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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
24:さあ、覚悟を決めましょう
マンションのような建物が並んでいる中で、門と中庭があるこの屋敷はちょっと異質だ。中庭を抜ける回廊を通ったところにちょっとした東屋があった。日本風に言うならね。どちらかというとコテージか? 吹きさらしだけど。いや、屋敷内だから吹きさらしとは言わないのか? その辺りはよくわからない。わからないけど、ライエ単語変換的には吹きさらしなんだろうなあ。わたしのわからない言葉で変換って、されない気がするし。

騒がしい子供たちの声がする。結構な人数がいるみたいだ。近づくと、先ほどの男の子たちが駆け寄ってきた。わたしに。
「あいつらどっか行ったよ! 捨て台詞吐き捨てて出て行った!」
「俺ら役に立っただろー」
「あいつらの顔見ものだった、見せてやりたかったなあ」
わたしに対して口々に言うが、明らかにライエを意識している。
そうだねえ、お年頃だもんね。意識しちゃう相手には話しかけられないよね。
気づいているのかいないのか、ライエもにっこり笑ってお礼を言う。顔が真っ赤になってる男の子たちが可愛い。
でも残念ながらそれは男の子です。
「ほら、席に戻って。休み時間は終わりました」
「お客さんが来たのに!」
「会いたいって言ったのに」
「少しくらいいいだろー先生!」
「敬語を使いなさい」
リスチェの口調が少し柔らかい。子供たちの前だとそうなるのかもしれない。
「失礼致しました」
少しばかりばつの悪そうな口調が萌え。じゃなくて、微笑ましい。
「いえ、とても楽しくていいですね」
ライエは本当に嬉しそうだ。ライエの機嫌が良いとわたしもほっとする。ここである程度足止めを食らっていれば、そのうちレイナードらも迎えに来るだろうし一石二鳥。
「ここで、近所の子供たちに読み書きを教えているのです。お恥ずかしいことに、屋敷を維持する金額を叔父から頂いて入るのですかどうしてもまかないきれないもので」
もっとも半ばボランティアですが、と付け足す。
貴族は民衆のために働く、民衆の盾になる。責任を取る代わりに、ある程度良い暮らしが約束される。
そういうことだろう。意識して実践しているのかは疑問だが、一番重要なことを心得ているように思えた。
今いるのは7人で、5人が男の子、2人が女の子。女の子って何歳でもおませさんだから嫉妬するかとも思ったけど、杞憂だったようだ。ま、比べようもないくらいの美少女顔だし明らかに貴族だからね。
何やら男の子たちが頑張ってライエに話しかけてる。ちょっと迷っているようだったので、わたしから手を離して一礼してみせた。
こっちは気にしないでいいから、遊んできな。
滅多にない――もしかしたら初めてかもしれない――同年代と遊ぶ機会だ、保護者の目を離れて遊びたいだろう。
こっちはこっちで、ちょっとリスチェと話したいしね。言葉が多少不自由だがそれでもだいぶ話せるようにもなったし、リスチェも貴族語が話せるから問題ない。

「リスチェ様、何から何までお世話になってすみません」
「お気になさらず。でも、この辺りでお嬢様と2人きりというのは非常に危険ですよ? 早くお帰りになられたほうがいいと思います」
「でもリスチェ様もこちらに住んでますよね?」
「私は古い家柄ですから」
特に苦笑するでもなく、事実だけを述べたつもりらしい。
「ヤンジェイル地方の、領主の方が住むお屋敷がですか?」
「そうですね。ヤンジェイル家は王都と近いこともあり、親王派だったのですよ。もともとこの国の王の実権は強くありません。ご存じですか?」
『シンノウハ』の意味は後で聞こう。それより重要なことを聞いた。
ここって王権制じゃなかったの? 専制君主制というか、王様が一番えらいルイ○世みたいな国だと思っていた。
「すみません。いまだこの国について知らないことが多いんです」
「さようですか。でしたら私からお話するのは――」
「いえ、私は学びたいと思っています。お嬢様の立場は、あまり良くないんです」
言葉がもどかしい。だが、このように言葉足らずの外国人が付き人であるという時点で察してくれたらしい。軽く頷いてくれた。
うん、良い人。お父さんもおなじようなタイプなら、いい人すぎて失脚したのかもしれない。
「そうですね。王はもともと外国との交渉代理として『言葉を告げる』係であったり、あるいは直轄地の領主でしかありませんでした。魔力の強い家系であったため、神の言葉を抱く者としての役割もあったようです。あいにく、私は生まれていなかったもので伝聞でしか知らないのですが」
言葉、わからねー。
そんな顔してたので、改めて言いなおしてくれた。うーん、庶民に近い貴族だからだろうか、なんとなくザイルに似てる。あっちは貴族に近い庶民か。
「でも、その状況を変えたのが先代の王です」
それってライエのお父さん? もちろん世襲制なら、って条件がつくけど。
「それまでは元老院に権力が集中していました。戦時には権力を集中させておいたほうが都合が良かったからです。しかし、そのために平時でも、元老院を止めることができる機関がなくなってしまいました。ちょっと難しい話になるので、それより前については簡単な言葉で説明できないのですが」
「それはいいです。たぶん、わからないし」
表情は変わってなくても、申し訳なさそうな雰囲気くらいわかる。どうせ正直に教えてはくれないだろうが、とっかかりを知っているのと知らないのとでは大違いだ。
でもちょっと突っ込みたい。
それってなんてえせローマ?
ああ、だからきっと脳内で元老院って訳したに違いない。今までは議会って思ってたもんね。同じ単語のくせに、ちゃんと意識的に言葉の意味を変えられるようになるとは、わたしってバイリンガル。
冗談だけど。今度から『議会』って単語は元老院って訳すことにしよーっと。
戦時や平時ってのはわからない。今は休戦中だと聞いた。リガータタ、だっけ。
ついでに聞いたら頷いた。
「先代王が、元老院を止める役割として自らの地位をあげ、権力を集中させて戦争にあたったのです。我が国の問題のために、本当なら和睦が結べた――戦争を終わらせることができたはずなのに、停戦状態で留まっています」
て、停戦? 今、停戦って言ったよね。言葉の意味的に、『戦争を一時的に停止する』って言ったよね。――終わった、ではなく。
あれか。
朝鮮戦争状態か。いまだに実は戦時中な北朝鮮と韓国的な。だから米軍は駐留するんだよなあ、もっとも引き揚げるやなんや言ってたけど。
帰るまでに、解決してたら面白いのに。あ、でも北朝鮮崩壊はなしで。絶対日本が難民まみれ。そんなところに浦島太郎なわたしが帰っても、絶対職がない。
馬鹿な妄想にひたっているとも思わないのだろう、彼女は淡々と続ける。
「先代王は現王に遺産を残しました」
既に死んでいるのか、先代は。――ライエと、どのような関係なのか。
「国を守る『守護魔法』を保有するのは現王のみです。現王がいるからこそ、戦争は停止状態にある。だから、元老院も王を適当には扱えないし、好き勝手にできないんですよ。――現在、王の年齢が幼いことから、元老院が暴走している状況ではありますが」
手厳しいよリスチェ。それ、初対面の人に言うべきじゃないと思うな。敵を無駄に増やすだけだろうに。
「現王の状況は極めて微妙です。領主を取りまとめた団体が元老院、元老院がバックアップするのが王という制度だったのが、現在では元老院に権力が移行してますから。それでいて、先代の働きで王は無視できない存在となっていますし」
――だから、誰が敵で誰が味方かわからないのだ。
レイナードでさえ、ライエの味方かわからない。ライエは、誰を信じればいいんだろう。
こちらの世界だから孤独で何も信じられないわたしと違って、自分の世界なのに誰も信じられないライエは。
なんて孤独なんだろう。
「ユアン様?」
「何でもありません。ありがとうございます」
「貴族ならだれでも知っていることですから。お気になさらず」
ってことはヤグディルやらあの辺りもわざと黙ってたな。とするとライエもか。
後で問い詰めたい。実際はやれないけど。
「でも、それでは――民衆は、どうなるのです?」
呟いたわたしの疑問に、リスチェの顔色が変わった。
あ、やばい。
だめだ、わたしはこの子に警戒されてはいけない。もしも、これが全て演技で罠だと思われてしまったら。
「どうなるとは?」
ああああ、明らかに警戒してる! どうしよう。ちらりとライエのほうを見るが、なんか男の子たちから貢がれてちょっと楽しそうだ。うーん、腹立たしいやら微笑ましいやら。
「私は、外国人ですし平民ですから。――奴隷なんです、もともと」
ごめんリスチェ。それしか思いつかなかった。
「正確には、平民でした。しかし、奴隷としてつれてこられました。ライア様の付き人となったおかげで、『外国人』としての扱いになりましたが」
確か、これくらいの設定は作れるはず。遠い地から無理やり連れてこられた設定。あながち間違ってもない。
「この国の平民の立場が、気になっていて。明らかに貴族から酷い扱いを受けていて、この辺りの雰囲気もどこかおかしい。この町に来た時から気になっていました。でも、誰も、教えてはくれない」
嘘ではない。嘘をつくのはそこだけで十分だ。わたしの身が持たない。
嘘をつかず、全力で騙し切って見せる。
目を伏せた。
「内緒です。本当はわたし、自由になりたいんです。――帰りたい」
思わずもれた切実な言葉。
帰りたい。
あちらには、わたしを待ってる人がいるのに。きっと。
「大丈夫です」
柔らかい声に顔をあげる。あ、一瞬自分の世界に入り込みかけてた。
「きっと、自由になれる」

ああ、その言葉は。
聞きたくなかった。
大体予想できる事柄に、さらにわたしは泣きそうになる。

わたしは何を相手にすればいいのか。何が敵で、誰が味方なのか。
考えの海に沈みこむ。

さあ、考えよう。全力で、生き抜くために。ライエを守り通さなければならない。ライエを守り、この国を変えて。
――そして、帰るのだ。
覚悟を決めよう。
かけるのはわたし自身。乗るのは壊れそうな船。味方も敵もわからない。どんなに『わたし』が酷い扱いでも構わない。
いくらでも、魔女になってみせよう。

「リスチェ様」
「何でしょう」
わたしは微笑んで見せる。無邪気に、柔らかい笑顔で。
「そのうち、また来てもいいですか」
これは布石。
「――助けて欲しいことがあるんです」
笑って。
「とりあえず、平民語を学びたいんです。貴族語しか知らないと、不便なので」

誰か、わたしを、助けて。
そう叫ぶ心を押しこめて。

――覚悟を、決めた。



「こっちから行けばすぐに大通りに出ます」
「ライア、また来てね!」
「ほら速く来いよ。夕暮れになったら大通りでも危ないぞ」
「俺たちも帰らないといけないしね」
「ライアと、ばいばいやだ」
「急げ、日が暮れる!」

何やら、ライエは人気者になったようです。

見目もそうだけど、やっぱりライエは根っから人に好かれる資質があるらしい。いつのまにやら女の子からも懐かれてるし、さすがである。
男の子3人(1人は早く帰らないといけないらしくて残念そうだった)に案内されて迷路のような道を歩く。
助けて欲しい、と言った後のリスチェの表情が脳裏をちらついた。


「――いいですよ」

「本当ですか?」
「ええ、貴方の言葉にウソはないようです。わたし自身、ある程度地位が高い方々と知り合いになっておきたいので」
企んでいるのはお互い様、ということか。それでも情報を公開するあたりとてもフェアで好感がもてる。
大体、わたしが嘘をついてないとわかるって、何か装置でもつかったのか。それとも自分の嗅覚なのかな。
「お願いします。なかなか、来れないと思うけど……場所、自信ないですし」
「この辺りで私塾の場所を聞いて下さればここに案内してもらえると思いますよ?」
「うわ、すごいですね」
「大したことありません」
心底そう思っている様子で、それがまたすごいと思う。わたしには到底真似できない。

「街を歩くには、女性一人だと心もとないかもしれませんが」

最後に付け加えられた言葉を発したときの、リスチェの表情が脳裏にこびりついて離れなかった。


「どうしたの、ユアン?」
きゅっと手を握られ慌てて意識を外に戻す。うーん、最近こういうこと多いな。疲れているのかもしれない。もともと人と付き合うの得意なほうじゃないしなあ。ここ最近は人と会いすぎだ。
マジで引きこもりてえ。緊張しなくてすむところでぬくぬくと本だけ読んで暮らしたい。
「何でもないですよ」
そんな内心なんて出す気、さらさらないけどね!
「もうすぐ大通りだよ。大丈夫、そっから先」
「大丈夫だと思うわ。帰り方はわかってるもの」
やだなあ、帰りたくない。怖いよ。今更ながらにとんでもないことをしていることを思い出した。
ライエに逆らうなんて出来ないので、お願いだから大目に見てほしい。大体シロをちゃんと残しておいたのに、迎えに来るのが遅い。何やってるのだ。
「ライア様」
「わかってる。私が悪いんだもの、ユアンに何かあったら困るし」
本当にわかってるのか、すごく不安である。
「ライア、また来るよな?」
少年、目の前にいるのは男の子だからね? ついでに結構変装してるからね? 今の美少女でこの反応なら、実際の天使みたいな容貌を見たらどう思うんだろうか。
逆に離れるのかもしれないな。うん、貴族だとわかっていても敬語じゃないあたり、この子はなかなか良い。気にしないライエもさすがだ。
「来れるように頑張る」
「そこは来るって言おうよ! 遊びたくないのか?」
別の男の子のちょっと泣きそうな不安げな声に、ライエは優しげな口調で返す。
「遊びたいよ。でも、嘘はつきたくないもの」
はにかんで微笑む。凶悪なまでに可愛い。
「だって、友達でしょう?」
あ、ちょっと撃沈してる。
がんばれ少年。でもちょっと嬉しそうだ。貴族の女の子から友達認定だし。友達扱いはちょっと悲しいけど嬉しい、といった感じなのかな。
「ほら、大通りに出たぞ」
ガキ大将っぽい少年は落ち着いた様子で案内してくれる。しかし耳が赤い。
うーん、可愛い。青春というより微笑ましい。
「ありがとう。ライア様、道わかりますか?」
「大丈夫。覚えてるわ」
さすがライエ。
男の子たちは送ってくれると言ったけれど、それは丁重にお断りした。勉強中にこれ以上連れまわすのも悪いし、何よりレイナードたちと出くわしたらまずい。逆に、出くわさずに城に戻ってもまずい。
そう思って道で別れた。
「ライア様、楽しかったですか?」
「楽しかったよ! ……ユイは、楽しくなかった?」
名前を戻してきた。口調がちょっと不安そうで、慌てて首をふる。
「いえ、楽しかったです」
「良かった」
「でも、早く帰りましょう。わたし、レイナード様怖いので」
「うん。もう寄り道しない」
ライエはちゃんと約束を守った。どこにも目をやらず、まっすぐに城を目指してくれた。ただ、やっぱりお約束というか。

例の男たちと出くわしました。
こえー。
王道設定、テンプレ。
なんと言おうとそんなもの認めない。


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