど、たぶんそこは本当だろうけど、実情はたぶん違う。それに先代の1人娘なんて、放置してたら面倒だし多少なりとも利用できるのに」
ライエの口からそういう政治的な発言が飛び出るとちょっと驚く。王様だから当然と言えば当然。
「何でだろうね?」
「気が向いたら、聞こう」
下手なことはしないでね。
年齢から考えれば十分とはいえ、ライエはちょっと空気を読めないところがあるから心配だ。

「お待たせいたしました。彼らも、貴女方に会いたいと――ろくに、礼儀作法も教えてはおりませんので無礼なことも多いとは思いますが」
「大丈夫よ。気にしないわ」
ライエは微笑んで、彼女の後についていった。

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