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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
25:ぐっどたいみんぐ≒べすとたいみんぐ
うわあー、なんて奇遇。
なんて不運。
なんてテンプレ!
思っても意味がない。とりあえず、言うことは。
「逃げますよ!!」
それだけである。

予想通りわたし自身の足は速くなっている。これはやはり重力が違うのかもしれない。体が軽い。急激に身体能力が、というほどではなくても1,5倍くらいになってるのではないか。
でも、わたしが速くても仕方がない。だからといって、たとえライエが45kgでも30kgのものを持って走り続けるなんて出来ない。それをわかっているのだろう、ライエは口の中で何かを唱えた。
とたん、風が舞う。
「えっ」
「魔法だ。一時的にスピードをあげた。――急がないとな」
わたしを安心させるつもりで笑ってみせたのだろう。滅多に走らないから顔が白くなっているのに、表情からは窺えない。

――シロ。
心の中で呼ぶ。

速く、来て。お願いだから、速くサイガたちを連れてきて――――――!!!

願いもむなしくあっという間に追いつかれる。いくら早くなっていても、道に疎いわたしたちと彼らでは比べるべくもない。じぐざぐに曲がっても、道がわからない。せめて大通りを走ろうと思ったのに。
突然横道から男が現れ急停止。即座に別の道を選択するもすでにそこは塞がれている。

誰もかれもが遠巻きにして、話しかけようとはしない。

わたしたちが、貴族だからか。
この人たちとは人種が違うからか――民衆の、貴族への憎悪。
男たちの目からは、当然のように逃げたわたしたちへの怒りではなくて、何かやりきれないものを含んだどこか狂気を帯びた視線に思えた。

例えば、フランス革命。
例えば、ロシアでの革命。
チューリップ革命。
すでにうろ覚え。
……覚えてるのは、少なくとも全て民衆の力が重視され強くなってきた時代ということだけだ。平等に権利が与えられるようになるのはフランス革命後、しかもあれも一度王制復古がある。
そう考えるとイギリスのような、産業革命による民衆の生活向上が必須。
魔術式を機械式ととらえるならば、すでにその要件は満たしているように思える。産業革命で機械化が進んだことで、都市に人が集まった。貴族が栄えるのは、農業社会でありそこで耕作する人々を統治していたからだ。
――工業化が『地球の歴史』においては貴族の没落の原因。
だとすれば、この人たちは。

「――貴方達は、『貴族』に何を求めているの?」
わたしの問いに、いらだちを隠そうとしない男の拳が背後の壁をついた。振動と風。
そんなの、怖くない。
死ぬかと思ったのは殺気を当てられた時。あの時を思い出せ。あれほど怖いことなんてあるか。殴られたって死んだりはしない。
あ、やっぱ却下。思い出すと怖いので気分だけ。
「何を、だ? お前らが俺らに何をしたよ? はっ奴隷の分際でそんな服着やがって」
服をつままれる。うーん、あんまりいい気分はしないな。

≪―――――ユイ様!!!≫

「わたしは奴隷ではありません」
「解放奴隷か? どっちにしても変わりねえよ、バリスの民が」
バリスの民? 後で聞こう。
わたしの後ろに隠れている(正確にはわたしが無理やり後ろに隠した)ライエがかっとして服をつまんだ男の手を叩いた。
ああああっこんなところで!
「ライア様!」
「お前が触るな! 汚らわしい!」
「何だとっ」
ライエの腕を掴む。引っ張ろうとした手を押さえようとしたのに、いきなり手を掴まれ後ろに回される。
地面に顔を押し付けられた。こんな時なのに、汚いなあと思える自分がちょっとすごい。
「ユイ!」
名前を呼ぶな。
そんなつもりで睨もうとしたけど、顔が動かない。
「はっ貴族のお嬢様がこんなところに来るのが悪いんだぜぇ?」
そこまでテンプレ行動せんでいいわ! つか何でそんなにたむろしとるんじゃ!!
ちょっぴり関西弁モード。
どうしよう。
どうしたらいいかは、わからない。
彼らを『理由なく』処罰させてはいけない。彼らを処罰しては、さらなるしっぺ返しが来る。
彼らを見る街の人々の目を思い出す。あれは、別に汚らわしい者を見る目ではない。誰もが協力してるのだ。きっと、それは。
貴族への反発。
リスチェが助けてくれたのは、きっと彼女も貴族だから。弱い者を助けるのは当然と思っている。子供たちも、同じ。

さあ、わたしはどう動こうか。

状況をちらりと確認すると、何やら罵詈雑言を吐くライエの口を縛っていた。ああ、魔法を使わないようにか。貴族だからといって使えるとは限らないらしいが、ライエはさっき使っていたから。
普段、おそらくあんな目に合うことはないのだろう。だから次のことも想像がつかない。現に今もライエの目にあるのは、おびえではなく怒りだ。
「あのっ」
声を張り上げる。
組み伏せられてからは暴れることなく大人しくしていたから、締め付けが緩んでいたらしい。より強く腕を縛りあげられる。……反抗はしないって。
「何だ犬。いまさら命乞いか?」
あれ、殺される予定? それはちょっと困るなあ。
「犬ではありません。それよりも、逃げてください」
「はああっ? 何だ人間の言葉が使えなくなったのか?」
まあ、突飛に聞こえるだろうなあ。それは自覚してる。
「逃げてください、と言いました」
先ほどから、響く声。

「―――――ユイ様!!!!」

あ、遅かったか。
同時に、頭の中でがんっと大きな声がより響く。
≪大丈夫、聞こえてるよ! ありがとう≫
≪ユイ様っ!≫
うーん、さっきから同じ言葉しか繰り返さない。しかしこんなに大きな声を出せるとは予想外だ。

馬の嘶き、それから唐突に風が吹く。
わたしの上から体重が消えたかと思うと、遠くで激しくぶつかる音がした。
い、痛そう。
「ライエ様、ユイ様! 大丈夫ですかっ!?」
ふっとばしたのはサイガだった。わたしを後ろ手で縛る縄を切りながら尋ねる。
「うん、大丈夫。ありがとう」
思った以上に過激だ。らしいといえばらしい。ライエのほうを確認すると、アウラファータが猿轡を外していた。うん、特に怪我もなさそうで良かった。
問題は、別の方。
「ユイ様。――ご連絡、ありがとうございます」
やっぱし。
何でレイナードが来るかなあ、やっぱわたし対策だからか? 結構忙しそうな人なのに。王様行方不明だから仕方がないと言えば仕方がないけどさ。
底冷えするような笑みと目が恐ろしい。見ていられなくて、サイガの後ろに身体を隠した。さすがのサイガも、わたしの身体を守るように包んでくれる。
「レイナード様。詰問は後にしてください。たった今、ユイ様は危ない目に合われたところなのです」
「レイナード! ユイは私を守ろうとしただけだ。私の我儘に突き合わせたのだ、ユイは悪くない!」
レイナードがわたしに近づくと、ライエがアウラファータをふりきってわたしの前に立つ。
「ライエ様には、後でまたきっちりと罰を受けて頂きます」
「っっ」
一瞬ライエも詰まる。
「それは受ける! その上で言っているのだ。ユイを責めないでくれ。その分の責も私が負う」
なかなかに素敵な言葉ですが、ライエ。
そう思うなら、先に外に出ようとしないで欲しかったです。
「レイナード様」
小さくわたしが呟くと、彼は目を細めた。こっわ!
いや、がんばれわたし。自分の命がかかっているのだ。
息を吸い、次の言葉を発しようとした瞬間。
――気づく。
「あっ!! だ、だめ!!!」
わたしを襲ってきた彼らを、他の兵士が拘束しようとしていた。吹き飛ばされた人も、すでに縄で縛られている。

走り出そうとしたわたしをサイガがはがいじめにする。
「ユイ様!」
「だめです!! それはだめ!! その人たちは、何にも悪くないもの!!」

それは、だめだ。
拘束されるだけならまだいいだろう。
だが、今目の前で繰り広げられている光景は。
「レイナード」
ライエが固い声を出す。
サイガにはがいじめにされたわたしと、ライエを見比べて彼はため息をついた。
「――わかりました。しかし拘束し罰を受けて頂きます。それで、よろしいですね?」
わたしには頷くことしかできなかった。だって、見たくない。

目の前で繰り広げられていたのは、まさしく拘束した彼らに剣を振りおろそうとする光景だった。

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