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小説掲載と読んだ本の感想ブログ。
第一章-9「少女」
「あれは、誰?」
「騎士の人。ここまで送ってくれたんだ」
「ふうん」
ミリアは胡散くさげにファガルが去った方向を睨みつけた。

サイラギは全く頓着せずにさっさと屋敷の中に入っていく。帰り道は自信がないが、ミリアがいれば大丈夫だろう。城まで行けばいいし。
なぜかミリアがついてこないので振り返れば、何やら外に向かって何かを撒いている。
「どうした?」
「聖水を撒いてるの」
そんなにファガルが気に喰わないか。
結構ああいう喰えない奴は好きなんだけどなあ、と内心苦笑しながら「適度にしておきなよ」とだけ言っておく。相変わらず嫌そうな顔は隠さないものの、サイラギの荷物を手に取り後ろにつく。いつものように状況報告を聞きながら屋敷の奥へと進んだ。
「あと、ちょっとお客様がいるの」
「お客様? 別に構わないが」
仕事相手だろうか、と思って聞いても首を振る。珍しく困った顔をしていた。
「………女の子と、その従者」
「……貴族の令嬢か?」
「違うけど。道中を一緒にしていいかって聞かれて、まあいいかと」
王家だったら、そんなことをしたら罰を受ける。
「ミリアがいいと思ったなら、いいよ」
ミリアのことは信頼している。おそらく、その女の子とやらに同情したのだろう。危険人物でもなければ問題ない。
予想通りのサイラギの言葉に、ミリアはほっとした顔をする一方で状況報告のためサイラギの傍についた男は顔をしかめた。
今、妙なことをするわけにはいかない。ちょっとした行動が、王家への敵対行為と見なされれば領地は没収されるのだ。単なる女の子にしか思えないとはいえ、その子が例えば城に侵入した場合責めがふりかかるのは容易に想像できる。
サイラギに関係ないところで処理してしまっていることがいくらでもあるのだ。今回もそのはずであった。少女の、「ごあいさつ、したいです」との言葉さえなければ。
何かあったときのためにサイラギに報告することを選んだが、許可まで出されるとまた困ったことになる。
「サイラギ様」
「――ああ。なるほど。うん、じゃあ私は知らなかったから。挨拶だけしようか」
抗議を込めた彼の呼びかけに、すぐに察したらしい。にこやかに言葉を変える。
「お願い」
彼らが心配しているのはそれだけが原因ではない。
少女が、『白』を身に纏っているからだ。
「こちらにいらっしゃいます」
ミリアに部屋を提示され、サイラギはこっそり耳をドアにあてた。


「遅いね」
「そうですか」
「うん」
足をぶらぶらさせたまま、お菓子と紅茶が用意された部屋でレイナらは待機していた。
「迷ってるのかなあ」
「家までの道で、迷わないと思います」
「そうでもないよー。私、迷うもん」
「私たちは定住してませんよ」
「そうだけど」
レイナはクッキーを口に放り込む。上質のバターの味がした。
「サイラギ様は、迷うと思うの」
「なぜ」
「勘」
「レイナの勘なら、そうかもしれないですね」
「うん」
足をぶらぶらさせて、ソファに寄りかかる。
「クッキー溢しますよ?」
「んー、口に頬張ってるからだいじょうぶ」
「はしたないです」
どこかちぐはぐな会話。彼らの中では成立しているらしい会話は、どこかで破綻していた。
そこに、ノックの音が割り込む。
「はあい?」
「失礼致します。――遅れてしまい、申し訳ありません」
レイナの目に、にこやかに微笑むサイラギの顔が飛びこんできた。

――ああ。
ようやく、会えたのだ。




目に飛び込んできたのは、満面の笑みで立ち上がった真っ白な少女だった。
白。
それは――彼と、同じ色。
「サイラギ、様?」
目に痛い程真っ白な髪と色素の薄い瞳、人形のような立ち姿に対してアンバランスな程に満面な笑みを浮かべ、少女は甘えたような声を出した。
「――どうやらおくつろぎ頂いていたようで」
最初の衝撃をやりすごし、取り繕ったような笑みを浮かべる。
少女が駆け寄ろうとするのを制して自ら近づいた。よく見れば、少女を青年が引きとめているらしい。青年はごくごく普通で、先ほど漏れ聞こえたちぐはぐな会話の片割れとはとても思えない。少女に合わせているのかもしれない。
「うん。クッキー、おいしいね。ありがとう」
「はい、じゃあレイナもういいですよね。行きましょう」
「早いよ!」
訂正。
合わせてなんかいないようだ。
「宿でも決まっているのかな? だとしたら、早めに移動したほうがいいかもしれないね」
「貴方には関係ないですから」
身も蓋もない。
「そんなことないよー。ここまで送ってくれたもん。ありがとうサイラギ様」
「ミリアのしたことだから。好きにしてくれて構わない」
「うん、じゃあ勝手にお礼言う」
少女の方が予想外に常識人である。見た目で判断してしまったことを悔い、認識を訂正する。
「私はレイナ。こっちがカルア。本当はね、サイラギ様のこと知ってたの。それで会ってみたかったのもあったんだ」
「私のことを? それは、光栄だな。何が原因で知られているのか気になるところだが」
「んー、カルアは覚えてる?」
「レイナが気にしてるという人間だけで十分です」
何やら酷く嫌われているような気がする。むしろ、この少女の関心がサイラギに向いたことを拗ねている子供のようだ。
「カルアってばー。忘れん坊でウソツキなんだから。あのね、星に聞いたの」
にっこりと笑う。
星に、聞く。
それは――星を読むということか。天文学者は農業に必須だから、最低限占え収穫を判断できる人物はアッデライド領にも存在する。国にも特別な機関は存在し、彼らは『星読み』と称される。彼らレベルになると、星と会話し予知をすることも可能だという。
「星を読むということだろうか」
「よむの? 私、字は苦手だよ? えっと、なんだろう――また王様が色々しようとしてるでしょ? そこにサイラギ様の星の変革と、すごーくかぶってたから。何かあるのかなって思ったの」
少女は無邪気に言う。
「何をしようとしてたの?」
「――――貴方は」
無意識に言葉が変わる。喉が凍る。
少女の微笑みが視界いっぱいに広がる。
「誰、ですか」
振り絞るサイラギの問いにも動じず、少女は首をかしげるだけだ。
「レイナは、レイナだよ?」
(レイナ………聞いたことは、ないと思うのに)
どこか耳に覚えのある響きに動揺する。
星の変革という言葉と、それから。
頭を切り替える。もし情報が漏れているならば、対策を取らなければならない。彼女しか知らないならば、口を塞がなくてはならない。情報が必要だ。
わずかに一歩前へ進む。レイナは少し驚いた顔をした。
「――では、王の変革と私の企みが重なっているとはどういうことだろうか。王はやはり何かを企んでいて――貴方は、それがわかるのか?」
彼女が何者だかは知らない。偶然か故意かも微妙なところだ。だが、あえて王が彼女を使おうとしているとは思えない。サイラギ程度、王の権力を使えばどうにでもなるはずだし何より彼女に諜報を任せるのは危なっかしい気がする。
それにそれ以上に、危険人物とは思えないのだ。
「サイラギ様は、レイナが怖くないの?」
視界の端でカルアが厳しい顔でこちらを睨みつけている。レイナが泣き出しでもすれば、領主の娘だろうが殺されそうだった。それはそれで、面白い。
面白いだけで行動できないのが悔しいところだ。どこか愉快な気持ちを抱えたまま、サイラギは彼女を真っ直ぐ見つめる。
あえて微笑みを作らず、小さく頷いた。
「情報は全て疑わなければならない、という意味では警戒もしてるよ。でも、怖くはない。なぜ、怖がる必要があるの?」
一瞬、レイナは酷く泣きそうな――それでいて意志の強い表情をした。何かを欲するような表情にも見える。
「そっか……そうだよね、サイラギ様だもんね」
ちょっとだけ笑う彼女は、大人びて見えた。見た目の年齢よりさらに幼い口調なのに、どこか老獪な雰囲気すらする。
「レイナ」
「大丈夫だよ、カルア。うん、レイナ決めた」

心配そうなカルアの手をそっと握り、ふわりと笑う。儚げな様子に、カルアは唇をかみしめる。
どうして、頼ってくれないのか。記憶がどんどんなくなっていくのはわかっている。嘘をついてしまうのもわかっている。
それでも一番レイナのことを想っているのはカルアなのに。

カルアの心情もわかっているのだろう。それでも、レイナはサイラギを見つめた。淡い色の瞳と琥珀色の瞳が交錯する。
サイラギは小さく息を飲んだ。少女の周囲から魔力が影のように立ちのぼり始めたからだ。ゆらめく影は広がり、その場を包み込む。
「貴方の望みを叶えてあげる」
歌うようにレイナは言った。
「貴方は何を望む?」
微笑む。
「貴方の願いを口にして」
立ち上がり、近づく。小さな手がサイラギに触れた。触れられた手の甲が熱を持つ。
「レイナは、レイナ。『白き魔女』。代償は、貴方自身。レイナの望みを叶えてくれる人だから、レイナは貴方が欲しい」
頬に掌が近づく。
「星は提示してる。もう決まってること。だから、レイナは貴方を探した。会えたら、レイナの望みを叶えてくれるって」
純粋な笑顔は悪魔か天使か。
「叶えてもらってばかりだと、悪いから。ね?」


――――サイラギは、口を開いた。


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